白芷(びゃくし、Angelica dahurica)や当帰(とうき、Angelica sinensis)は、古くから食品や生薬として利用されてきた植物です。これらを口から摂取することで肌に良い影響が期待されるという伝承がある一方、その仕組みは科学的にはっきりしていませんでした。近年、乳酸菌などの微生物で植物素材を発酵させることで、もとの素材が持つ機能性成分を高められる可能性が注目されています。今回紹介する研究では、白芷と当帰を乳酸菌で発酵させた発酵液が、肌の色素沈着(メラニンの過剰な蓄積によるくすみやシミ)にどう関わるのか、そして「腸と肌のつながり(腸-皮膚軸)」という観点からその仕組みを調べています。

研究でわかったこと

研究チームは、白芷と当帰の水抽出物を植物性乳酸菌(Lactobacillus plantarum)で発酵させ、その発酵液の成分を分析しました。その結果、発酵によってサリチル酸やビタミンB2といった成分が増えていることが確認されたということです。

この発酵液をマウスのメラノーマ由来細胞(B16F10細胞)に作用させたところ、メラニンの生成を抑える働きや、抗酸化的な作用がみられたと報告されています。

さらに、紫外線(UVB)とプロゲステロンによって色素沈着を誘発したマウスを用いた実験では、発酵液を口から摂取させた場合と皮膚に塗布した場合の両方で、色素沈着の緩和がみられたとされています。特に経口摂取したマウスでは、腸内細菌叢(腸内フローラ)の構成が変化し、血中の馬尿酸(ばにょうさん、hippuric acid)という代謝物の量が増えていたことが確認されました。

馬尿酸は、腸管の免疫に関わる遺伝子(NR1H4やIL-1βなど)の発現に影響を与え、その濃度は腸内の有用とされる細菌の量と正の相関を示したということです。研究チームは、この馬尿酸が全身性の炎症シグナルを和らげることを通じて、メラニンの過剰な産生に関わっている可能性を示唆しています。この関係は、腸の細胞(HT-29細胞)を用いた追加の実験でも検討されています。

この研究の位置づけ・読むうえでの注意

この研究は、細胞実験とマウスを用いた動物実験によって得られた知見であり、ヒトで同様の効果が得られるかどうかは、この要旨の範囲では述べられていません。また、発酵液の摂取が実際にヒトの肌の色素沈着を改善するかどうかを直接示したものではなく、あくまで一つの基礎研究として位置づけられます。今後、ヒトを対象とした研究などによる検証が必要と考えられます。

まとめ

今回の研究では、伝統的な食品・生薬である白芷と当帰を乳酸菌で発酵させることで機能性が高まる可能性、そしてその効果が腸内細菌叢の変化と代謝物である馬尿酸を介して肌の状態に関わりうることが示唆されています。腸内環境と肌の状態との関連という「腸-皮膚軸」の観点から、伝統的な食品素材の新たな活用法を考えるうえで興味深い基礎研究といえそうです。

※本記事は下記の原著論文を紹介するものです。参考文献:機能性食品アプローチ:プロバイオティクス発酵アンゼリカ属植物は腸-皮膚軸とその微生物代謝物馬尿酸を介して皮膚色素沈着を改善する(フロンティアーズ・イン・ニュートリション・2026年08月)