この研究は、インドネシアの研究機関の研究論文です。

掲載誌:INDONESIAN JOURNAL OF PHARMACY

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の目的

ハトムギ(学名 Coix lacryma-jobi L.)は、インドネシアを含む東南アジア原産の穀物で、古くから食用にされ、伝統医療でも用いられてきました。著者らによれば、栄養面でも優れた特徴を持つにもかかわらず、トウモロコシや小麦、ソルガムといった主要穀物に比べて注目されてこなかった「未利用作物」だといいます。

この総説の目的は、ハトムギを「ニュートラシューティカル」として捉え直し、その可能性と応用例を体系的に整理することにあります。ニュートラシューティカルとは、1989年にステファン・デ・フェリーチェが提唱した用語で、食品またはその成分でありながら薬理的な作用を持つものを指します。著者らは、ハトムギに関する既存の研究が食品科学と薬学のどちらか一方に偏りがちで、その中間に位置するニュートラシューティカルとしての検討が乏しかった点を、埋めるべき知見の空白として挙げています。

どのように調べたか

著者らは、過去5年間に公表された文献を対象に、Scopus、Google Scholar、Lensといったデータベースでオンライン検索を行いました。検索語には「nutraceutical AND adlay」「adlay OR coix phytochemical」「adlay OR coix functional foods」「adlay OR coix pharmacological activities」「adlay OR coix traditional use」「adlay OR coix formulation」などが用いられています。つまり、新たに実験を行ったのではなく、既に報告されている研究を集めて読み解き、整理した論文です。

論文では、関連研究の動向そのものも確認されています。Lens.orgのデータでは、コイクスまたはハトムギに関する研究データセットが3,127件、特許が19,591件あり、Scopusでの「Coix」の検索結果は2018年の42件から増加を続け、2024年には122件でピークを迎えたと報告されています。

報告された主な内容

栄養面について、著者らが引用した報告では、ハトムギには炭水化物65%、タンパク質14%、粗繊維3%、脂質5%などが含まれます。トウモロコシ、キビ、コメ、ソルガムと比べた際、タンパク質(14.1%)と脂質(7.9%)の含有量が最も高かったとされています。炭水化物の中心はデンプンで、およそ60〜70%を占めます。

デンプンのほかにも、食物繊維、アラビノキシラン、フルクトオリゴ糖、そしてハトムギに特有の多糖であるコイクサンといった成分が取り上げられています。これらは体に働きかける成分としてだけでなく、錠剤やカプセルの結合剤・崩壊剤、薬物を運ぶ担体といった製剤上の材料(添加剤)としても使える可能性があると整理されました。ただし著者らは、ハトムギ由来のデンプンやセルロースを実際に製剤へ応用した研究は依然として乏しい、と繰り返し述べています。

薬理作用としては、抗がん作用に関する研究が最も多く蓄積されていると報告されています。ハトムギ種子油から作られた「康莱特(カンライト)」は、中国でがんの補助療法として広く用いられてきた生薬由来の医薬品で、注射剤とカプセル剤があります。このほか、細胞や動物を用いた研究では、肝がん、胃がん、子宮頸がん、大腸がん、乳がんなどの培養細胞に対する作用や、既存の抗がん剤との併用で相乗的な結果が得られたことが紹介されています。抗肥満作用についても、種子や種子油、ふすま抽出物を与えた動物実験で体重増加や血中脂質の低下が観察された、といった報告が取り上げられています。

製剤への応用では、マイクロエマルション、リポソーム、ナノ構造脂質担体といった技術が検討されてきたことが示されています。これらはいずれも、水に溶けにくい成分を微細な粒子の形で安定させ、体内で働きやすくするための手法です。

この整理が示すもの

著者らは、ハトムギが栄養強化の素材として、抗がん剤と組み合わせて用いる油として、また抗糖尿病作用を持つ抽出物として、複数の役割を担いうると結論づけています。同時に、これらの多くは細胞や動物を用いた段階の報告であり、製剤化に関する研究が限られていることも、この総説自身がたびたび指摘している点です。

ハトムギはラテライト土壌や低いpHにも比較的耐えるなど栽培上の利点を持つとされ、著者らはそうした持続可能性の面も含めて、この穀物が今後さらに掘り下げる価値のある素材であると位置づけています。長く食べられ、薬としても使われてきた身近な穀物を、科学的な文献の蓄積という視点から見直した一つの見取り図といえます。

著者:Fatimah Azzahra(Master of Herbal Science Study Program, Faculty of Pharmacy, University of Indonesia, Depok, 16424, West Java, Indonesia)、Roshamur Cahyan Forestrania(Laboratory of Phytochemistry and Pharmacognosy, Faculty of Pharmacy, University of Indonesia, Depok, 16424, West Java, Indonesia)、Silvia Surini(Laboratory of Pharmaceutics and Pharmaceutical Technology, Faculty of Pharmacy, Universitas Indonesia, Depok, West Java, 16424)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Fatimah Azzahra, Roshamur Cahyan Forestrania, Silvia Surini. Unlocking the Nutraceutical Potential of Adlay (Coix lacryma-jobi L.) and Its Applications from Food to Pharmaceuticals. INDONESIAN JOURNAL OF PHARMACY 2026-09-08. DOI: 10.22146/ijp.21173. 原著ライセンス:CC BY.