著者の所属・活動拠点の国は、ブラジル、チリ、メキシコです。
掲載誌:Foods
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
二つの研究の流れをつなぐ
ソーセージやハンバーグなどの食肉加工品では、飽和脂肪酸を減らすことが応用食肉科学の重要な目標とされています。著者らは、飽和脂肪酸の摂取と慢性疾患リスクの関係は食事全体や置き換える栄養素によって変わると断ったうえで、不飽和脂肪酸の多い油で配合を見直す方法が広く検討されていると説明しています。
そこで注目されてきたのが「オレオゲル」です。液体の油を、ワックスやモノグリセリド、植物ステロール、エチルセルロースなどの「構造化剤」がつくる立体的な網目に閉じ込め、部分水素添加をせずに固体や半固体のような性質を持たせたものです。中身は液体の油のままなので、動物性脂肪の可塑性や構造、口当たりをある程度まねしながら、脂肪酸組成を不飽和寄りにできるとされます。
一方、これとはほぼ別に、オレオゲルを油に溶けやすい機能性成分(カロテノイド、クルクミン、トコフェロール、オメガ3脂肪酸など)の「運び役」として使う研究も進んできました。網目が分子の動きや酸素の拡散を抑え、成分を保護できる可能性があるためです。ただし、その証拠の多くは単体のオレオゲルやモデル系、焼き菓子、乳製品などで得られたものです。
この総説の著者らは、肉製品の中では二つの役割が仕組みの上でつながっているかもしれないと考えました。脂肪の代替として選んだ構造化剤が、網目の密度や油の保持力、熱への強さを決め、それが同時に機能性成分の保持や酸化のしにくさ、放出のされ方にも影響しうるからです。論文は文献を選んで整理する叙述的・展望的な総説であり、二重の役割がすでに確立していると主張するのではなく、証拠の強さの段階を明確に区別し、何が不足しているかを示すことを目的としています。
脂肪の置き換えでは多くの報告がある
著者らによると、オレオゲルによる動物性脂肪の置き換えは、バーガー、フランクフルト型ソーセージ、ボローニャ型ソーセージ、パティ、レバーペースト、乾燥発酵ソーセージ、ミートバッター(練り肉生地)など、ほぼすべての食肉加工品の分類で報告されています。全体として、飽和脂肪酸が減り、多価不飽和脂肪酸と飽和脂肪酸の比やn-6/n-3比といった脂質の栄養指標が改善したという結果が多く見られます。
例として、オリーブ油・亜麻仁油・魚油の混合油を構造化したオレオゲルで豚の背脂を完全に置き換えたバーガーでは、動物性脂肪を使った対照に比べ、多価不飽和脂肪酸/飽和脂肪酸比が3.6倍に高まり、n-6/n-3比は23分の1になったと報告されています。また、HPMC(セルロース誘導体の一種)で構造化したキャノーラ油で牛脂を置き換えたパティでは、総脂肪に占める飽和脂肪酸が42%から15%に下がったという研究も紹介されています。
一方で、技術的な成否は製品ごとに異なります。油や構造化剤の種類、置き換えの割合、加工条件によって、硬さ、ジューシーさ、加熱による減量、脂質の酸化、色、官能評価、保存中の変化に違いが出ています。著者らは、脂肪酸組成が良くなるだけでは優れた製品とはいえず、食感や歩留まり、酸化安定性、消費者の受け止め方まで含めて評価する必要があると強調しています。
肉の中で二つの役割を果たした証拠はまだ限られる
肉製品の中でオレオゲルが脂肪代替と機能性成分の運び役を同時に担ったことを直接示す証拠は乏しい、というのが著者らの整理です。肉には塩、水、たんぱく質、ヘム色素、鉄、そして肉にもともと含まれる酸化促進物質があり、これらが機能性成分の安定性と放出の両方に影響しうるとしています。さらに細切や加熱、乾燥といった工程もあるため、肉以外の系での結果をそのまま当てはめることはできないと述べています。
古典的なオレオゲルについて最も明確な例とされているのは、クルクミンを加えたオレオゲルで脂肪を置き換えた低脂肪豚肉バーガーの研究です。家庭での冷蔵保存と加熱調理を想定した条件の後でも、クルクミンは脂質の酸化を抑えていました。ただし黄色く着色して官能評価が下がり、技術的に適していたのは蜜ろうで構造化した系だけでした。
このほか、海藻抽出物を加えたオレオゲル配合パティでは酸化抑制が見られたものの、抽出物が網目の中に本当に閉じ込められていたのか、肉の中に一緒に配合されただけなのかは不明だと著者らは指摘しています。また、たんぱく質で安定化したエマルションゲルやピッカリングエマルション(微粒子で安定化した乳化物)を使い、クルクミンやレスベラトロールなどを運んだ研究もあり、ゲル化エマルションを使った乾燥発酵ソーセージで、熟成と2か月の保存を通じて保護効果が続いた例も報告されています。著者らはこれらを、オレオゲルそのものの直接証拠ではなく、構造の近い系による段階的な裏付けとして位置づけています。
両立を難しくする要因と残された課題
