この研究は、中国の研究機関の研究論文です。

掲載誌:Food and Energy Security

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

何のための研究か

イネ栽培では、窒素肥料を生育段階ごとに何度も分けて施す方法が、収量と窒素利用効率(施した窒素がどれだけ収量に結びつくかを示す指標)を高めるうえで有効とされてきました。しかし研究チームは、中国の農村で労働力不足が進み、農業者の高齢化や大規模経営化が進むなかで、施肥の回数が多い技術は現場で敬遠されつつあると指摘しています。手間のかかる管理を減らしながら収量を落とさない方法が求められている、というのが出発点です。

著者らが比較の基準に置いたのは、広東省農業科学院水稲研究所が開発した「三控(Three Controls、TC)」施肥技術です。これは中国農業農村部の推奨技術にも挙げられてきた、低投入・高収量を狙う体系ですが、追肥を複数回行い、生育状況の細かな診断も必要とします。研究チームは、この追肥回数をどこまで減らせるか、また減らすならどの時期に施すのが適切かを確かめようとしました。

どのように調べたか

試験は2018年、広東省広州市にある白雲試験場で、早季(4〜7月)と晩季(8〜11月)の二期作として行われました。用いた品種はハイブリッドイネの「天優3618」です。ハイブリッド品種は分げつ(株元から枝分かれして増える茎)の力が強く、籾を受け入れる容量も大きいため、窒素の吸収力も高いと考えられており、著者らはこの点を確かめたい対象としています。

設けられた処理は次のとおりです。窒素を与えない区(N0)、基準となる三控技術(TC。分げつ中期・穂の分化期・出穂期の3回に追肥を分ける)、そしてTCと総窒素量を同じにしたうえで追肥を1回にまとめた2区——最上位節間伸長期に施すN1と、穂の一次枝梗分化期(穂の元になる部分ができ始める時期、PI)に施すN2です。さらに総窒素量を減らしたうえで同じ2つの時期に1回追肥するRN1・RN2も加えました。簡略化した4区はいずれも、全窒素の40%を移植前の基肥として機械で施し、残りの60%を1回の追肥でまかなう設計です。総窒素量はTCで早季150kg/ha、晩季180kg/ha、減量区で早季120kg/ha、晩季150kg/haでした。

収穫時の収量とその内訳(穂数、1穂あたりの籾数、登熟した籾の割合、千粒重)に加え、乾物の蓄積と穂への転流、窒素の吸収量、そして各種の窒素利用効率指標が測定されました。

報告された主な結果

論文が報告する中心的な結果は、穂の分化期に1回だけ追肥するN2が、早季・晩季のいずれでも三控技術と同等の収量と窒素利用効率を示したことです。早季の収量はN2が8.15t/haで施肥区中で最も高く、TCの7.96t/haとの間に有意差はありませんでした。晩季でもTCとN2の収量に有意差は認められていません。

一方、同じ量の窒素を最上位節間伸長期に施したN1は成績が劣りました。早季の収量は7.10t/haで施肥区中最も低く、晩季ではTCより12.2%低下しています。窒素利用効率の面でも、N1は施肥1kgあたりの増収量を示す農学的窒素利用効率、施肥1kgあたりの収量を示す部分要素生産性、窒素吸収量の増加あたりの増収量を示す生理的窒素利用効率のいずれでも有意に低い値でした。総窒素量を減らしたRN1・RN2については、晩季でTCに比べそれぞれ9.9%、7.4%の有意な減収が生じたと報告されています。

著者らは、N2がTCと肩を並べた背景として、穂数と登熟籾数が適正な水準に収まったこと、そして総乾物生産量と窒素吸収量がTCと同程度だったことを挙げています。窒素の吸収時期を追うと、N1やRN1は移植から穂分化期までの吸収が最も多い反面、穂分化期から出穂期にかけての吸収がTCより大きく落ち込んでいました。これに対しN2は、この収量形成にかかわる時期にTCと同等以上の窒素を吸収していました。追肥の時期が穂の形成期と合っていたことが、成績の差につながったという整理です。

この報告が示すこと

この研究が伝えているのは、三控技術で行われてきた分げつ期の肥料と出穂期の肥料は省いてもよく、穂の分化期という一点に追肥を集中させれば、ハイブリッドイネでも高い収量と窒素利用効率を保てた、という一試験地・一品種・二作期での結果です。同時に、同じ「1回追肥」でも節間伸長期では間に合わず、総窒素量を減らした場合は晩季に減収が出たことから、量そのものより施す時期が結果を分けたことが示されています。

著者らはN2を、労働力の制約が強まる生産現場で高収量と高効率を維持しうる省力的な窒素管理の一つとして位置づけています。施肥の回数を削るという実務的な要請に対して、どこを削り、どこを残すべきかを具体的に指し示した報告といえます。

著者:Meijuan Li(Rice Research Institute, Guangdong Academy of Agricultural Sciences/Guangdong Rice Engineering Laboratory Guangzhou China)、Rui Hu(Rice Research Institute, Guangdong Academy of Agricultural Sciences/Guangdong Rice Engineering Laboratory Guangzhou China)、Changwei Xia(College of Plant Science and Technology Huazhong Agricultural University Wuhan China)、Zhenzhen Huang(Agro‐Tech Extension Center of Guangdong Province Guangzhou China)、Qiang Li(Agro‐Tech Extension Center of Guangdong Province Guangzhou China)、Kaiming Liang(Rice Research Institute, Guangdong Academy of Agricultural Sciences/Guangdong Rice Engineering Laboratory Guangzhou China)、Junfeng Pan(Rice Research Institute, Guangdong Academy of Agricultural Sciences/Guangdong Rice Engineering Laboratory Guangzhou China)、Shaobing Peng(College of Plant Science and Technology Huazhong Agricultural University Wuhan China)、Yanzhuo Liu(Rice Research Institute, Guangdong Academy of Agricultural Sciences/Guangdong Rice Engineering Laboratory Guangzhou China)、Youqiang Fu(Rice Research Institute, Guangdong Academy of Agricultural Sciences/Guangdong Rice Engineering Laboratory Guangzhou China)、Xinyu Wang(Rice Research Institute, Guangdong Academy of Agricultural Sciences/Guangdong Rice Engineering Laboratory Guangzhou China)、Qunhuan Ye(Rice Research Institute, Guangdong Academy of Agricultural Sciences/Guangdong Rice Engineering Laboratory Guangzhou China)、YuanHong Yin(Rice Research Institute, Guangdong Academy of Agricultural Sciences/Guangdong Rice Engineering Laboratory Guangzhou China)、Xuemei Luo(Agro‐Tech Extension Center of Guangdong Province Guangzhou China)、Xuhua Zhong(Rice Research Institute, Guangdong Academy of Agricultural Sciences/Guangdong Rice Engineering Laboratory Guangzhou China)、Xiangyu Hu(Rice Research Institute, Guangdong Academy of Agricultural Sciences/Guangdong Rice Engineering Laboratory Guangzhou China)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Meijuan Li, Rui Hu, Changwei Xia, et al. One‐Time Top‐Dressing of Panicle Nitrogen Fertilizer Maintains High Grain Yield and Nitrogen Use Efficiency of Rice in South China. Food and Energy Security 2026-09-01. DOI: 10.1002/fes3.70278. 原著ライセンス:CC BY.