タケノコの発酵食品、ドーサ生地、カレー、イドリ、牛乳、ヨーグルトなど、私たちの食卓や各地の伝統食に登場する発酵食品には、乳酸菌(LAB)と呼ばれる微生物が多く含まれていることが知られています。乳酸菌は「プロバイオティクス」、つまり体に良い働きをする可能性のある生きた微生物として注目されてきましたが、その性質は菌株ごとに異なります。今回紹介する研究では、さまざまな発酵食品から乳酸菌を分離し、それぞれの菌がプロバイオティクスとしてどのような特性を持つのかを詳しく調べました。さらに、分離した菌の一部が銀ナノ粒子という微小な粒子を作り出す働きを持つかどうかも検討しています。発酵食品の研究とナノテクノロジーが結びつく、少し意外な組み合わせが本研究の面白いところです。

研究でわかったこと

研究チームは、タケノコ発酵食品、ドーサ生地、カレー、イドリ、牛乳、ヨーグルトといった発酵食品から、合計16種類の乳酸菌を分離しました。その中から6種類を選び、形や性質、生化学的な特徴に加え、酸への耐性、胆汁への耐性、抗生物質への感受性、乳酸を作り出す能力、細胞表面の性質(疎水性)、乳糖を分解する酵素(β-ガラクトシダーゼ)の活性、そしてバイオフィルム(細菌が作る膜状の集合体)の形成を抑える働きについて評価しています。

その結果、すべての分離株が酸性環境や胆汁の存在下でも十分に増殖できることが確認されました。また、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)に対してバイオフィルム形成を抑える働きも期待できる結果が得られたと報告されています。乳糖を分解する酵素の活性も認められており、乳糖不耐症に関連する働きを持つ可能性が示唆されています。抗生物質への感受性を調べることで、菌株ごとの安全性に関わる特徴も確認されたほか、乳酸の生成量や塩による凝集実験を通じて、これらの菌の機能的な安定性についてもさらに検証されたとしています。

分子レベルの解析(配列決定)により、分離株の一つ「TD2」は Bacillus paramycoides という菌であることが特定されました。この菌は、銀ナノ粒子を作り出す「グリーン合成」と呼ばれる手法に利用されています。グリーン合成とは、化学薬品を多用する従来の方法とは異なり、微生物などの生物由来の仕組みを使ってナノ粒子を作り出すアプローチです。実験で得られた銀ナノ粒子は、波長427nm付近に吸収のピークを示し、これはナノ粒子が実際に合成されたことを示す指標だと説明されています。この結果は、微生物を使ったナノ粒子生産が環境面でも有用である可能性を示すものだとされています。

この研究の位置づけ・読むうえでの注意

この研究は、発酵食品が乳酸菌の豊富な供給源であり、プロバイオティクスやプレバイオティクス(イヌリンなど)としての利点を持つ可能性を示すとともに、一部の分離株がナノバイオテクノロジー分野でも応用できる可能性を示したものです。ただし、これは一つの研究成果であり、ここで報告された特性がすぐに健康効果の保証や製品化を意味するものではありません。プロバイオティクスとしての働きや銀ナノ粒子の応用可能性については、今後さらに検証が重ねられていく段階にあると考えられます。

まとめ

今回の研究では、身近な発酵食品からプロバイオティクスとしての特性を持つ乳酸菌が複数見つかり、その中の一株が銀ナノ粒子の合成にも利用できることが示されました。研究チームは、食品の機能性とプロバイオティクスを組み合わせることで、機能性食品やグリーンナノテクノロジーに基づく生体材料の開発につながる可能性があると述べています。発酵食品という身近なものから、健康分野とナノテクノロジー分野の両方に広がる研究の芽が見えてくる、興味深い報告といえるでしょう。

※本記事は下記の原著論文を紹介するものです。参考文献:各種発酵食品由来分離株のプロバイオティクス特性評価と細菌による銀ナノ粒子合成における役割(アクタ・サイエンティアルム・ポロノルム・テクノロギア・アリメンタリア・2026年08月)