日本主導:この研究は、筆頭著者・責任著者、または著者の主要所属が日本の研究機関である研究です。

掲載誌:European Journal of Nutrition

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

パンや麺類などの小麦製品を食べると、セリアック病でも小麦アレルギーでもないのにお腹の張りや痛み、下痢や便秘といった症状が出る人がいることが知られており、これは「非セリアックグルテン過敏症(NCGS)」と呼ばれています。しかし診断が難しく、症状に心当たりがあっても小麦を食べ続けている人は少なくないと考えられています。今回、日本で実施された臨床試験の論文が、ヨーロピアン・ジャーナル・オブ・ニュートリション誌に2026年8月に掲載予定です。研究チームはMizkan Holdings(ミツカン)の中央研究所や、藤田医科大学の医学部・大学病院に所属する研究者らで構成されています。

研究チームが着目したのは、黄色エンドウ豆(Pisum sativum L.)を使い、小麦やグルテンを含まない形で開発したパスタ、パン、チップスです。小麦は「フルクタン」という発酵性の糖(FODMAP の一種)を多く含む食品として知られる一方、今回使われた黄色エンドウ豆にもガラクトオリゴ糖という別のFODMAPが比較的多く含まれると報告されており、単純な「グルテン除去食」とは異なる位置づけの食品として試験されている点が特徴です。

どのように調べたのか

対象は、主食として小麦を使った加工食品を週14回以上食べる習慣がある18〜64歳の男女30人です。事前のアンケートでローマIV基準に基づき、過敏性腸症候群(IBS)や機能性ディスペプシア(FD)の診断基準を満たす「症状あり群(AS+群、15人)」と、満たさない「症状なし群(AS−群、15人)」に分けられました。参加者は2024年12月から2025年2月にかけて、調味料を除くすべての小麦含有食品を4週間避け、代わりに黄色エンドウ豆パスタ(YPP)、同パン(YPB、3種類)、同チップス(YPC)、および比較対照として提供された白飯パック(Sato no Gohan)を自由に食べる生活を送りました。

評価には、腹部の痛みや張り、便の状態など9項目の消化器症状と、皮膚炎や頭痛など4項目の消化器外症状を含む14項目の症状質問票(0〜10点の11段階評価)、SF-36v2によるQOL(生活の質)アンケート、血液検査(IL-6やTNF-αなどの炎症性サイトカイン、抗グリアジンIgG抗体など)、そして便サンプルを用いた16S rRNA遺伝子解析による腸内細菌叢の変化が用いられました。試験参加者の食事日記を分析した結果、全員が小麦含有食品の摂取を全体の食事の20%未満に抑えられており、事前に定めた除外基準に該当した参加者はいませんでした。

研究でわかったこと

症状あり群(AS+群)では、介入前の時点ですでに腹痛・腹部膨満感・軟便・硬便・便意切迫感・残便感の6項目で症状なし群より有意に高いスコアを示していました。4週間の介入後には、腹痛や腹部膨満感は2週目の時点ですでに有意な改善がみられ、硬便・便意切迫感・残便感は4週目までに有意に改善し、これらの項目ではもともとあった両群間の差が消失しました。一方、嘔気・便秘傾向・皮膚炎・頭痛・倦怠感・関節筋肉痛など、介入前から両群差がなかった項目には、介入後も有意な変化は見られませんでした。

QOLについても、AS+群はベースライン時点で精神的健康度(MCS)、全体的健康感、社会生活機能、心の健康の4領域で症状なし群より有意に低い値でしたが、4週間後にはこれらの群間差は見られなくなりました。ただし、介入前後の比較そのもの(週0対週4)では、いずれのQOL項目にも統計的に有意な変化は確認されていません。血液検査では、AS+群でIL-2とIL-6が介入後に有意に上昇しましたが、著者らはIL-6の値がほぼ全参加者で正常範囲内(中央値は両群ともおよそ1000 fg/mL)にとどまっていたことを確認し、臨床的な炎症反応とは考えにくいとしています。

