著者の所属・活動拠点の国は、ベトナムです。
掲載誌:Journal of Ecological Engineering
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の目的:消化液の量を何で決めるか
ベトナムのメコンデルタは同国のコメ生産の約57%を占める主要産地です。一方で、化学肥料に大きく頼る集約的な稲作は、養分の流出や水質汚染などの環境問題につながると指摘されています。
この地域では、家畜ふん尿を処理してエネルギーを得るバイオガス設備が広く使われています。その副産物として出る「バイオガス消化液」は、窒素・リン・カリウムを含み、肥料の代わりになる資源として期待されています。消化液に含まれる無機態窒素の大部分は、アンモニウム態窒素です。これは、水を張った水田で稲が好んで吸収する窒素の形です。
研究チームによると、これまでの消化液の施用量は、多くの場合「全窒素」量を基準に決められてきました。しかし全窒素には、分解されるまで植物が使えない有機態の窒素が多く含まれます。そのため、実際に稲が使える窒素の量が読みにくく、必要以上に大量の消化液を撒くおそれがありました。そこで著者らは、すぐに吸収できるアンモニウム態窒素の量を基準に消化液を施用する方法を検討しました。そして、稲の生育、収量、窒素の利用効率にどのような影響が出るかを調べました。
どのように調べたか
実験は、ベトナムのカントー大学にある網室で、2025年10月から2026年1月までの91日間行われました。網室は、透明な屋根で自然光を取り入れ、側面を防虫網で囲った施設です。土を入れた容器を水を張った大きな水槽の中に置き、水田に近い条件を再現しました。このような小規模の模擬環境を「メソコズム」と呼びます。稲の品種は「Dai Thom 8」で、栽培中はずっと湛水状態を保ちました。消化液は、豚を飼育する農家のバイオガス設備から採取したものです。
比較したのは5つの処理です。窒素を与えない対照区、尿素で1ヘクタールあたり150キログラムの窒素を与える化学肥料区、そしてアンモニウム態窒素の量で100・150・200キログラム相当を消化液で与える3つの区です。施用は播種後10日、25日、40日の3回に分けました。施用のたびに消化液のアンモニウム態窒素濃度を測り、その濃度から必要な液量を計算しました。
調査項目は、草丈、葉の緑色の濃さを示すSPAD値、穂の長さや1穂あたりの籾数などの収量構成要素、子実収量、窒素吸収量です。窒素吸収量からは、与えた窒素がどれだけ吸収されたか、また収量の増加にどれだけ結びついたかを示す利用効率も算出しました。
主な結果
窒素を与えた区では、いずれも稲の生育が良くなりました。播種後84日の草丈は、消化液区が99.1〜102.3センチメートルでした。これは化学肥料区の95.8センチメートルを上回る値です。SPAD値も、窒素を与えた区で対照区より一貫して高くなりました。
子実収量は、対照区の1平方メートルあたり513グラムに対し、窒素を与えた区では826〜898グラムに増えました。最も多かったのは消化液200の区の898グラムで、化学肥料区の871グラムとほぼ同じ水準でした。ただし、窒素を与えた区どうしの差は統計的に意味のあるものではありませんでした。収量が増えた主な要因は、穂が長くなったことと、1穂あたりの籾数が増えたことでした。穂の数、実った籾の割合、千粒重には、処理による有意な差は見られませんでした。
窒素吸収量は、窒素を与えたすべての区で増えました。一方、利用効率の指標には処理間で有意な差がありませんでした。ただし、収量の増加を与えた窒素量で割った効率は、消化液の量を増やすほど下がる傾向が報告されています。
実用面の課題も示されています。化学肥料と同じ量の窒素を与えるには、消化液がかなり大量に必要になります。1000平方メートルあたりで換算すると、消化液100の区で約30.4立方メートル、150の区で約45.6立方メートル、200の区で約60.9立方メートルでした。著者らは、運搬、貯蔵、均一な散布の面で、これが大きな制約になると述べています。なお、今回の網室実験では、土壌や植物の微生物量は評価されていません。
研究が示すこと
著者らは、アンモニウム態窒素を基準にすれば、消化液でも化学肥料と同程度の収量を保てると結論づけています。中でも消化液100の区は、化学肥料区と同程度の収量を、より少ない液量で達成しました。著者らはこれを最もバランスの良い施用量と評価しています。消化液200の区は収量が最も多かったものの、必要な液量が増える割に収量の上積みは小さいものでした。
施用量を全窒素ではなく、植物がすぐ使える窒素の量で決めることで、消化液を撒きすぎずに家畜ふん尿の養分を稲作に戻せる可能性があります。著者らは、簡易なアンモニウム測定キットで農家が施用量を見積もれる点も、この方法の特徴として挙げています。
原著論文の著者・所属:Huynh Cong Khanh(College of Environment and Natural Resources , Can Tho University , Can Tho , Vietnam)、Le Tran Ngoc Nhan(College of Environment and Natural Resources, Can Tho University, Can Tho, Vietnam)、Tran Sy Nam(College of Environment and Natural Resources, Can Tho University, Can Tho, Vietnam)、Nguyen Quoc Khuong(College of Agriculture , Can Tho University , Can Tho , Vietnam)、Huynh Van Thao(College of Environment and Natural Resources, Can Tho University, Can Tho, Vietnam)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Huynh Cong Khanh, Le Tran Ngoc Nhan, Tran Sy Nam, et al. Use of ammonium-N-based biogas effluent application for sustainable rice production and improved nutrient recycling. Journal of Ecological Engineering 2026-08-02. DOI: 10.12911/22998993/222240. 原著ライセンス:CC BY.