糖尿病は世界で数億人が抱える病気で、血糖値の異常が続くことで肝臓や腎臓、筋肉など複数の臓器に負担をかけることが知られています。治療薬の開発と並行して、食品に含まれる成分が血糖コントロールに役立つ可能性を探る研究も進められてきました。今回紹介するのは、柑橘類などの食用植物に多く含まれる天然フラボノイドの一種「エリオジクチオール」を、糖尿病モデルマウスに与えた場合にどのような変化が起こるかを調べた研究です。研究には中国のノースウエスト農林科技大学(西北農林科技大学)と井岡山大学の研究者が携わっています。

どのように調べたのか

研究チームは、低用量のストレプトゾトシンという薬剤を投与して人為的に糖尿病状態を作り出したマウスを用い、6週間にわたりエリオジクチオールを摂取させました。そのうえで、体重の変化や水を飲む量(多飲)、臓器の肥大といった全身状態に加え、血糖値やインスリン感受性の指標(HOMA-IRと呼ばれる計算式で評価)、膵臓の島(インスリンを作る組織)の状態、そして肝臓・骨格筋における遺伝子発現や酸化ストレスの指標などを幅広く測定しています。

研究でわかったこと

エリオジクチオールを摂取した糖尿病マウスでは、体重減少や多飲、臓器の肥大が抑えられ、ブドウ糖負荷試験やインスリン感受性の結果が改善し、空腹時血糖値とHOMA-IRの低下、膵島の傷害の緩和、インスリンとグルカゴンのバランスの回復が報告されています。分子レベルでは、糖を細胞内に取り込む働きを持つ輸送体(Glut2、Glut4)の発現が高まり、インスリンの働きを妨げる因子(Ptpn1、Pten、Socs3)の発現が抑えられていました。肝臓では、糖を新たに作り出す経路(G6pc、Pck1)から、糖を分解してエネルギーに変える経路や糖をグリコーゲンとして蓄える方向へ代謝が切り替わったとされています。

骨格筋については、運動機能の低下が緩和され、組織の傷害所見が軽減し、グリコーゲン量が増え、細胞のエネルギー産生に関わるミトコンドリアを新しく作る遺伝子群(Sirt1、Tfam、Ppargc1a)の発現が回復したことが示されています。さらに全身的な変化として、炎症性サイトカインであるTNF-αやIL-1β、肝機能・腎機能の指標(ALT、AST、クレアチニン、血中尿素窒素)、乳酸の値の低下が確認されました。加えて、炎症に関わる遺伝子(Tnf、Il1b、Nos2)が抑えられる一方、抗酸化に関わる遺伝子(Nfe2l2、Hmox1、Nqo1)が活性化し、抗酸化物質であるグルタチオンや、抗酸化酵素のカタラーゼ・スーパーオキシドディスムターゼ(SOD)が回復し、脂質の酸化損傷を示すマロンジアルデヒド(MDA)が肝臓・筋肉の両方で減少したことも報告されています。

この研究の位置づけと読むうえでの注意

この研究は、ストレプトゾトシン誘発糖尿病マウスという動物モデルを用いたものであり、ヒトでの効果を直接示したものではありません。著者らは、エリオジクチオールがインスリンシグナリング、糖代謝、ミトコンドリアの働き、炎症・抗酸化応答を組み合わせて調整することで血糖値と臓器障害を改善したと結論づけ、食品由来の血糖降下作用を持つ機能性成分としての開発可能性を示唆していますが、これは一つの動物実験による報告であり、今後さらなる検証が必要な段階といえます。

まとめ

今回の研究は、柑橘類などに含まれるエリオジクチオールを糖尿病マウスに与えることで、血糖値の改善に加え、肝臓・腎臓・筋肉などの臓器障害や酸化ストレス、炎症反応が全身的に緩和されたことを示すものでした。食品由来成分による糖尿病管理への応用が期待される基礎研究の一例といえますが、あくまで動物実験の結果であり、特定の食品や成分が病気の予防・治療になると断定するものではない点に留意が必要です。

※本記事は原著論文の翻訳ではなく、研究内容を独自に解説したものです。参考文献:Xu Deng, Jiaojiao Zheng, Huafang Fan. Dietary eriodictyol ameliorates hyperglycemia and multi‐organ damage in streptozotocin‐induced diabetic mice: involvement of insulin signaling and antioxidant responses. ジャーナル・オブ・ザ・サイエンス・オブ・フード・アンド・アグリカルチャー (2026). DOI: 10.1002/jsfa.71005.