この研究は、ブラジルの研究機関の研究論文です。
掲載誌:Food Analytical Methods
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の目的:植物油抽出の溶媒をヘキサンから置き換えられるか
マカウーバ(Acrocomia aculeata)は、ブラジルを中心に広く分布する熱帯アメリカ原産のヤシの一種です。研究チームによれば、その果実の果肉は油分が多く、生体に有用な働きをもつ成分(生物活性化合物)に富み、オレイン酸の含有率が高いことが知られています。
植物原料から油を取り出す主な方法は圧搾と溶媒抽出で、大規模な工場では溶媒抽出が最も広く使われています。その際の溶媒として標準的なのがヘキサンです。沸点が低く(69℃)、安定していて装置を腐食させにくく、油をよく溶かすという利点があるためです。しかし論文は、ヘキサンには環境負荷、作業上の安全性、人の健康に関わる不利な面があることを指摘し、代替溶媒の探索が研究と産業の双方で大きな課題になっていると述べています。
代替として挙げられるのがエタノールやイソプロパノールです。ブラジルはサトウキビから大量のエタノールを生産しており、エタノールは毒性が低く、ヘキサンより燃えにくいという特徴があります。ただし極性(分子の電気的な偏り)をもつため、油の主成分であるトリアシルグリセロールを溶かす力はヘキサンに劣る一方、極性の高い生物活性成分などを溶かし出せるという性質があります。そこで研究チームは、エタノール・含水エタノール・イソプロパノールを用いた果肉からの固液抽出を取り上げ、温度と溶媒量の条件が、油の収率、固体側に残る溶液の量、生物活性成分の回収、抗酸化活性、脂肪酸組成にどう影響するかを総合的に評価することを目的としました。
何を、どのように調べたか
材料にはブラジル・リオパラナイーバ産のマカウーバ果実が使われました。果肉を手作業で分け、−18℃前後で保存した後、60℃で24時間送風乾燥し、粉砕してから抽出に用いています。乾燥させた果肉の組成は、脂質46.17%、食物繊維22.89%、タンパク質9.20%、灰分4.51%、炭水化物17.23%(いずれも乾物基準)で、研究チームはこの高い脂質含量が、果肉が油の原料として有望であることを裏づけると述べています。
抽出は三角フラスコの中で行われました。乾燥粉砕した果肉5gに対し、溶媒を25gまたは50g加えることで、溶媒と固体の比(SSR)を5対1と10対1の二通りに設定。溶媒はエタノール(無水)、95%エタノール、90%エタノール、ヘキサン、イソプロパノールの5種類です。これを35℃、45℃、55℃のいずれかに保った振とう機で、毎分120回転・6時間かき混ぜました。6時間という時間は、予備試験で油の回収がほぼ横ばいになることを確認して決めたと説明されています。各条件はいずれも3回ずつ独立に実施されました。
抽出後、液側(抽出相)と固体側(残渣相)から試料を取り、乾燥させて重量を測る方法と物質収支の計算により、油の抽出収率と「保持指数」が求められました。保持指数とは、抽出後に固体の繊維分1gあたりどれだけの溶液(油と溶媒)が付着して残っているかを示す値です。さらに、総フェノール化合物量をフォリン–チオカルト法で(油100gあたりのガリック酸相当量として)、抗酸化活性をDPPHラジカル消去率として、α-トコフェロール(ビタミンEの一種)量を高速液体クロマトグラフィーで、脂肪酸組成をガスクロマトグラフィー質量分析で測定しています。結果は分散分析とTukey検定(有意水準5%)で比較され、加えて多数の変数の関係をまとめて見るために主成分分析も行われました。
報告された主な結果:収率が高い溶媒と機能性成分が多く取れる溶媒は一致しなかった
油の回収率は、元の脂質量に対して最高95.82%(ヘキサン、SSR 10対1、45℃)から最低34.22%(90%エタノール、SSR 5対1、35℃)の範囲でした。得られた油の最大量は、乾燥果肉100gあたり44.24gと報告されています。溶媒を同じ比率で比べると、収率はヘキサン>イソプロパノール>エタノール>95%エタノール>90%エタノールの順でした。論文は、ヘキサンの高い収率を、極性をもたない脂質部分との親和性が高いことによるものと説明しています。無水エタノールが90%・95%エタノールより収率が高かった点については、含水溶媒では水の存在によってエタノール濃度が下がり溶媒の極性が上がるためと述べられています。
温度と溶媒量の影響も確認されました。温度を上げると、試した両方のSSRで収率が高まりました。研究チームは、温度上昇が油の粘度を下げて溶媒への溶けやすさを高め、物質移動を促すためと説明しています。この温度の効果は、評価された「グリーン溶媒」(イソプロパノール、無水エタノール、90%エタノール、95%エタノール)でより顕著で、一方ヘキサンでは45℃と55℃の間で有意な差は見られませんでした。SSRを5対1から10対1に上げると、すべての溶媒で収率が上がりました。
保持指数は1.34〜2.63(繊維1gあたりの付着溶液のg数)の範囲で、最も高かったのは90%エタノール・35℃・SSR 5対1、最も低かったのはヘキサン・55℃・SSR 10対1の条件でした。温度が上がると保持指数は下がり、これは溶液の粘度低下によって液体が固体から抜けやすくなるためと説明されています。溶媒別では90%エタノールが最も高く、次に95%エタノールが続き、ヘキサンが最も低い値でした。論文は、保持指数が高いことは産業的には望ましくないと指摘しています。固体残渣に溶媒が多く残ることを意味し、溶媒の消費量と、回収・再利用にかかるコストが増えるためです。
