栄養不良というと「食べる量が足りない」状態を思い浮かべがちですが、実際には貧血や発育の遅れといった「不足」と、過体重という「過剰」が同じ子どもの中に同時に存在することがあります。ペルー・クスコ地方の高地にある先住民コミュニティの就学前児童を対象にした今回のパイロット研究は、こうした重なり合う栄養問題の実態を、少人数ながら詳細な方法で調べたものです。

調査の舞台は、クスコ地方マラス郡のウルバンバ近郊にある「PRONOEI」という就学前教育プログラムです。PRONOEIは1960年代末につくられた制度で、正規の幼稚園に通えない子どもたちのために週5日・1日約4時間の教育の場を提供し、栄養面の支援も行うことがあります。研究チームはこのPRONOEIに通う、あるいはその兄弟にあたる3〜6歳の子ども12人(女児5人、男児7人、平均年齢5.0歳)を対象に、2024年6月4日から6日にかけてデータを集めました。標高の高い遠隔地の先住民コミュニティは、従来の栄養サーベイランス(継続監視)がほとんど届かない場所であり、複数の栄養問題が同時に存在するかどうかを多角的に評価した例は乏しいという背景があります。

どうやって調べたのか

研究チームは、体重(Seca社製の体重計、精度100グラム)と身長(Seca社製の携帯式身長計、精度1ミリ)を測定し、WHOの基準に基づいて年齢別身長のZスコアやBMIを算出しました。貧血の評価には、指先から採った毛細血管血をHemoCue社製の携帯型ヘモグロビン測定器で測る方法を用い、高地であることを踏まえてWHOの方法(Stevensらの補正式)でヘモグロビン値を標高補正しています。ヘモグロビンが11.0g/dL未満を貧血とし、10.0〜10.9g/dLを軽度、7.0〜9.9g/dLを中等度、7.0g/dL未満を重度と分類しました。

食事については、母親(1例は叔母)への24時間思い出し法による聞き取りに加え、PRONOEIでの食事は教員やスタッフからも情報を集め、家庭内外の摂取量を合算してエネルギーや鉄・カルシウム・亜鉛などの栄養素量に換算しました。さらに、家庭での食料生産の様子、購入できる店の場所、食料支援プログラムの利用状況なども合わせて調べる「食料の入手経路」の把握も行っています。

見えてきた「重なり」の実態

結果として、12人中58.3%にあたる7人が貧血と判定されました。男児では71.4%、女児では40.0%と男児での割合が高く見られました。また、身長が年齢の目安より低い「低身長(発育の遅れ)」と、体重が過剰な「過体重」がそれぞれ33.3%(4人ずつ)に見られました。注目すべきは、貧血の子ども7人のうち2人(28.6%)が低身長も併せ持ち、1人(14.3%)は過体重も併せ持っていたという点で、全体で見ると25%が貧血と低身長を、14%が貧血と過体重を同時に抱えていたことになります。研究チームはこれを国内平均より高い割合だとしています。ただし対象が12人と小規模なため、統計的な比較の解釈には慎重さが必要だと著者らは述べています。

興味深いのは、エネルギー摂取量そのものは平均1574.1kcalで、推奨量の122.6%と「足りている」どころか多めだった点です。過体重の子どもではエネルギー摂取が推奨量の137.1%に達しており、正常体重の子ども(115.2%)より高い傾向が見られました。一方で、たんぱく質はエネルギー比で平均12.1%(推奨範囲10〜35%)、脂質は20.6%(推奨範囲25〜35%)と低めで、炭水化物が67.2%(推奨範囲45〜65%)と高めという偏りがありました。つまり、カロリーは十分でも中身の質に偏りがあるという構図です。

微量栄養素では、鉄の摂取量が推奨量の91.4%相当でしたが、5人(41.7%)は肉・魚・鶏肉などのヘム鉄(動物性食品由来で吸収されやすい鉄分)を全く摂取していませんでした。ヘム鉄の摂取量は、貧血のない子どもで平均1.7mgだったのに対し、軽度貧血の子どもで0.3mg、中等度貧血の子どもで0.2mgと、貧血がある子どもほど少ない傾向が見られています。亜鉛は推奨量の83.8%、カルシウムは66.4%にとどまり、特にカルシウムは83.3%の子どもが推奨量に届いていませんでした。研究チームは、カルシウムや亜鉛の推奨量を満たせていた子どもの多くがチーズを食べていたことも記録しています。食べ物の種類自体は多様で、対象児全員が「5つ以上の食品グループ」を摂取するという多様性の基準を満たしていましたが、果物・野菜の摂取量は1日平均約300gで、推奨される400gには届いていませんでした。

食料の入手経路については、ほとんどの母親が自家生産を主な供給源とし、次いで購入、最後に配給や支援プログラムを挙げました。調査対象の家庭はジャガイモ、豆、トウモロコシ、大麦、小麦、オジュコ、エンドウ豆、キヌア、オート麦、オカ、タルウィなど多様な作物を栽培し、全家庭が羊と鶏を飼育、多くがモルモット、ロバ、豚も飼っていました。なお、モルモットを飼育している世帯の子どもは貧血率が低い傾向が見られましたが、これは相関にとどまり因果関係を示すものではないとされています。PRONOEIの施設内にはゼリーやポップコーン、ビスケットなどを売る売店があり、果物を持参しなかった子どもには売店で使えるお金が渡されることがあるという運用実態も報告されています。

この研究をどう読むか

著者らはこの状態を、貧血・低身長・過体重が重なり合う「三重の栄養負荷」と位置づけています。ただし本研究はあくまで12人という小規模なパイロット(試験的)調査であり、著者ら自身も、対象が少人数の便宜的サンプルであるため一般化には限界があること、また食事調査が「その日1日だけ」の聞き取りに基づくため、日頃の食習慣を正確に反映していない可能性があることを限界点として挙げています。今回の結果は、こうした遠隔地の先住民コミュニティにおいて、栄養不足と過体重を同時に捉える多角的な評価の必要性を示すものであり、著者らは今後、より大規模で代表性のあるサンプルによる検証と、微量栄養素の不足と体重増加の両方に対応する介入策の研究が必要だとしています。

今回の論文には、日本の食品や研究機関に関する記載は含まれていません。あくまでペルー・クスコ地方の一地域における観察に基づく報告であり、この結果だけで先住民コミュニティ全体の状況を断定できるものではない点に留意が必要です。

※本記事は原著論文の翻訳ではなく、研究内容を独自に解説したものです。参考文献:Angeline Gonyea, Krysty Meza, Maria Reyna Liria-Domínguez, et al. INVISIBLE CRISIS: PILOT ASSESSMENT REVEALS OVERLAPPING MALNUTRITION IN INDIGENOUS PRESCHOOLERS OF RURAL PERU. ペルー小児科学雑誌 (2026). DOI: 10.61651/rped.2026v78n2p24-31. 原著ライセンス: cc-by.