閉経を迎えた女性では、骨がもろくなる骨粗鬆症や、体重の増加、血糖値の上昇といった変化が起こりやすくなることが知られています。これは加齢そのものというより、女性ホルモン「エストロゲン」の分泌が急激に減ることが関係していると考えられています。高齢化が進む中でこうした閉経後の不調に悩む人は増えており、食品によって予防できないかという研究が各所で進められています。

これまで注目を集めてきた食品成分の代表が大豆イソフラボンです。しかし大豆イソフラボンはエストロゲンと構造が似ているため、摂りすぎると乳ガンや子宮ガンのリスクを高めるおそれがあると指摘されています。そこで、エストロゲンのような作用を持たず、かつ骨や代謝への影響が期待できる成分を探す研究が求められてきました。今回紹介する研究では、生薬の「当帰(トウキ)」やシイタケの菌糸体に含まれるフェノール化合物「バニリン酸」に着目しています。バニリン酸にはラジカルを消去する働きなどが報告されている一方で、エストロゲン受容体には結合しない性質があるとされ、この点が今回の研究の出発点になっています。なお、シイタケは日本でもなじみ深い食材であり、この研究は日本の研究機関に所属する研究者によって行われています。

どのように調べたのか

研究チームは、閉経後の状態を再現するモデルとして卵巣を摘出した10週齢のマウスを用いました。このマウスに、通常のエサ、またはバニリン酸を1日あたり体重1kgにつき100mg含むエサを10週間与え、その後の体の変化を比較しています。骨の状態を確認するため、骨が壊される速さの指標となる尿中のデオキシピリジノリン(DPD)量と、骨を壊す細胞の働きに関わる血中の酒石酸抵抗性酸性ホスファターゼ(TRAP)活性を測定したほか、X線CTを使って大腿骨の骨密度も調べました。あわせて血糖値や、体脂肪の指標となる白色脂肪組織の重量、子宮の状態も観察しています。

研究でわかったこと

バニリン酸を与えたマウスでは、尿中のDPD量と血中のTRAP活性がいずれも低下しており、これは骨が壊される勢いが抑えられていたことを示していると報告されています。実際、大腿骨の骨密度の低下も、バニリン酸を与えなかった卵巣摘出マウスに比べて有意に抑えられていました。また、血糖値や白色脂肪組織の重量の増加についても、卵巣摘出だけを行った対照群に比べて抑制される傾向が見られたとされています。さらに注目すべき点として、こうした変化が見られたにもかかわらず、子宮の肥大は認められなかったとされています。子宮肥大はエストロゲン様の作用が体に及んでいる際に見られやすい変化であるため、この結果はバニリン酸がエストロゲンのような働きを介さずに骨や代謝への影響を及ぼしていた可能性を示すものとして位置づけられています。

この研究の位置づけと読むうえでの注意

今回の研究はあくまでマウスを用いた動物実験の段階であり、ヒトで同じ効果が得られるかどうかはこの要旨だけからは判断できません。また、対象となったのは卵巣を摘出したマウスであり、自然な閉経の過程とは異なる点にも留意が必要です。バニリン酸の摂取量や期間、測定方法も特定の条件下での結果であり、この一つの研究をもって効果が確立したと結論づけることはできません。今後、より詳しい仕組みの解明やヒトでの検証が期待される段階の研究と言えます。

大豆イソフラボンに代わる安全な選択肢を探る試みの一つとして、バニリン酸という身近な食品由来成分に光が当てられた点は興味深い報告です。今後の研究の展開が注目されます。

※本記事は原著論文の翻訳ではなく、研究内容を独自に解説したものです。参考文献:Teruyoshi Tanaka, Takashi Fukuda, Ando Masashi. 食餌性バニリン酸は卵巣摘出マウスの閉経後症状を予防する. 日本食品科学工学会大会講演要旨集 (2026). DOI: 10.3136/aamjsfst.72.0_74.