骨は一生を通じて壊されては作られる、を繰り返している組織です。ところが炎症が続くと、骨を壊す働きを持つ「破骨細胞」が過剰に活性化し、骨を作る速度を上回って骨がどんどん失われてしまうことがあります。これが炎症性の骨量減少で、既存の治療薬には長期的な安全性の課題も指摘されています。そこで注目されたのが、亜麻仁油に含まれる環状ペプチド(アミノ酸が輪のようにつながった化合物)の一種、サイクロリノペプチドJ(CLJ)です。中国・暨南大学の研究グループを中心に、韓国・高麗大学、カナダ・サスカチュワン大学の研究者も加わった国際共同研究として、ジャーナル・オブ・フューチャー・フーズに発表されました。
この研究に日本の研究機関の関与や、日本の食品・食習慣への言及は見当たりませんでした。
細胞レベルでの観察
研究チームはまず、破骨細胞のもとになる細胞にCLJを加えて培養する実験を行いました。破骨細胞への分化が進むと活性が上がる酵素(TRAP)の働きを調べたところ、CLJを加えた条件では活性が低下していたと報告されています。あわせて、破骨細胞が骨に接着して骨を溶かす際に形成する特殊な構造(ポドソームベルト)の形成が乱れ、実際に骨を溶かす機能そのものも弱まっていたということです。
さらに細かい仕組みを探ると、破骨細胞への分化を進める合図となるRANKLというタンパク質が引き起こす細胞内カルシウムイオンの周期的な変化(Ca²⁺オシレーション)が、CLJの存在下で抑えられていたとされます。これに関連して、破骨細胞化のスイッチ役となる転写因子(c-FosやNFATc1)の発現も低下していたということです。加えて、細胞を酸化ストレスから守る仕組み(Nrf2の働き)が高まり、細胞内の活性酸素種(ROS)の量が減っていたとも報告されています。
NF-κB経路とRANKLへの直接作用
ウエスタンブロット法や免疫染色による解析では、CLJがRANKLを介したNF-κBという炎症関連のシグナル経路を抑えていることが確認されたとしています。さらに研究チームは、分子ドッキングシミュレーションや分子動力学シミュレーション、そして表面プラズモン共鳴(SPR)という手法を用いて、CLJがRANKLというタンパク質に直接結合する可能性を検討しました。その結果、CLJがRANKLとその受容体RANKとの結合を妨げ、下流のNF-κB活性化を抑えている可能性が示されたとされています。
これらの細胞・分子レベルの結果を踏まえ、研究チームはLPS(細菌の成分に由来する物質)を投与して炎症性の骨量減少を起こしたマウスモデルでも検証を行いました。その結果、CLJの投与によって骨量の減少が和らぎ、骨の内部にある網目状の構造(海綿骨梁)が保たれる傾向が見られたと報告されています。
この研究の位置づけ
今回の研究は、細胞実験とマウスを用いた動物実験の範囲で得られた結果であり、ヒトでの効果や安全性を確認したものではありません。CLJは食品である亜麻仁油に由来する成分として紹介されていますが、この研究結果はあくまで基礎的な作用機序の解明を目的としたものであり、特定の疾患の予防や治療を保証するものではない点に注意が必要です。一つの研究であり、今後さらなる検証を経て理解が深まっていく段階にあると言えます。
まとめ
この研究では、亜麻仁油由来の環状ペプチドCLJが、破骨細胞の分化を促す複数の経路(NF-κB、NFATc1、ROSに関わるネットワーク)を抑えることで、細胞実験および動物実験において炎症性の骨量減少を和らげる可能性が示唆されました。今後、ヒトを対象とした研究などを通じて、さらに理解が深まることが期待されます。
※本記事は原著論文の翻訳ではなく、研究内容を独自に解説したものです。参考文献:Jiazi Chen, Mengyu Jiang, Jing Chen, et al. Flaxseed-derived Cyclolinopeptide J inhibits inflammatory bone loss by suppressing the NF-κB/NFATc1/ROS pathway. ジャーナル・オブ・フューチャー・フーズ (2026). DOI: 10.1016/j.jfutfo.2026.08.016. 原著ライセンス: cc-by-nc-nd.