著者の所属・活動拠点の国は、韓国です。
掲載誌:SSM - Population Health
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の目的:食べる動画は口の健康と関係するのか
「モッパン」は配信者が大量の食べ物を食べる様子を見せる動画、「クッパン」は見た目の良い料理を作る様子を見せる動画です。2009年ごろに韓国で生まれ、今ではYouTubeやTikTokなどを通じて世界中で視聴されています。10代の多くがスマートフォンを持ち、おすすめ機能によって次々と動画が届く環境では、こうしたコンテンツは一部の人だけの趣味ではなく、多くの若者が日常的に触れる「食の環境」の一部になっています。
これまで韓国の研究では、モッパンやクッパンをよく見る若者ほど、不健康な食習慣や高い体格指数(BMI)と関連することが報告されてきました。一方、甘い飲み物などの食習慣は虫歯や歯肉炎の危険因子として知られているにもかかわらず、こうした動画の視聴と口の健康との関係は、集団レベルでほとんど調べられていませんでした。
そこで本論文は、視聴頻度が高いほど歯の痛みや歯ぐきの痛み・出血が多いのか、その関係のどの程度が甘い飲み物、夜食、ファストフードといった食習慣で説明できるのか、そして関係の強さが性別や学校段階などによって異なるのかを検討しました。
10万人を超える中高生のデータを分析
研究チームは、韓国疾病管理庁が毎年実施している匿名の全国オンライン調査「韓国青少年健康行動調査」のうち、2022年と2025年のデータを合わせて使いました。対象は中学1年から高校3年までの生徒(おおむね12〜18歳)10万6005人です。分析では、調査の抽出方法を反映した重みを用い、韓国の中高生全体を代表する推計になるよう配慮しています。
視聴頻度は、過去12か月にモッパンまたはクッパンを見た頻度を一つの質問で尋ねたもので、両者は区別されていません。回答は「見ない」「月3回以下」「週1〜4回」「週5回以上」の4段階に分けられました。口の症状は、過去12か月に歯の痛みがあったか、歯ぐきの痛みや出血があったかを本人が答えたもので、歯科医が診察して診断したものではありません。
分析では、性別、学年、家庭の経済状況、抑うつ症状、飲酒・喫煙経験、歯みがきの回数、デンタルフロスや歯間ブラシの使用といった要因の影響を統計的に取り除いたうえで、視聴頻度と症状の関連を調べました。さらに、その関連のうち甘い飲み物、夜食、ファストフードの頻度を通じて説明できる部分がどれくらいあるかを統計的に分けて推定しました。
主な結果:よく見るほど症状の報告が多かった
対象者の67.8%が過去12か月に少なくとも時々モッパンやクッパンを見ており、37.5%は週1回以上、11.1%は週5回以上見ていました。歯の痛みを報告した割合は、見ない生徒の18.4%から週5回以上見る生徒の24.8%へ、歯ぐきの痛み・出血は15.8%から21.1%へと、視聴頻度が高いほど段階的に増えていました。
さまざまな要因を考慮した後でも、視聴頻度が高いほど症状の報告が多いという「用量反応」型の関連が見られました。見ない生徒と比べた歯の痛みのオッズ(起こりやすさを表す指標)は、月3回以下で1.12倍、週1〜4回で1.14倍、週5回以上で1.21倍でした。歯ぐきの痛み・出血では、それぞれ1.13倍、1.16倍、1.22倍でした。スマートフォンの使用時間、睡眠時間、ストレス、歯科受診などをさらに考慮しても、関連はわずかに弱まるだけでした。
食習慣を通じた部分を分けて推定すると、週5回以上見る生徒と見ない生徒の差のうち、歯の痛みでは約30%(29.6%)、歯ぐきの症状では18.0%が、3つの食習慣を合わせた経路で説明されました。このうち統計的に意味のある寄与を示したのは甘い飲み物と夜食で、ファストフードを通じた経路ははっきりしませんでした。甘い飲み物と夜食のどちらの寄与が大きいかは計算方法によって入れ替わったため、論文はどちらか一方を重視しないとしています。また論文は、ファストフードの結果は虫歯への影響が小さいことを示すものではなく、未解決と考えるべきだと述べています。
関連の強さには集団による違いもありました。歯の痛みとの関連は女子(1.35倍)で強く、男子(1.05倍)でははっきりしませんでした。また中学生(1.32倍)の方が高校生(1.14倍)より強い傾向でした。一方、歯ぐきの痛み・出血との関連は、調べたどの集団でも同程度でした。抑うつ症状や家庭の経済状況による違いは確認されませんでした。
この研究が示すこと
この研究は、韓国の中高生全体を代表するデータで、モッパンやクッパンをよく見る若者ほど歯や歯ぐきの症状を報告しやすいことを示し、その一部が甘い飲み物や夜食の多さと結びついている可能性を示しました。著者は、デジタル上の食の環境を若者の口の健康に関わる要因として位置づけた初めての全国代表研究だとしています。
ただし、ある一時点の調査であるため、動画視聴が症状の原因であるとは言えません。もともと甘いものを好む若者が食べる動画に引き寄せられている可能性もあり、食習慣を通じた割合も因果の仕組みを確かめたものではなく、統計的な分解として示されています。症状は自己申告で、診察による診断ではない点にも注意が必要です。
個々人で見た関連は約1.2倍と控えめですが、視聴が若者の間に広く浸透していることから、論文はデジタルの食環境を、若者の口の健康を考えるうえで検討すべき対象の一つとして提示しています。
原著論文の著者・所属:Seon-Jip Kim(Department of Dental Hygiene, College of Health Science, Dankook University, 119 Dandae-ro, Dongnam-gu, Cheonan, 31116, Republic of Korea)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Seon-Jip Kim. Mukbang/Cookbang viewing and adolescent oral symptoms: A nationally representative analysis of social patterning in South Korea. SSM - Population Health 2026-08-09. DOI: 10.1016/j.ssmph.2026.101959. 原著ライセンス:CC BY.