抗生物質は感染症治療に欠かせない薬ですが、腸内の細菌を『無差別に』攻撃してしまうため、下痢などの副作用(抗生物質関連下痢、AAD)を招くことがあります。腸内細菌のバランスが崩れると、短鎖脂肪酸(酢酸やプロピオン酸、酪酸など、腸内細菌が食物繊維を分解して作る物質)の産生量が減り、腸のバリア機能や免疫のバランスにも影響が及ぶとされています。今回紹介する研究は、中国でハーブとして利用されてきたPolygonatum sibiricum(黄精)の根茎ではなく、栽培や加工の過程で通常は廃棄されてしまう『葉』に着目し、そこから得た多糖類(PsPs)が腸内細菌の状態を整え、抗生物質関連下痢を和らげる可能性があるかを調べたものです。研究は中国・西南医科大学薬学部などの研究者らによって行われました。

どのように調べたのか

研究チームはまず、P. sibiricumの葉を水で抽出しエタノールで沈殿させる方法でPsPsを取り出しました。得られたPsPsの平均分子量は約1.403×10⁵ダルトンで、単糖の内訳はキシロース40.7%、アラビノース24%、ラムノース15.4%、グルコース8.8%、マンノース6.6%、ガラクツロン酸4.5%と報告されています。走査電子顕微鏡で観察すると、平らで滑らかな多孔質の構造をしており、これが腸内細菌に分解・利用されやすい形状ではないかと考察されています。

次に、唾液・胃液・腸液を模した液体でPsPsを処理する実験室内の消化実験を行ったところ、消化の前後で総糖含量は93.08〜93.34%の範囲でほとんど変化せず、消化酵素による分解を受けにくいことが確認されました。続いて、抗生物質を服用していない健康な男性ボランティア3名(20〜25歳)から採取した便を使い、PsPsを加えて37℃・24時間の嫌気発酵を行う実験も実施されました。さらに、5週齢の雄C57BL/6Jマウス32匹を4群(各群8匹)に分け、リンコマイシン塩酸塩を1日2回・3日間投与して抗生物質関連下痢モデルを作製したうえで、PsPsを1日2回・7日間(300 mg/kg)胃に直接投与し、体重・盲腸の組織・腸内細菌の構成などの変化を調べました。

わかったこと

便を使った試験管内の発酵実験では、24時間後の短鎖脂肪酸の総量がPsPs添加群で131±3 µg/mL、無添加群(対照群)で86.4±2.1 µg/mLとなり、PsPs添加群で有意に高い値が報告されています。細菌の構成では、PsPsの添加によりKlebsiella(クレブシエラ属)やEscherichia-Shigella(大腸菌・赤痢菌属)の割合が減り、Bifidobacterium(ビフィズス菌属)の割合が増える傾向がみられました。

マウスを用いた実験では、抗生物質関連下痢を起こした群・自然回復群と比べて、PsPsを投与した群で体重の回復や下痢症状の軽減、大腸の長さの回復が確認されました。盲腸の組織を調べると、PsPs群では炎症細胞の浸潤が抑えられ、腸のバリア機能に関わるタンパク質ZO-1の発現が対照群に近い状態まで回復していたと報告されています。腸内細菌の構成でも、Klebsiellaの減少とともに、Blautia(ブラウティア属)やAkkermansia(アッカーマンシア属)といった、腸の健康維持に関わるとされる細菌の増加がみられました。加えて、血清中の炎症関連物質(MCP-1、LPS、IL-6、TNF-α)の濃度もPsPs投与によって低下したことが示されています。

この研究の位置づけと注意点

研究チーム自身も指摘しているように、試験管内の発酵実験で健康な人の便を使って観察されたEscherichia-Shigellaの抑制効果は、実際に病気を起こしたマウスの体内実験では同じようには再現されませんでした。これは、健康なヒトの便に含まれる腸内細菌とマウスの腸内細菌の初期構成が異なるためではないかと論文では考察されています。このように、試験管内での結果がそのまま生体内でも成り立つとは限らない点は、この研究を読むうえで踏まえておきたいポイントです。また、この研究はマウスを用いた動物実験の段階であり、ヒトでの効果や安全性を直接示したものではありません。あくまで一つの基礎研究の結果であり、PsPsが抗生物質関連下痢を予防・治療できると結論づけられたわけではない点に注意が必要です。

まとめ

今回の研究では、通常は廃棄されがちなP. sibiricumの葉から得た多糖類PsPsが、消化されにくい性質を持ちながら腸内細菌によって利用され、短鎖脂肪酸の産生を促す可能性、またマウスの実験モデルにおいて抗生物質関連下痢の症状や腸内細菌の乱れ、炎症関連物質の上昇を和らげる可能性が示唆されました。研究チームは、食用と薬用を兼ねる素材由来の多糖類として、抗生物質関連下痢に対する補助的な介入手段の開発に向けた知見になりうるとしていますが、これは一つの研究段階の報告であり、今後さらなる検証が必要とされる内容です。

※本記事は原著論文の翻訳ではなく、研究内容を独自に解説したものです。参考文献:Qifan Zhang, Huiling Deng, Xiurong Guo, et al. Prebiotic Potential of Polygonatum sibiricum Red. Leaf Polysaccharides in Regulating Gut Microbiota to Alleviate Antibiotic-Associated Diarrhea. ポリッシュ・ジャーナル・オブ・フード・アンド・ニュートリション・サイエンシズ (2026). DOI: 10.31883/pjfns/226183.