β-カロテンやリコピンなど、緑黄色野菜や果物に含まれる色素成分「カロテノイド」は、抗酸化作用や抗炎症作用を持つことが実験レベルで知られています。活性酸素を消去したり、炎症に関わる転写因子NF-κBの働きを調整したり、細胞自身の抗酸化システムに関わるNrf-2という因子を活性化したりする仕組みが報告されてきました。一方で、こうした作用が実際に胃がんのリスクと関連するのかどうかは、疫学研究の間でも結果にばらつきがあり、はっきりしていませんでした。ルクセンブルク健康研究所のFarhad Vahid氏とTorsten Bohn氏は、食事からのカロテノイドとビタミンAの摂取量が胃がんの発症オッズ、そして血液中の炎症・酸化ストレスの指標とどう関連するかを調べる研究をフロンティアーズ・イン・ニュートリション誌に発表しました。

イラン北西部の医療機関で実施された症例対照研究

この研究は2014年12月から2016年5月にかけて、イラン北西部の医療機関で行われました。対象は、診断から1か月以内の新規胃がん患者82人と、同じ医療機関の患者付き添い者から年齢(±5歳)と性別を一致させて選んだ対照95人の、合計177人です。妊娠・授乳中の人や、特別な食事制限をしている人、がんの既往がある人(対照の場合)などは対象から除外されました。食事内容は168項目からなる食物摂取頻度調査票を用いて過去1年間の習慣的な摂取を尋ね、栄養計算ソフト(Nutritionist IV)と米国農務省の食品データベースを使って、総カロテノイド、β-カロテン、α-カロテン、ルテイン、β-クリプトキサンチン、リコピン、そしてビタミンAの摂取量を算出しています。あわせて空腹時採血を行い、高感度CRP、TNF-α、IL-6・IL-1β・IL-10・IL-4といった炎症性サイトカイン、総抗酸化能(TAC)、酸化ストレスの指標であるマロンジアルデヒド(MDA)、脂質プロファイル、ヘリコバクター・ピロリ感染の有無なども測定されました。

カロテノイド摂取が多いグループほど胃がんのオッズが低い傾向

年齢、性別、喫煙、教育歴、婚姻状況、身体活動、がんの家族歴、ヘリコバクター・ピロリ感染、鎮痛薬(NSAIDs)の使用、BMI、総エネルギー摂取量を調整した解析モデルでは、総カロテノイド摂取量(1日あたりのオッズ比0.86)、β-カロテン摂取量(同0.77)、ビタミンA摂取量(同0.29)が多いほど、胃がんのオッズが低いという関連が認められました。実際、胃がん患者群は対照群に比べて、ビタミンA、β-カロテン、総カロテノイドの摂取量、および果物の摂取量が有意に少なかったことも示されています。摂取量を中央値で高低2群に分けた解析でも、β-カロテン摂取量が中央値より多い群は少ない群に比べてオッズが低い結果でした。一方でα-カロテン、ルテイン、β-クリプトキサンチン、リコピンについては、胃がんのオッズとの明確な関連は見られていません。

血液検査の指標を見ると、胃がん患者群は対照群に比べて高感度CRP、IL-6、IL-1β、TNF-α、MDAが高く、IL-10と総抗酸化能(TAC)が低い傾向にありました。さらに調整済みの回帰分析では、総カロテノイド摂取量が多いほどLDLコレステロールとIL-6が低く、ビタミンA摂取量が多いほどTNF-αが低く総抗酸化能(TAC)が高いという関連も示されています。著者らは、IL-6やTNF-αが胃の慢性炎症やヘリコバクター・ピロリ感染による粘膜障害に関わる中心的な因子として知られていることから、カロテノイドの摂取がこうした炎症の指標を介して胃がんリスクに関わっている可能性があると考察しています。なお興味深い点として、リコピンの摂取量が多いグループでは、他のカロテノイドとは逆にLDLコレステロールが高くなる関連が見られました。著者らはこの点について、リコピンの主な摂取源であるケチャップやパスタソースなど加工トマト製品が、脂質や精製炭水化物、塩分の多い食生活を反映している可能性があると述べています。

この研究を読むうえでの注意点

この研究は症例対照研究という手法で行われており、食事内容は胃がんと診断された後に過去を振り返って回答してもらう形式のため、記憶の誤りなどの影響を完全には排除できません。また対象者はイラン北西部の医療機関を受診した177人に限られており、この結果がそのまま他の地域や集団にも当てはまるとは限りません。個々のカロテノイドについては、互いに強い相関があると考えられるため、それぞれ別々のモデルで評価されており、複数の成分を同時に投入した解析ではない点も踏まえて読む必要があります。著者らも、カロテノイドリッチな食事パターンと胃がんの発症との間に逆相関があることを示す一つの証拠と位置づけており、特定の成分の摂取だけで胃がんを予防できると結論づけているわけではありません。

まとめ

今回の研究では、野菜や果物に多く含まれる総カロテノイド、β-カロテン、ビタミンAの摂取量が多い人ほど胃がんのオッズが低く、あわせてLDLコレステロールやIL-6、TNF-αといった炎症・酸化ストレスに関わる指標も良好な傾向にあることが報告されました。これは一つの症例対照研究による知見であり、因果関係を証明するものではありませんが、緑黄色野菜や果物を含むバランスのよい食事が胃の健康を考えるうえでの一つの手がかりになりうることを示唆しています。

※本記事は原著論文の翻訳ではなく、研究内容を独自に解説したものです。参考文献:Farhad Vahid, Torsten Bohn. Dietary carotenoids and vitamin A are associated with lower gastric cancer risk and favorable inflammatory and oxidative stress biomarkers: an incident case– control study. フロンティアーズ・イン・ニュートリション (2026). DOI: 10.3389/fnut.2026.1953378. 原著ライセンス: cc-by.