プロポリスは、ミツバチが植物の芽や樹脂を集めて作る樹脂状の物質で、古くから抗菌・抗炎症・組織修復などの働きが伝統医療で利用されてきました。中でも「ブラジル産グリーンプロポリス」は新型コロナウイルス感染症の流行時に抗ウイルス作用が注目された一方、肥満や2型糖尿病といった代謝性疾患への効果を検討した研究はまだ少ないとされています。今回紹介するのは、リオデジャネイロ州立大学(ブラジル)薬理学教室の研究グループが、これまでに発表された論文をまとめて整理したレビュー論文です。肥満や2型糖尿病の世界的な広がりを背景に、グリーンプロポリスが持つ抗酸化作用・抗炎症作用に着目し、動物実験や臨床試験の知見を横断的に検証しています。

グリーンプロポリスとはどんな物質か

この論文によると、ブラジルのプロポリスは産地や色によって大きく5種類(北東部の赤色系2種、南東部の緑色系1種、南部の褐色系2種)に分類されます。グリーンプロポリスは主に南東部・中西部・セラード地域で生産され、ミツバチが Baccharis dracunculifolia(キク科の植物)の若葉や新芽から集めた樹脂が主成分です。ブラジルは世界第3位のプロポリス生産国で、生産されたグリーンプロポリスの約80%が日本に輸出されているという記述があり、日本の読者にとっても身近な関わりを持つ製品であることがうかがえます。

化学成分の面では、グリーンプロポリスには artepillin C(アルテピリンC)、baccharin(バッカリン)、drupanin(ドルパニン)といったプレニル化桂皮酸誘導体が豊富に含まれ、なかでもartepillin Cはこの種のプロポリスを特徴づける指標成分とされています。ほかにもフラボノイド(アロマデンドリン-4′-O-メチルエーテル、カエンフェリドなど)や、蜂を引き寄せる働きを持つとされる揮発性セスキテルペン(スパツレノール、ネロリドール)などが含まれます。著者らは、ヨーロッパ産プロポリス(主にフラボノイドやカフェ酸誘導体が主体)とは化学組成が明確に異なり、作用する仕組み(分子標的)も異なる可能性があるため、産地の異なるプロポリス同士の効果を単純に比較することはできないと指摘しています。

動物実験と臨床試験から見えてきたこと

論文がまとめた表では、複数の実験・臨床研究の内容が整理されています。例えばストレプトゾトシン誘発糖尿病ラットを用いた実験(6~8週間、1日あたり0.3〜0.6g/kgなどの用量)では、活性酸素種(ROS)の産生が減り、SOD(スーパーオキシドディスムターゼ)やカタラーゼといった抗酸化酵素が増加し、血糖コントロールの改善や膵島の保護が報告されています。高脂肪食を与えたマウスでは、artepillin C単体(1日10mg/kg、28日間)の投与でNrf2/HO-1という細胞の防御反応に関わる経路が活性化され、脂肪組織の炎症が軽減したとする結果も紹介されています。遺伝的に肥満・糖尿病を示すdb/dbマウスを使った研究では、グリーンプロポリスを餌に混ぜて与えることで、炎症を促すM1マクロファージが減り、抗炎症的なM2マクロファージが増えるといった免疫細胞の変化(いわゆる「マクロファージの極性転換」)や、肝臓の線維化・全身性炎症の軽減が報告されています。

ヒトを対象にした臨床試験も紹介されていますが、規模はいずれも小さいものです。例えば2型糖尿病患者を対象にグリーンプロポリスの錠剤(1日900mg、18週間)を投与した試験では、抗酸化物質であるグルタチオン(GSH)の増加やTNF-αの減少がみられた一方、血糖値そのものには有意な変化がなく、むしろIL-1βやIL-6が増加するという逆説的な結果も報告されています。また、地域在住の高齢女性49人を対象にした12週間のランダム化比較試験(1日あたりカプセル3粒×2回、総量約1362mgのプロポリス摂取)では、SOD活性の上昇、酸化ストレスマーカーの低下、体脂肪量の減少、抗炎症性のホルモンであるアディポネクチンの増加が報告されています。ただし著者らは、この試験が女性・高齢者のみを対象とした小規模なものであり、炎症性サイトカインを包括的に測定していない点を限界として挙げています。

この研究を読むうえでの注意点

著者らは、グリーンプロポリスの成分量が採取時期や場所によって大きく変動する点を重要な課題として挙げています。ある調査では、artepillin Cとdrupaninは特定の月(4月と12月)にしか検出されなかった一方、baccharinは年間を通して検出されたとされ、「ブラジル産グリーンプロポリス」と一括りにされる製品でも成分組成が大きく異なりうることが示されています。抽出に使う溶媒(エタノール、水、油など)によっても含有量が変わるため、化学的な標準化がなされていない製品を使った研究同士を単純比較することは難しいと述べられています。

また、これまでの機序研究の多くがマウスなどの動物モデルに基づくものであり、加齢・性別・遺伝的背景・食習慣・薬剤使用など人間の複雑な要因を十分に反映できていない可能性も指摘されています。臨床試験についても、参加人数が少ない、試験期間が短い、単一施設での実施にとどまる、といった限界が繰り返し言及されており、著者らは今後、化学的に標準化された製剤を用いた、より大規模で質の高いランダム化比較試験が必要だとしています。

この論文はあくまで既存研究を整理したレビューであり、グリーンプロポリス自体が新たな効果を実証したものではありません。紹介されている個々の実験・臨床試験も、動物モデルや小規模な人での試験が中心であるため、ここで報告された内容が直ちにヒトでの効果を保証するものではない点に留意が必要です。

まとめ

ブラジル産グリーンプロポリスは、artepillin Cをはじめとする独自の成分を持ち、動物実験や一部の小規模な臨床試験では抗酸化・抗炎症に関連する変化が報告されています。一方で、成分量のばらつきや標準化されていない製剤の使用、臨床データの少なさといった課題も多く指摘されており、著者らはこの分野の研究がまだ発展途上にあると位置づけています。今後、成分を標準化した製剤を用いた大規模な臨床研究の蓄積が待たれるといえるでしょう。

※本記事は原著論文の翻訳ではなく、研究内容を独自に解説したものです。参考文献:Juliana Gomes Soares, Caroline Alves de Araújo, Giovana Dias Ramundo, et al. Brazilian green propolis in obesity and diabetes: A comprehensive review from antioxidant and anti-inflammatory actions. ヌトリーレ (2026). DOI: 10.1186/s41110-026-00511-1. 原著ライセンス: cc-by.