一方、機能性に関わる成分では順序が逆転しました。総フェノール化合物量は、90%エタノール・45℃・SSR 10対1の条件で油100gあたり322.27mg(ガリック酸相当)と最も多く、ヘキサン・35℃・SSR 10対1で148.29mgと最も少なくなりました。含水エタノール(90%・95%)は無水エタノールより回収効率が高く、イソプロパノールは中間、ヘキサンが最低でした。温度については、35℃から45℃に上げるとフェノール量は増えたものの、55℃までさらに上げるとイソプロパノールを除く多くの溶媒で減少しました。論文はこれを、中程度の温度での物質移動の向上と、高温での熱に弱いフェノール化合物の分解とのバランスを反映している可能性があると述べています。
α-トコフェロールは油1kgあたり14.63〜67.03mgの範囲で、最低値はヘキサン・35℃・SSR 5対1、最高値は95%エタノール・SSR 10対1の条件でした。エタノール系の溶媒はいずれも同程度の濃度を示し、イソプロパノールは中間、ヘキサンが最も低い値でした。温度を上げると含量は増え、55℃は35℃より有意に高い値となりました。抗酸化活性(DPPHラジカル消去率)では、含水エタノール(90%・95%)が、とくに35℃より高い温度で最も高い値を示し、イソプロパノールとヘキサンは、特に低温で有意に低い活性にとどまりました。
油そのものの脂肪酸組成については、主成分はオレイン酸、パルミチン酸、リノール酸で、不飽和脂肪酸が優勢でした。溶媒の種類はパルミチン酸、ステアリン酸、リノール酸に有意な影響を与え、温度やSSRも一部の脂肪酸に影響しましたが、その効果は脂肪酸全体にわたって一貫してはいませんでした。注目すべき点として、果肉油で最も多いオレイン酸は、溶媒の種類や温度による有意な影響を受けませんでした。研究チームは、抽出条件が個々の脂肪酸の相対的な割合に影響しうるとしても、全体の脂肪酸プロファイルはおおむね保たれたと結論づけています。
主成分分析では、第1・第2主成分が全体の分散の64.36%を説明しました。油の収率は溶媒の種類に強く左右され、温度とSSRとも正の関連を示しました。一方、総フェノール化合物量、α-トコフェロール、抗酸化活性は互いにまとまって位置し、収率とは別の方向に配置されました。研究チームはこれを、収率が高いことが必ずしも機能性成分の多さを意味しないことの表れと読み取っています。なお論文は、不飽和脂肪酸が温度やSSRと反対側に位置したことについて、これを熱による分解や酸化の直接的な証拠と見なすべきではなく、多変量空間上の関連として解釈すべきだと明記しています。実際、温度はオレイン酸・リノール酸・リノレン酸に有意な影響を与えていませんでした。
この研究が示していること
研究チームの結論は、溶媒の極性と操作条件が、抽出の収率と油の機能的な品質のバランスを決める要因であるというものです。ヘキサンは油を取り出す力では最も優れていたものの、極性の高い溶媒、とくに含水エタノール系は、フェノール化合物の回収量と抗酸化活性で上回りました。無水エタノールとイソプロパノールは、55℃・SSR 10対1という条件下で収率の面でも競争力のある値に達しています。
つまり、どの溶媒を選ぶべきかは「どれだけ多く油が取れるか」だけでは決まらない、ということです。論文は、油の収量だけでなく、回収した画分にどのような化学的・機能的性質を求めるかを考慮して溶媒を選ぶべきだとしています。産業的には、アルコール系溶媒は毒性が低く取り扱いが安全という利点をもつ一方、固体残渣への溶媒の残留が多く、含水エタノールではエタノールと水の分離という工程上の課題も加わります。収率、溶媒とエネルギーの必要量、安全性、求める油の性質の間には、どれかを取ればどれかを譲ることになる関係があるわけです。
研究チームは、抽出の目的が高い収率だけでなく最終製品の機能的品質の向上にも及ぶ場合、グリーン溶媒がヘキサンに代わる有望な選択肢になりうると述べています。そして、産業化の可否を判断するには、溶媒の回収と再利用、エネルギー消費、下流工程、酸化安定性、経済性を含めたスケールアップ研究が必要だと明記しています。
著者:Luisa Neves Duarte Martins(Institute of Agricultural Sciences, Federal University of Viçosa, Rio Paranaíba, CEP, 38810-000, Brazil)、Jairo Neves de Jesus Santos(Institute of Agricultural Sciences, Federal University of Viçosa, Rio Paranaíba, CEP, 38810-000, Brazil)、Evandro Galvão Tavares Menezes(Institute of Agricultural Sciences, Federal University of Viçosa, Rio Paranaíba, CEP, 38810-000, Brazil)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Luisa Neves Duarte Martins, Jairo Neves de Jesus Santos, Evandro Galvão Tavares Menezes. Green Solvent Extraction of Macaúba (Acrocomia aculeata) Pulp Oil: Yield, Bioactive Compounds, and Fatty Acid Composition. Food Analytical Methods 2026-10-02. DOI: 10.1007/s12161-026-03293-4. 原著ライセンス:CC BY.