この研究は、ブラジルの研究機関の研究論文です。

掲載誌:Plants (Basel, Switzerland)

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: Europe PMC

研究の目的

米は世界の食事エネルギーの2割以上を供給する主要作物で、世界人口の半数以上の主食になっています。その中でも黒米は、外側の色づいた層にアントシアニン(主にシアニジン-3-グルコシドやペオニジン-3-グルコシド)やポリフェノール類、γ-オリザノール、GABAなどを多く含む点で注目されてきました。しかし生産性の低さなどから利用が広がっておらず、付加価値を高める手法が求められている、と著者らは背景を説明しています。

そこで有望視されるのが「発芽」です。発芽中は種子の代謝が大きく組み替えられ、酵素が活性化して貯蔵成分が動き出すため、新しい成分がつくられたり、これまで細胞構造に結びついていた成分が遊離したりします。ただし合成と同時に分解・酸化・流出も起こるため、すべての成分が一律に増えるわけではなく、最終的な成分組成は発芽の時間・温度・水分条件に強く左右されます。

従来の研究は個別の成分に注目したものが多く、複数のフェノール類とGABA、抗酸化能を同時に見た例は限られていました。また、成分が穀粒の中に残るのか、それとも水に抽出できる画分に移るのかという点もあまり分かっていません。この研究チームは、応答曲面法と多変量解析を用いて、発芽時間と温度が黒米の粉と水溶性抽出液の成分・抗酸化能にどう影響するかを調べ、機能性成分全体を高める条件を探ることを目的としました。なお水は、安全性と環境適合性、親水性成分を選択的に取り出せる点から、食品用途の抽出溶媒として有利だと位置づけられています。

何を調べ、どんな結果が報告されたか

著者らは、発芽時間と温度を組み合わせた複数の条件で黒米を発芽させ、得られた粉と、その水溶性抽出液の両方について、GABA、総可溶性フェノール、総フラボノイド、総アントシアニン、総プロアントシアニジン、そして抗酸化能の指標であるORAC(酸素ラジカル吸収能)を測定しました。比較対象として、無処理の対照と、水に浸けただけ(浸漬)の試料も用意しています。

GABAは発芽の進行を示す指標としてふるまいました。対照と浸漬試料では検出されず、水を吸わせるだけでは検出できる量にならなかった一方、発芽させた試料では8.01〜21.02 mg/100 gの範囲で蓄積し、最も高かったのは14 °Cで60時間発芽させた条件でした。統計モデルでは、発芽時間を延ばすほど、また温度を上げるほどGABAは減る傾向が示されており、著者らは、代謝活動が高まるにつれてGABA自体が次の代謝経路で消費されていく可能性を指摘しています。

色素や関連成分は、粉と抽出液で異なる挙動を見せました。粉では、アントシアニンもプロアントシアニジンも、発芽時間が短く温度が低め〜中程度の条件で多く保たれ、時間と温度がともに大きくなると減少が強まりました。浸漬だけでもアントシアニンは約24.9%、プロアントシアニジンは約44.4%減っており、水溶性の高い成分が水に流れ出ることの影響がうかがえます。フラボノイドも浸漬で約29.9%減りましたが、その後の発芽で部分的に回復しました。

一方、水溶性抽出液では別の姿が見えます。短め〜中程度の発芽条件で得た抽出液では、フラボノイドが無処理の対照抽出液を上回り、アントシアニンについても特定の条件(24時間・23 °C)で対照より高い値が得られました。粉の中の総量は減っていても、水に取り出せる量は増えうるということです。著者らは、発芽によって細胞壁の多糖が酵素的に変化し、色素と基質の結びつきが弱まって抽出しやすくなるためだと説明しています。ただし発芽を長くしたり温度を上げたりすると、この利点は失われるとしています。

なお、粉の総可溶性フェノールとORACについては、あてはめたモデルが統計的に有意にならず、実験範囲全体で一貫した傾向は示されなかったため、著者らは treatment 間の差を記述的に扱っています。抽出液側のモデルは有意で、温度が高いほど総可溶性フェノールの回収量が増える方向が示されました。

