著者の所属・活動拠点の国は、インドネシアです。

掲載誌:Manajemen dan Pariwisata

ライセンス: CC BY-SA 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

「配られたのに一度も押されない」スタンプカード

飲食店がスタンプやポイントをためると特典がもらえる「ロイヤルティカード(ポイントカード)」を配るのは、常連客を増やすためのよくある工夫です。しかし、カードを受け取った客が実際に使うとは限りません。研究チームは、インドネシア・バンドンのコーヒーショップ「Memanja Rasa」を対象に、カードの利用がなぜ低いのかを調べました。

この店のカードは、1回の会計が15万ルピア以上のときにスタンプを押す仕組みで、特典にはウムラ(メッカへの小巡礼)や携帯電話が用意されていました。著者らによると、調査に回答した客76人のうち半数がカードを持っていましたが、2026年3月から6月にかけての現場観察では、スタンプが押された例は一度もありませんでした。研究の目的は、この「受け取られるのに使われない」状態を生む要因を明らかにすることです。特に、客がどこに住んでいるかが果たす役割に注目しています。

アンケートと現場観察を組み合わせる

研究チームは、数値データの分析と、現場での質的な観察を順に組み合わせる方法をとりました。客へのアンケートでは、サービスの質、顧客関係管理(CRM:店が客との関係を築き保つための取り組み)、そして再購入の行動を含む「顧客ロイヤルティ」を尋ねました。そのうえで、これらの関係を統計的に分析し、カードの有無による違いや、居住地とカード所持の関係を集計しました。

あわせて、研究者自身が店の日常業務に加わりながら観察し、カードが実際にどう扱われているかを記録しました。

主な結果:サービスの質、居住地、そして「押されないスタンプ」

分析の結果、論文はサービスの質が顧客ロイヤルティに統計的に有意な影響を持つと報告しています(オッズ比19.67)。一方、CRMはロイヤルティとの相関自体は非常に強かったものの、サービスの質と同時に分析すると有意な説明力を示しませんでした。著者らは、より強い要因であるサービスの質が説明の大部分を担ったためだと解釈しています。

居住地別に見ると、著者らが「地理的な逆説」と呼ぶ傾向が現れました。店に最も近いバンドン在住の客のカード所持率は4.8%(21人中1人)にとどまりました。これに対し、ジャカルタ在住では73.7%、デポック在住では83.3%と、遠方から来る客のほうがはるかに高い割合でカードを持っていました。

カードを持つ客は持たない客より、再購入を含むロイヤルティの得点が高いことも示されました。それでも、カードを持つ客がスタンプを押した例は観察されていません。著者らは、スタンプがないことを再購入がないことと同一視してはいけないと強調しています。スタンプには1回15万ルピア以上の会計が必要なため、それより少額で何度も通う客は、来店回数がスタンプとして記録されません。来店の頻度と特典の蓄積が、制度の設計上切り離されているというのが著者らの説明です。

観察では、スタンプの公式な記録がないこと、スタッフが定期的には押印を客に促していないこと、特典や条件の説明が一貫して伝わっていないことも確認されました。ただし著者らは、この観察は1人による逸話的な記録で、店の公式データで裏付けられていないため、初期的な手がかりとして扱うべきだとしています。また、客ごとの実際の取引データは得られておらず、カード所持者が条件額未満の買い物をしていたかは直接確かめられていません。カード所持者が、カード導入前からもともと常連だった可能性も残ると述べています。

「配った枚数」ではなく「使われ方」を見る

著者らは、カードの利用が低い要因を四つに整理しました。一つ目はプログラムの設計で、特にスタンプの条件となる金額が最も大きな構造的要因です。二つ目は客の特性で、居住地、もともと熱心な客ほどカードを受け取りやすい偏り、好意的な気持ちが行動につながらない「態度と行動のずれ」が含まれます。三つ目は運営面で、利用状況の把握、スタッフへの動機づけ、制度の周知が挙げられます。四つ目は状況的な要因で、競合店や来店のパターンです。

研究チームは、カードを受け取っても使わない状態を「象徴的な採用」と名付けました。この研究が伝えるのは、ポイントカードの成否を何枚配ったかで判断すると、実態を見誤りかねないということです。また、特典の条件が客の普段の買い方と合っていなければ、スタンプの数は再購入の実態を正しく映さない、という点も示しています。

原著論文の著者・所属:Muhammad Rivaldi Mandini Nugraha(Sekolah Tinggi Ilmu Ekonomi Pariwisata - Yapari)、Adrian Agoes(STIEPAR YAPARI BANDUNG)、Septy Indrianty(Sekolah Tinggi Ilmu Ekonomi Pariwisata - Yapari)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Muhammad Rivaldi Mandini Nugraha, Adrian Agoes, Septy Indrianty Determinan Rendahnya Utilisasi Kartu Loyalitas pada UMKM Kuliner. Manajemen dan Pariwisata 2026-10-30. DOI: 10.32659/jmp.v5i2.736. 原著ライセンス:CC BY-SA 4.0.

本紹介記事の文章(題名・見出しを含む)は、CC BY-SA 4.0で提供します。原著論文をもとにNutriMap Japanが日本語で要約・説明を加えています。対象は本紹介記事の文章に限り、ヒーロー画像・サイトのロゴ・画面デザイン・他の記事・データベース全体は含みません。