日本主導:この研究は、筆頭著者・責任著者、または著者の主要所属が日本の研究機関である研究です。
掲載誌:npj Science of Food
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
豆腐や大豆ミートなど、大豆タンパク質を使った食品は加工の過程でしばしば高温にさらされます。100℃を超える高温処理は殺菌や食感づくりに欠かせない工程ですが、こうした熱がタンパク質としての栄養価にどう影響するのかは、実はあまり詳しく分かっていません。今回紹介する研究は、大豆から作られた分離タンパク質(SPI:soy protein isolate)を121℃の湿熱で処理し、その栄養面と、マウスを用いた行動面への影響を調べたものです。
121℃で20分加熱すると何が起きたか
研究チームは、大豆分離タンパク質を水に入れた状態で121℃で20分間加熱処理しました。その結果、タンパク質に含まれる窒素の量そのものはほとんど減らなかった一方で、アミノ酸の多くは加熱によって有意に減少していたということです。さらに、この加熱処理されたタンパク質を人工的な消化液で消化させる実験(in vitro消化)を行ったところ、水に溶けない不溶性タンパク質と、消化されずに大きいまま残る可溶性ペプチドが、未処理のものより増えていたと報告されています。
実際にこの加熱処理済み大豆タンパク質をマウスに与えたところ、血液中の遊離アミノ酸の濃度が低下していました。これは、タンパク質が体内に吸収されて利用される割合(生物学的利用能)が下がっていることを示す結果だと説明されています。つまり、高温での加熱処理によって、タンパク質としての「使われやすさ」自体が損なわれている可能性があるということです。
長期的に与え続けたマウスの行動はどう変わったか
研究チームは、この加熱処理済み大豆タンパク質を主原料としたタンパク質20%の餌を、マウスに長期間与え続ける実験も行いました。その結果、初めて出会う個体を認識し区別する「社会的新奇性認知」と呼ばれる行動が損なわれていたことが観察されています。また、血液中の末梢セロトニン濃度も低下していたということです。一方で、不安に似た行動や、物への近距離での探索行動、他個体への社会性そのもの(sociability)、そして血中のトリプトファン(Trp)濃度には、明確な変化は見られなかったと報告されています。
セロトニンは気分や社会行動に関わる神経伝達物質として知られ、トリプトファンはその材料となるアミノ酸です。今回の結果を受けて研究チームは、高温処理によって糖とアミノ酸が結びつくメイラード型の反応生成物や、構造が変化したペプチドが生じ、それらがトリプトファンの代謝や社会行動に何らかの影響を与えている可能性がある、という見方を示しています。
この研究をどう受け止めればよいか
この研究は大豆分離タンパク質という特定の食品素材を、121℃・20分という特定の条件で加熱した場合について調べたものであり、日常的な調理や一般的な大豆加工食品すべてに同じ変化が起きると確認されたわけではありません。行動面の結果もマウスを用いた実験で得られたものであり、そのままヒトに当てはめられるとは限りません。あくまで一つの研究であり、結論が確定したわけではない点に注意が必要です。なお、この研究には奈良女子大学や奈良県立医科大学、京都府立大学、京都大学など日本国内の研究機関に所属する研究者が参加しています。
まとめ
大豆分離タンパク質を高温で処理すると、窒素量はほぼ変わらないもののアミノ酸レベルは減少し、消化されにくい成分が増え、体内でのアミノ酸利用のされやすさが下がることが示されました。さらに、そうした加熱処理済みタンパク質を長期的に摂取したマウスでは、社会的新奇性の認識や末梢セロトニン濃度に変化が見られたと報告されています。食品の加熱加工がタンパク質の栄養価だけでなく、思わぬ形で生体機能に関わる可能性を示す基礎研究として位置づけられます。
原著論文の著者・所属:Tomoko Asai(Department of Food Science and Nutrition, Faculty of Human Life and Environment, Nara Women’s University, Nara, Japan)、Takayo Mannari‐Sasagawa(Department of Anatomy and Cell Biology, Nara Medical University, Kashihara, Japan)、Yuichi Yabe(Department of Food Sciences and Nutritional Health, Kyoto Prefectural University, Kyoto, Japan)、Mami Yamada(Department of Food Science and Nutrition, Faculty of Human Life and Environment, Nara Women’s University, Nara, Japan)、Hitoshi Takamura(Department of Food Science and Nutrition, Faculty of Human Life and Environment, Nara Women’s University, Nara, Japan)、Noriko Horii‐Hayashi(Department of Anatomy and Cell Biology, Nara Medical University, Kashihara, Japan)、Satoshi Mochizuki(Faculty of Education, Oita University, Oita, Japan)、Mayumi Nishi(Department of Anatomy and Cell Biology, Nara Medical University, Kashihara, Japan)、Kenji Sato(Division of Applied Biosciences, Graduate School of Agriculture, Kyoto University, Kyoto, Japan)
※本記事は原著論文の翻訳ではなく、研究内容を独自に解説したものです。出典(原著論文):Tomoko Asai, Takayo Mannari‐Sasagawa, Yuichi Yabe, et al. High-temperature-treated soy protein isolate reduces amino acid availability and alters social novelty in mice. エヌピージェイ・サイエンス・オブ・フード (2026). DOI: 10.1038/s41538-026-01091-0. 原著ライセンス: cc-by.