著者の所属・活動拠点の国は、スイス、フランスです。
掲載誌:Frontiers in Plant Science
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
天気予報に、病原体の情報を加える
ブドウのべと病やうどんこ病を防ぐには、感染が起こる前の殺菌剤散布が重要です。その判断には主に気象に基づく予測モデルが使われていますが、結果として不要だった散布もあります。研究チームは、空気中の病原体の胞子を継続的に測ることで、散布の必要性や時期を判断するための情報を補えるか調べました。
研究で組み合わせたのは、光の干渉模様から粒子の特徴を捉えるデジタルホログラフィーと、胞子を見分ける人工知能(AI)です。装置による検出を遺伝子の測定法と比較するとともに、ブドウ畑で散布判断に利用した事例を検討しました。
胞子の増減を光で追う
装置は空気を取り込み、含まれる粒子を回転するサファイア製の円盤に集めます。そこにレーザー光を当て、粒子によって散乱した光と基準となる光がつくる干渉模様をカメラで記録します。AIはその画像から、べと病とうどんこ病の病原体の胞子を識別します。空中を飛んでいる粒子を直接撮影するのではなく、円盤上に集めた乾いた粒子を調べる仕組みです。
研究チームは、2024年のブドウ畑で、この装置と、採取した試料中の病原体のDNAを測る定量PCR法を比較しました。採取期間をそろえた71組のデータでは、両者の相関係数はべと病で0.68、うどんこ病で0.45でした。測定値そのものは一致しませんでしたが、胞子が少ない時期や大きく増える時期など、季節を通じた変動は似ていたと報告しています。
著者らは、この比較を胞子数の絶対値の一致ではなく、時間的な増減を確かめるものと位置づけています。光学的な方法は胞子の形を識別する一方、定量PCR法は生きていない胞子や菌糸の断片に由来するDNAも検出するなど、両者が捉える対象には違いがあります。
畑での散布判断に使った結果
フランスのブドウ畑では、2021年に継続観測を行い、2022年には胞子の測定情報をべと病の防除判断に取り入れました。2022年の観測区画では、同じ農園のほかのメルロー区画より殺菌剤の使用が30%少なく、収穫量と品質は同程度だったと研究チームは報告しています。ただし、年によって天候と病気の発生しやすさが異なるため、年をまたぐ比較は、この管理方法だけの効果を測る対照実験ではなく、実際の営農条件での事例として示されています。
この運用には人による確認も含まれていました。2021年と2022年に確認したAIの検出結果のうち、約15~25%は修正が必要でした。それでもAIの支援によって解析が速まり、2022年には1日2回、更新した情報を散布判断に提供できたとしています。
スイスの試験畑では、うどんこ病に対する散布時期の違いも調べました。著者らは、胞子が少ない時期の初期の散布を省いた区画では、シーズン終盤の発病に統計的に有意な差が見られなかった一方、最初の明瞭な胞子のピーク後に行った6月7日の散布は、その後の防除に重要だったと報告しています。この試験は区画を生物学的な反復として設けておらず、結果は散布判断と病気の推移を記述するものとして解釈されています。
必要な時期を見極めるための情報
論文が示すのは、気象条件だけでなく、病原体が実際にどれほど存在するかを知ることが、殺菌剤を使う時期や、個々の散布を見送る判断の助けになり得るということです。著者らは、この仕組みを栽培者の経験や既存の予測モデルに代わるものではなく、それらを補う情報源と位置づけています。今回の事例は、散布回数を一律に保つだけでなく、胞子の増減に応じて重要な防除時期を捉える意味を伝えています。
原著論文の著者・所属:Tessa Chiara Basso(Université de Genève, Applied Physics, Geneva, Switzerland)、Sara Leoni(Agroscope Changins, Mycology Group, Research Department Plant Protection; Université de Genève, Institut des Sciences de l’Environnement)、Denis Ullmann(Université de Genève, Applied Physics, Geneva, Switzerland)、Adimulya Kartiyasa(Université de Genève, Applied Physics, Geneva, Switzerland)、Livio Ruzzante(Agroscope Changins, Mycology Group, Research Department Plant Protection)、Sylvain Schnée(Agroscope Changins, Mycology Group, Research Department Plant Protection)、Anne-Lise Fabre(Agroscope Changins, Mycology Group, Research Department Plant Protection)、Steven Hewison(Chateau Le Puy, Saint-Cibard, France)、Jérôme Kasparian(Université de Genève, Applied Physics; Université de Genève, Institut des Sciences de l’Environnement)、Nicolas Berti(Université de Genève, Applied Physics, Geneva, Switzerland)、Pierre-Henri Dubuis(Agroscope Changins, Mycology Group, Research Department Plant Protection)、Jean-Pierre Wolf(Université de Genève, Applied Physics, Geneva, Switzerland)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Tessa Chiara Basso, Sara Leoni, Denis Ullmann, et al. Smart agriculture using digital holography and artificial intelligence. Frontiers in Plant Science 2026-09-24. DOI: 10.3389/fpls.2026.1871510. 原著ライセンス:CC BY.