パーキンソン病は、脳内のドーパミン神経細胞が徐々に失われていくことで運動機能などに支障が出る、進行性の神経変性疾患です。近年の研究では、酸化ストレスや脳の炎症に加えて、腸内細菌のバランスの乱れ(ディスバイオシス)がこの病気の進行に関わっている可能性が指摘されており、「腸と脳が互いに影響し合う」という腸脳相関(gut-brain axis)という考え方が注目を集めています。今回紹介する研究は、発酵食品由来の乳酸菌が作り出す短鎖脂肪酸(SCFA)に着目し、この腸脳相関を通じた神経保護の可能性を、ゼブラフィッシュを使った動物モデルで調べたものです。
研究チームは、伝統的な発酵キャベツ(ザワークラウト)から短鎖脂肪酸を作る乳酸菌を分離し、形態や生化学的性質、遺伝子解析(16S rRNA遺伝子配列など)から、最も有望な菌株を Lactiplantibacillus plantarum C10 として同定しました。この菌の発酵条件を最適化して短鎖脂肪酸の産生量を高め、赤外分光法(FTIR)や高速液体クロマトグラフィー(HPLC)でその代謝産物を分析したところ、発酵由来の有機酸が確認されました。またDPPH法・ABTS法という抗酸化活性を調べる試験でも、これらの代謝産物に強い抗酸化活性がみられたと報告されています。
研究でわかったこと
まず安全性の確認として、ゼブラフィッシュの胚を用いた発生毒性試験が行われ、この代謝産物は30 mg/mLという濃度までは発生への影響がほとんどみられなかったとされています。
次に、神経毒性物質であるロテノンを投与してパーキンソン病様の症状を誘発した成体ゼブラフィッシュに、このC10由来短鎖脂肪酸を与える実験が行われました。その結果、抗酸化酵素の働きが回復し、酸化ストレスが軽減された状態が確認されたと報告されています。また、運動機能や認知機能に関わる行動評価においても改善がみられたとされ、神経機能や炎症、NRF2という抗酸化関連の情報伝達経路、腸のバリア機能、腸内細菌に関連する遺伝子の発現にも変化がみられたことが示されています。さらに、脳や腸の組織を顕微鏡で観察したところ、通常に近い構造が保たれていたことも報告されています。
これらの結果から、研究チームは L. plantarum C10 由来の短鎖脂肪酸代謝物が、抗酸化作用や抗炎症作用を介し、腸脳相関の調節を通じて神経保護的にはたらく可能性が示唆されるとしています。
この研究の位置づけ・読むうえでの注意
この研究は、ヒトを対象にしたものではなく、ゼブラフィッシュという実験動物を用いた基礎研究です。ロテノンによって人工的にパーキンソン病様の状態を作り出したモデルでの結果であり、ヒトの体内で同様の効果が得られるかどうかは、この論文の要旨だけからは判断できません。また、発酵キャベツやこの乳酸菌を含む食品を摂取することが、パーキンソン病の予防や治療につながると直接結論づけられているわけではない点にも注意が必要です。あくまで一つの動物実験の研究成果であり、今後さらなる検証が必要な段階といえます。
まとめ
発酵キャベツから分離された乳酸菌 L. plantarum C10 が産生する短鎖脂肪酸について、パーキンソン病モデルのゼブラフィッシュにおいて、酸化ストレスの軽減や運動・認知機能に関する行動指標の改善、腸脳相関に関わる遺伝子発現や組織構造の変化がみられたことが報告されました。プロバイオティクス由来の短鎖脂肪酸が、腸内環境と脳の健康を結びつける機能性食品分野の研究対象として、今後注目される可能性を示す一つの知見といえそうです。
※本記事は下記の原著論文を紹介するものです。参考文献:Lactiplantibacillus plantarum C10由来短鎖脂肪酸(SCFA)の神経保護作用:ロテノン誘発パーキンソン病成体ゼブラフィッシュモデルにおける腸脳相関破綻を標的とした機能性食品アプローチ(フロンティアーズ・イン・ニュートリション・2026年07月)