腸内細菌叢の解析では、AS+群において介入前後で細菌叢組成(β多様性)に有意な変化が見られ、症状なし群では明確な変化はありませんでした。具体的には、酪酸やプロピオン酸を産生するとされるEubacterium hallii groupの増加が便意切迫感や残便感の改善と、同じく酪酸産生菌とされるButyricimonasの増加が残便感の改善と、それぞれ統計的に相関していました。研究チームは、これらの短鎖脂肪酸産生菌が炎症性腸疾患の患者で減少しているとの既存報告を踏まえ、腸内環境の変化が症状改善に関わっている可能性を考察していますが、この解釈はあくまで探索的な段階のものだとしています。なお、1日あたり80g以上の黄色エンドウ豆製品を摂取した参加者に限定したサブグループ解析では、症状なし群で倦怠感の有意な改善が見られたと報告されています。

この研究を読むうえでの注意

著者ら自身が指摘している限界として、まずこの試験にはグルテンを含む対照食を食べ続ける比較群が設定されていない「非ランダム化」かつ「非盲検(オープンラベル)」の探索的研究である点が挙げられます。そのため、症状改善が本当にグルテン摂取量の減少によるものなのか、それとも食物繊維摂取量の増加や発酵性基質の変化、食事全体の内容の変化、あるいはプラセボ効果によるものなのかを、この結果だけで切り分けることはできないと著者らは述べています。また、対象者は30人と小規模であり、統計的検出力の計算も行われていない予備的な位置づけの試験です。多重比較の補正も行われていないため、個々のp値の解釈には注意が必要です。

加えて、腸内細菌叢と症状改善の間に見られた相関関係は因果関係を証明するものではなく、著者らも「探索的な相関分析」であることを明記しています。この研究はUMIN臨床試験登録システム(UMIN000056466)に事前登録された試験です。

まとめ

今回の研究では、日常的に小麦を多く食べている人たちが、黄色エンドウ豆を使ったパスタ・パン・チップスに主食を置き換えることで、特にIBSやFDの診断基準を満たすような腹部症状を持つ人において、腹部膨満感や腹痛、便通の乱れなどが4週間で改善する傾向が報告されました。腸内細菌叢でも、酪酸産生に関わるとされる菌の変化と症状改善との関連が観察されています。ただし、これは対照群を置かない探索的な一つの試験であり、効果を断定するものではありません。今後、より大規模でランダム化された試験によって、こうした食品の位置づけがさらに検証されていくことが期待されます。

著者:Hitoshi Shimbo(Central Research Institute, Mizkan Holdings Co., Ltd., Handa-shi, Japan. [email protected])、Mamoru Ito(Central Research Institute, Mizkan Holdings Co., Ltd., Handa-shi, Japan)、Yuto Aoki(Central Research Institute, Mizkan Holdings Co., Ltd., Handa-shi, Japan)、Joto Yoshimoto(Central Research Institute, Mizkan Holdings Co., Ltd., Handa-shi, Japan)、Mikiya Kishi(Central Research Institute, Mizkan Holdings Co., Ltd., Handa-shi, Japan)、Jiro Saito(Medical Station Clinic, Meguro-ku, Japan)、Yukihiro Ohya(Department of Allergology, Fujita Health University School of Medicine, Nagoya, Aichi, Japan)、Masashi Nakamura(Department of Allergology, Fujita Health University School of Medicine, Nagoya, Aichi, Japan)、Senju Hashimoto(Department of Gastroenterology, Fujita Health University Bantane Hospital, Nagoya, Aichi, Japan)、Akiko Yagami(Department of Allergology, Fujita Health University School of Medicine, Nagoya, Aichi, Japan)

※本記事は原著論文の翻訳ではなく、研究内容を独自に解説したものです。出典(原著論文):Hitoshi Shimbo, Mamoru Ito, Yuto Aoki, et al. Effects of reduced gluten intake through the inclusion of yellow pea-based products on abdominal symptoms in habitual wheat consumers: a non-randomized clinical trial. ヨーロピアン・ジャーナル・オブ・ニュートリション (2026). DOI: 10.1007/s00394-026-04097-2.