大やけど(熱傷)を負った患者は、集中治療を受けている間に筋力が低下し、立つ・座る・歩くといった基本的な動作が難しくなることがあります。背景には、やけどによって体が「ハイパーメタボリズム(代謝亢進)」と呼ばれる状態に入り、組織の修復やエネルギー確保のために自分の筋肉を分解してしまう現象があります。インドネシアの大学病院からの症例報告として、ワールド・ニュートリション・ジャーナルに2026年8月31日付で掲載予定の研究では、重症熱傷を負った成人男性2人を対象に、エネルギーとタンパク質の摂取量を段階的に増やしていく栄養管理と、機能回復の様子が記録されています。著者らはインドネシア大学医学部およびチプト・マングンクスモ病院(ジャカルタ)の栄養科・形成外科に所属しています。

2人の患者に何が起きたか

1例目は39歳の男性で、たばこの灰の火花による火炎熱傷を負い、体表面積の35.5%にⅡ度浅達性からⅢ度の熱傷がありました。入院時はBMI34.8の肥満(クラスII)でしたが、低ナトリウム血症(ナトリウム128.8mmol/L)や高カリウム血症(カリウム5.2mmol/L)、低アルブミン血症もみられ、栄養リスクスクリーニング(NRS-2002)でも「栄養不良のリスクあり」と判定されました。栄養療法は体重1kgあたり10kcal・タンパク質1gという控えめな量から始まり、状態を見ながら最終的に42kcal・タンパク質1.9gまで引き上げられました。この間、集中治療下の熱傷患者向けに開発された機能評価スケール「FAB-CC(Functional Assessment for Burns–Critical Care)」のスコアは、入院時の19点前後から退院時には30点(自立して立つ・歩く・動作ができる状態)まで上昇しました。

2例目は35歳の男性で、バイク走行中の熱湯によるやけどで、体表面積の57.5%に熱傷を負いました。経過中に敗血症性ショックと多剤耐性菌感染症を合併し、集中治療室での管理や人工呼吸器(2日間)が必要になるなど、より重篤な経過をたどりました。栄養療法は体重1kgあたり10kcal・タンパク質0.4gから開始し、最終的にはピーク時で60kcal・タンパク質2.5gまで増量されています。この患者ではFAB-CCスコアが入院時の3点から一時23点まで改善したものの、敗血症性ショックの影響で一度低下し、最終的には20点で退院となりました。28日間の観察の中で体重は55.7kgから51.5kgへ約8%減少しており、これは1例目より大きな体重減少で、感染症による発熱や食欲低下が関係した可能性があるとされています。

栄養摂取と機能回復がどう結びつくと考えられているか

熱傷では、損傷組織の修復や重要臓器の機能維持のために代謝が大きく亢進し、エネルギー必要量が基礎代謝の1.5〜2倍に達することもあるとされています。同時に体は筋肉のタンパク質を分解してアミノ酸を取り出し、糖新生やCRP(C反応性タンパク)のような急性期タンパク質の合成に利用するため、適切な管理をしないと最初の1週間で筋肉量が15〜20%も失われる可能性があると論文では説明されています。今回の2症例では、いずれもエネルギーとタンパク質の摂取量が段階的に増えるのに伴って、FAB-CCスコアも上昇する傾向がみられました。論文では、体重1kgあたり30〜33kcal程度のエネルギーと1.3〜1.5g程度のタンパク質摂取が続いた期間に、機能状態の改善が伴っていたことが示されています。栄養療法としては、通常の固形食に加えて、病院で用いられる高タンパクの経口栄養補助食品(液体タイプ)も併用されました。

この研究の位置づけと注意点

著者ら自身が述べているように、この報告は対照群を置かない2例のみの症例集積であり、栄養摂取量と機能回復の関連について統計的な解析は行われていません。また、敗血症、繰り返しの壊死組織切除(デブリードマン)、集中治療室での滞在期間など、栄養以外にも機能回復に影響しうる要因が多く絡んでおり、機能改善がエネルギー・タンパク質摂取の増加だけによるものと断定はできないとされています。実際に論文では、リハビリテーション科による定期的なリハビリ、形成外科・感染症科による感染管理、看護や精神科によるサポートなど、複数の診療科が関わる集学的な治療全体が回復に寄与した可能性にも触れられています。あくまで一つの症例報告であり、今後より厳密な方法によるさらなる研究が必要だと著者らは述べています。

まとめ

重症熱傷を負った2人の男性患者について、エネルギーとタンパク質の摂取量を段階的に増やす栄養管理を行ったところ、集中治療における機能評価スコア(FAB-CC)の改善が並行して観察されたことが報告されました。ただしこれは対照群のない少数例の観察であり、感染症の合併など他の要因の影響も大きいことから、栄養摂取の増加が機能回復を直接もたらすと結論づけるものではありません。熱傷患者のケアにおいて、栄養管理が集学的治療の一部として重要になりうることを示唆する報告として位置づけられます。

※本記事は原著論文の翻訳ではなく、研究内容を独自に解説したものです。参考文献:Marsha Kurniawan, Wina Sinaga, Aditya Wardhana, et al. The role of energy and protein adequacy in improving functional capacity in adult males with severe burn injury: A case series. ワールド・ニュートリション・ジャーナル (2026). DOI: 10.25220/wnj.v10.i1.0005. 原著ライセンス: cc-by.