マツヨイグサ(Oenothera biennis)といえば、γ-リノレン酸を含む種子油が健康食品や研究の対象として広く知られてきました。一方で、この植物の若芽や葉は昔から食用の野草として利用されてきたにもかかわらず、その成分や働きについてはあまり詳しく調べられていませんでした。今回、韓国生命工学研究院天然物研究センターなどの研究グループが、マツヨイグサの若芽・葉から得たエタノール抽出物に着目し、そこに含まれるフェノール化合物と、抗酸化・抗炎症に関わる働きとの関係を詳しく調べた研究を報告しました。
研究グループは、乾燥させたマツヨイグサの若芽100gを80%エタノール2Lに浸し、24時間かけて成分を抽出しました。得られた抽出物を、逆相のカラムを用いた液体クロマトグラフィーによって時間ごとに10個の画分(OB01〜OB10)に分け、それぞれをUPLC-PDA-QTOF/MSという分析装置で化学成分を調べました。次に、マウス由来の海馬神経細胞株HT22(抗酸化応答配列にルシフェラーゼ遺伝子を組み込んだHT22-ARE細胞を含む)と、マウス由来のミクログリア細胞株BV2を用いて、それぞれの画分がどのような生物学的な反応を示すかを調べました。具体的には、抗酸化応答に関わるARE-ルシフェラーゼ活性、細胞内の活性酸素種(ROS)量、そしてリポ多糖(LPS)で炎症刺激を与えたBV2細胞での一酸化窒素(NO)産生量を指標にしています。
後半の画分に抗酸化・抗炎症の働きが集中
10個の画分を50μg/mLの濃度でHT22-ARE細胞に処理したところ、比較的溶出の遅いOB06〜OB10の画分でARE-ルシフェラーゼ活性が大きく上昇した一方、早く溶出したOB01〜OB05ではほとんど変化が見られませんでした。さらにOB06〜OB08の画分を細かく分離し、得られたサブ画分(OB06_1、OB07_2、OB07_6、OB07_7、OB08_1、OB08_2、OB08_3など)でも同様にARE-ルシフェラーゼ活性を高める働きが確認されています。
これらの活性画分をNMRなどでさらに解析した結果、オエノテインB、エラグ酸、クエルセチン3-O-グルクロニド(Q3OG)、イソクエルシトリン、アビキュラリン、ケンフェロール3-O-グルクロニド(K3OG)、ケンフェロール-O-ガロイルグルクロニド、3-メチルエラグ酸(3meEA)、フルギド酸、3α,6α,19β,23-テトラヒドロキシウルス-12-エン-28-オイック酸、アシアチン酸という11種類の主要な成分が特定されました。市販の標準品が入手できた8種類について個別に細胞実験を行ったところ、Q3OGと3meEAはHT22-ARE細胞でARE-ルシフェラーゼ活性を濃度依存的に高め、エラグ酸・3meEA・フルギド酸はグルタミン酸で酸化ストレスを与えたHT22細胞の生存率を改善し細胞内ROS量を減らしました。またQ3OG・3meEA・フルギド酸は、10μMの濃度でLPS刺激を受けたBV2細胞のNO産生を抑える働きも示しました。定量分析では、オエノテインB(37.2mg/g抽出物)、ケンフェロール-O-ガロイルグルクロニド(59.8mg/g抽出物)、3meEA(35.0mg/g抽出物)が抽出物中で比較的多く含まれる成分であることも示されています。
この研究の位置づけと読むうえでの注意
著者らは、今回得られた結果が、別の研究でマツヨイグサの若葉抽出物をアルツハイマー病モデルマウス(5xFADマウス)に投与した際に学習・記憶機能の低下が緩和され、血中のTNFαやNOが減少したとする報告と方向性が一致すると述べています。ただし、これはあくまで別の動物実験の結果との整合性についての考察であり、本研究自体はヒトや動物を対象にしたものではありません。実験はすべて培養細胞を使ったものであり、これらのフェノール成分が体内でどのように吸収・代謝されるか(腸内細菌によるウロリチン類への変換なども含め)は調べられていません。また、調べられた抗酸化・NO産生抑制という指標は、生体内で起こりうる働きのごく一部に過ぎず、成分同士が組み合わさることで生じる相乗効果なども今後の課題として挙げられています。
この研究では、マツヨイグサの若芽に含まれるエラグ酸誘導体やフラボノイド配糖体などのフェノール成分が、細胞レベルで抗酸化作用やNO産生抑制作用を示すことが報告されました。一つの研究であり、これらの成分がヒトの健康にどのような影響を与えるかが確定したわけではありませんが、種子油だけでなく若芽・葉の部分も、食品由来の機能性成分の供給源として研究する価値があることを示す基礎的なデータといえます。
※本記事は原著論文の翻訳ではなく、研究内容を独自に解説したものです。参考文献:Jongmin Ahn, Byeongjin Ro, Jeong Soon Lee, et al. Bioactivity-guided characterization of antioxidant and anti-inflammatory phenolics from edible Oenothera biennis young shoots. アプライド・バイオロジカル・ケミストリー (2026). DOI: 10.1186/s13765-026-01131-z. 原著ライセンス: cc-by.