多変量解析では、無処理の対照が発芽処理群全体からはっきり離れて位置し、発芽が黒米の成分プロファイルを大きく変えたことが示されました。同一条件で繰り返した中心点の試料は互いに近くまとまり、再現性の高さを裏づけています。PLS-DAでは、粉のGABAが試料の区別に最も強く寄与する変数で、次にフラボノイドとアントシアニンが続きました。

有意なモデルで表せた応答を同時に最大化する数値最適化では、19.7 °Cで27時間という条件が導かれ、総合的な望ましさは70.81%でした。つまり、比較的短い発芽時間と穏やかな温度の組み合わせが、複数の成分を同時に高める折り合いの良い点だという結果です。ただし検証では、抽出液のフラボノイド、粉と抽出液のアントシアニン、粉と抽出液のプロアントシアニジンのモデルは相対偏差3.50〜16.22%で良好だったのに対し、GABA、抽出液の総可溶性フェノール、粉のフラボノイド、抽出液のORACのモデルは偏差が20%を超え、予測精度は低かったと報告されています。

この研究が示すこと

この研究が示したのは、黒米の発芽が「成分を増やす処理」というより、成分の量と在りかを同時に組み替える処理だということです。粉に残る総量と、水で取り出せる量は別に動きます。したがって、穀粒そのものを活かしたいのか、水溶性の抽出液を得たいのかによって、選ぶべき発芽時間と温度は変わってきます。

著者らの報告によれば、時間と温度を短め・穏やかめに抑えた条件が、複数の機能性成分をまとめて高めるうえで折り合いの良い領域でした。発芽という古くからある処理を、時間と温度という二つの単純な変数で制御する視点が、黒米に含まれる成分の扱い方を整理する手がかりになることを、この研究は示しています。

著者:de Jesus LK(Laboratório Integrado de Cereais e Lipídeos (LICEL), Instituto de Ciência e Tecnologia (ICT), Universidade Federal dos Vales do Jequitinhonha e Mucuri (UFVJM), Diamantina 39100-000, Brazil.)、Brites LTGF(Departamento de Engenharia Agronômica, Centro Universitário de Araras Dr. Edmundo Ulson, Araras 13603-112, Brazil.)、Lavado-Cruz A(Departamento de Engenharia e Tecnologia de Alimentos, Faculdade de Engenharia de Alimentos, Universidade Estadual de Campinas (UNICAMP), Campinas 13083-862, Brazil.)、Andressa I(Departamento de Tecnologia de Alimentos, Universidade Federal de Viçosa, Viçosa 36570-900, Brazil.)、Sehn GAR(Centro de Educação Superior do Oeste, Departamento de Engenharia de Alimentos e Engenharia Química, Universidade do Estado de Santa Catarina, Pinhalzinho 89870-000, Brazil.)、Wickert E(Estação Experimental de Itajaí, Empresa de Pesquisa Agropecuária e Extensão Rural de Santa Catarina (EPAGRI), Itajaí 88318-112, Brazil.)、Neves NA(Laboratório de Pesquisa em Bioativos de Plantas (FITOLAB), Departamento de Agronomia, Faculdade de Ciências Agrárias (FCA), Universidade Federal dos Vales do Jequitinhonha e Mucuri (UFVJM), Diamantina 39100-000, Brazil.)、Schmiele M(Laboratório Integrado de Cereais e Lipídeos (LICEL), Instituto de Ciência e Tecnologia (ICT), Universidade Federal dos Vales do Jequitinhonha e Mucuri (UFVJM), Diamantina 39100-000, Brazil.)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):de Jesus LK, Brites LTGF, Lavado-Cruz A, et al. Germination Time and Temperature Modulate Bioactive Compound Accumulation in Black Rice (<i>Oryza sativa</i> L.) and Optimize Functional Water-Soluble Extract Production. Plants (Basel, Switzerland) 2026-09-08. DOI: 10.3390/plants15182748. 原著ライセンス:CC BY.