著者らは、二つの役割の両立には技術的な対立もあると述べています。最も重要なのは酸化で、栄養面で望ましい不飽和の油ほど、加工や保存の間に酸化しやすくなる可能性があります。構造化剤を増やして網目を密にすれば脂肪らしさや成分の保持には有利かもしれませんが、硬すぎる食感やろうのような感触、構造化剤由来の異風味で官能評価が下がることがあります。エチルセルロース系では、溶かすために通常100℃を超える加熱が必要で、熱に弱い成分が肉に加わる前に分解するおそれもあります。さらに、費用や表示、規制上の扱いも無視できない点として挙げています。
今後の課題として著者らは、クルクミンやフェノール類以外の成分や、内部が70〜85℃に達する加熱ソーセージやペーストなど、より幅広い製品と工程で保護効果が続くかを確かめる必要があるとしています。また、飽和脂肪の削減、成分の保持、酸化安定性、食感、官能的な受け入れやすさを同時に満たす配合の範囲を、構造化剤の濃度と機能性成分の量を同時に変えて完成した肉製品で探った研究は、著者らの知る限りまだないと指摘しています。消化の過程で成分がどれだけ利用可能な状態になるかも、完成した肉製品では確かめられていません。
この総説が示しているのは、オレオゲルなどの構造化脂質で脂肪を置き換えつつ機能性成分を運ぶという考え方が技術的にあり得そうだという点と、古典的なオレオゲルについての直接的な証拠はまだごく一部にとどまるという点です。何がすでに分かり、何が推測の段階にあるのかを切り分けたことが、この論文の大きな意味といえます。
原著論文の著者・所属:Bibiana Alves dos Santos(Departamento de Ciência dos Alimentos, Centro de Ciências Rurais, Universidade Federal de Santa Maria, Santa Maria 97105-900, RS, Brazil)、Néstor Sepúlveda(Centro de Tecnología e Innovación de la Carne (CTI-Carne), Universidad de La Frontera, Temuco 4780000, Chile; Facultad de Ciencias Agropecuarias y Medioambiente, Universidad de La Frontera, Temuco 4780000, Chile)、John Quiñones(Centro de Tecnología e Innovación de la Carne (CTI-Carne), Universidad de La Frontera, Temuco 4780000, Chile; Facultad de Ciencias Agropecuarias y Medioambiente, Universidad de La Frontera, Temuco 4780000, Chile)、Márcio Vargas-Ramella(Centro de Educação Superior da Região Sul—CERES, Departamento de Ciências Biológicas, Universidade do Estado de Santa Catarina—UDESC, Laguna 88790-000, SC, Brazil)、Julián Andrés Gómez-Salazar(Departamento de Alimentos, Division de Ciencias de la Vida, Campus Irapuato-Salamanca, Universidad de Guanajuato, Guanajuato 36500, Mexico)、Paulo Cezar Bastianello Campagnol(Departamento de Ciência dos Alimentos, Centro de Ciências Rurais, Universidade Federal de Santa Maria, Santa Maria 97105-900, RS, Brazil)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Bibiana Alves dos Santos, Néstor Sepúlveda, John Quiñones, et al. Oleogels and Related Structured-Lipid Systems as Dual-Function Ingredients in Meat Products: Saturated Fat Replacement and Bioactive Delivery. Foods 2026-08-11. DOI: 10.3390/foods15162803. 原著ライセンス:CC BY.