手術のあと、体力の回復とともに気になるのが「感染症」のリスクです。実は、手術によって腸内細菌のバランスが乱れることが、術後の感染合併症につながる可能性があると考えられており、これを防ぐ手段としてプロバイオティクス(体によい影響を与えるとされる生きた微生物)やシンバイオティクス(プロバイオティクスと、その働きを助ける食物繊維などを組み合わせたもの)が注目されています。とはいえ、どの菌株が術後の食事に適しているのかは、まだはっきりとはわかっていませんでした。今回紹介する研究は、Leuconostoc(ロイコノストック)属という乳酸菌の仲間に着目し、術後の栄養食として使えるかどうかを調べたものです。

研究でわかったこと

研究チームは、Leuconostoc属の3種類の菌――L. suionicum MS009、L. mesenteroides MS061、L. mesenteroides JCM6124――を対象に、いくつかの角度から性質を調べました。具体的には、(1)お粥の中でどれだけ増殖できるか、(2)胃の中を模した強い酸性の液体(模擬胃液)にどれだけ耐えられるか、(3)小腸の上皮細胞(INT-407という培養細胞)にどれだけ付着できるか、という3つの実験です。

その結果、L. suionicum MS009とL. mesenteroides MS061はお粥の中でよく増殖する一方、酸には弱いことがわかりました。さらに、L. suionicum MS009は小腸の細胞への付着力が特に強いことが示されました。

次に研究チームは、L. suionicum MS009をラットに投与し、盲腸の内容物や便を対象にメタゲノム解析(腸内細菌の種類や構成を調べる手法)と代謝物の分析を行いました。すると、L. suionicum MS009の投与によって腸内細菌叢の多様性に変化が見られ、酪酸(短鎖脂肪酸の一種で、腸内環境と関わりが深いとされる物質)の増加、そして盲腸内容物における免疫グロブリンA(粘膜免疫に関わる抗体)の上昇が確認されたと報告されています。

これらの結果を総合し、研究チームはL. suionicum MS009がL. mesenteroides MS061よりもお粥中での増殖性やINT-407細胞への付着能において優れていたとし、ラットの実験では腸内細菌叢のプロファイルを変化させることで免疫調節的な働きを示したと結論づけています。

この研究の位置づけと読むうえでの注意

この研究は、菌の基礎的な性質を調べる実験と、ラットを用いた動物実験によって得られた知見です。ヒトに対して同じ効果が得られるかどうかは、この要旨の情報だけでは判断できません。また、免疫グロブリンAの上昇や酪酸の増加といった変化が、実際に術後感染症の予防や体調の改善に直接つながるかどうかについても、この研究だけで結論づけられるものではなく、一つの研究成果として今後さらに検証が重ねられていく性質のものと捉えるのがよいでしょう。

まとめ

今回の研究では、Leuconostoc属の中でもL. suionicum MS009という菌が、お粥の中での増殖のしやすさや腸の細胞への付着のしやすさに優れ、ラットの実験では腸内細菌叢を変化させて免疫に関わる働きを示したことが報告されました。研究チームは、L. suionicum MS009を加えたお粥が、術後の患者向けの新しい食事の選択肢になり得ると述べています。今後、ヒトでの検証も含めさらなる研究の進展が期待されるテーマといえそうです。

※本記事は下記の原著論文を紹介するものです。参考文献:新規同定Leuconostoc属菌種の細菌学的特性と機能評価:術後栄養のための新規プロバイオティクス(サイエンティフィック・リポーツ・2026年08月)