キヌアという名前は最近すっかり定着しましたが、同じアンデス地方には「カニワ」や「キウィチャ」といった、あまり知られていない擬似穀物も存在します。これらは小麦などの穀物とは植物学的に異なるものの、穀物のように調理・加工できることから「擬似穀物」と呼ばれています。今回紹介する論文は、こうしたアンデス擬似穀物を発芽させることで栄養や機能性がどう変化するのか、そしてその発芽をより効果的に行うための新しい技術について、これまでの研究をまとめたレビュー論文です。

そもそも、なぜ「発芽」に注目するのでしょうか。種子は発芽の過程で酵素が活性化し、栄養成分や機能性成分が変化することが知られています。この論文でも、キヌア・カニワ・キウィチャはもともと必須アミノ酸をバランスよく含む良質なたんぱく質や食物繊維を豊富に含み、さらに抗酸化作用や血圧・血糖に関わるとされる多様な生理活性成分を持つことが特徴として挙げられています。

研究でわかったこと

この論文では、まず従来の発芽方法とその条件について整理したうえで、発芽の前処理として使われ始めている「非熱的技術」と呼ばれる新しい手法を紹介しています。具体的には、超音波、高静水圧、コールドプラズマ、磁場といった技術です。これらは熱を加えずに種子に作用させる処理法で、これまでの研究では、酵素活性を高めたり、消化や栄養吸収を妨げるとされる抗栄養素の含量を減らしたり、機能性成分の合成を促したりする効果が報告されているとまとめられています。

ただし、こうした技術に関する研究の蓄積には偏りがあることも指摘されています。キヌアについては相当数の研究が行われている一方で、カニワとキウィチャに関する研究はまだ限られているとのことです。

また、発芽させた粉を使ってグルテンフリーの焼き菓子やパンなどを作った場合、生地の物性(レオロジー特性)や食感、官能評価(味・見た目などの評価)において改善がみられたことも報告されています。もっとも、こうした発芽処理を工業的な規模で行うための条件はまだ十分に定まっておらず、グルテンフリー製品特有の製造コストの高さも課題として残っていると述べられています。

さらに、この論文では文献の引用状況を分析する「ビブリオメトリック分析」も行われており、世界的にグルテンフリー製品への関心が高まっていること、それに伴いこれらのアンデス擬似穀物に商業的な可能性が生まれつつあることが示されています。中でもカニワは、気候変動への耐性や栄養価の高さから、特に有望な素材として位置づけられています。

この研究の位置づけ・読むうえでの注意

この論文は、実験を新たに行った研究ではなく、これまでに発表された研究成果を整理・統合した「レビュー論文」です。そのため、超音波やコールドプラズマなどの技術が実際にどの程度の効果を持つかは、個々の元論文の条件によって異なる可能性があり、この記事で紹介した内容がすべての条件下で当てはまるとは限りません。また、論文自体が述べているとおり、カニワやキウィチャに関する研究はまだ少なく、今後さらなる研究による検証が必要とされています。工業規模での処理条件の確立や、グルテンフリー製品のコスト面の課題についても、今後の研究課題として位置づけられています。

まとめ

この論文は、キヌア・カニワ・キウィチャというアンデス由来の擬似穀物について、発芽処理とそれを補助する超音波・高静水圧・コールドプラズマ・磁場といった非熱的技術の可能性を整理したレビューです。発芽粉を用いたグルテンフリー製品の物性改善が報告される一方、産業規模での条件確立やコストといった課題も残されており、著者らは今後の研究の必要性を強調しています。世界的なグルテンフリー食品への関心の高まりを背景に、気候変動への耐性を持つカニワなど、アンデス擬似穀物の食料安全保障や持続可能な発展への貢献が今後注目されていく可能性がある分野といえそうです。

※本記事は下記の原著論文を紹介するものです。参考文献:アンデス地方の擬似穀物の発芽最適化のための新規非熱前処理技術の応用とグルテンフリー焼成製品への利用(ディスカバー・フード・2026年05月)