この研究は、中国の研究機関の研究論文です。

掲載誌:Molecules

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の目的

白米は炊いたあと体内で消化されやすいでんぷんを多く含むため、食後の血糖の上がりやすさを示す指標(血糖指数、GI)が比較的高いことが知られています。そこで注目されているのが「レジスタントスターチ(RS、難消化性でんぷん)」です。これは小腸で消化されずに大腸まで届き、そこで腸内細菌に発酵されるタイプのでんぷんで、米製品の低GI特性を左右する重要な成分だと著者らは説明しています。

この研究で著者らが用いたのは、中国・上海市農業科学院が育成した「優糖稲3号」という、もともとRSを多く含む品種です。ただし、この品種を実際に加工したときにどう変化するかは十分に調べられていませんでした。そこで研究チームは、焙煎の温度(130℃・150℃・180℃)と、粉にする際のふるいの細かさ(10メッシュ・50メッシュ・100メッシュ)という二つの条件が、米粉の性質と試験管内での消化されやすさにどう影響するかを系統的に調べることを目的としました。

どのように調べたか

研究チームはまず、米粒に水を加えて全体の水分量を約24%に整えてから焙煎しました。乾いた状態で加熱するのではなく、粒の内部に保たれた水分が加熱中の構造変化を助ける「湿熱処理」に近い条件を意図的につくっています。焙煎機の温度は設定値の±3℃以内に保たれました。焙煎しない対照区も同様に用意されています。

焙煎後の米は粉砕し、目の粗さの異なる3種類のふるいで分けました。そのうえでRSの量を測定し、粒子の大きさの分布、電子顕微鏡による粒の表面の観察、X線回折による結晶構造の測定、加熱冷却時の粘り方(糊化特性)、でんぷん分子の枝の長さの分布、そして消化酵素を使った試験管内の消化試験を行っています。

なお構造や消化性の詳しい分析は、最も細かい100メッシュの粉に絞って実施されました。これは粒の大きさの違いという物理的な要因を揃えることで、観察された違いを焙煎そのものによる構造変化として解釈できるようにするためだと著者らは説明しています。

報告された主な結果

まずRSの量について、焙煎しない対照区は11.39〜13.87%と低い水準でしたが、焙煎によっていずれの条件でも明確に増加しました。たとえば130℃で100分焙煎した10メッシュの試料では27.45%に達しています。統計解析では焙煎温度と粒度のどちらもRS量に強く影響する一方、両者の交互作用は有意ではなく、二つの要因は互いに独立して働いたと報告されています。温度別では130℃(26.55%)が150℃(23.90%)や180℃(23.17%)より有意に高く、粒度別では粗い10メッシュ(25.67%)が細かい100メッシュ(23.50%)より有意に高い値でした。

180℃で焙煎時間を変えて追跡した実験では、RSは単純に増え続けるのではなく、0分時点の約15.0%から50分の約24.0%まで上昇したあと、70分では約18.5%まで低下しました。米粒の見た目も、50分までは白から均一な黄金色に変わりましたが、70分では濃い褐色になっており、加熱しすぎが構造を壊した可能性が示されています。

構造面では、電子顕微鏡で見ると未処理のでんぷん粒は角ばった滑らかな形をしていましたが、温度が上がるにつれて表面が荒れ、180℃では粒の形が失われて塊状に融合していました。加熱冷却時の粘度は、対照区のピーク粘度1606cPに対し焙煎した試料では244〜264cPと85%以上低下し、糊化温度も検出されなくなりました。一方でX線回折では結晶の型(B型)は変わらず、結晶化度はむしろ対照区の19.07%から150℃の20.74%へとやや上昇しました。著者らはこれを矛盾ではなく、加熱が主に非結晶領域に作用した結果として説明しています。

試験管内の消化試験(100メッシュ試料)では、対照区に比べて焙煎試料で速く消化されるでんぷんが大きく減りました。特に150℃で処理した試料は、速消化性でんぷんが2.39%と最も低く、RSは89.36%と最も高い値を示しています。180℃ではRSが82.50%に下がり、温度とRSの関係が単調でないことが示されました。なお著者らは、この消化試験のRS値と、先の条件比較で用いた測定法のRS値とは、酵素や反応時間が異なるため直接比較できないと明記しています。

この研究が示すこと

この研究は、もともとRSを多く含む米品種であっても、焙煎の温度や時間、粉の粗さといった加工条件によってRSの量が大きく変わることを示しました。温度を上げれば上げるほど良いわけではなく、ある点を超えると構造が壊れてRSが減ること、また粗い粒子のほうが酵素が内部に入り込みにくく消化が遅れることが、構造の観察と消化試験の両面から報告されています。

ただし著者ら自身が限界として挙げているとおり、評価は試験管内の消化試験にとどまり、実際の人での血糖応答や味の評価は行われていません。それでも、加工条件がでんぷんの構造と消化されやすさをどう左右するかを整理した点で、高RS米を扱う際の条件設定を考えるうえでの手がかりを与える研究だといえます。

著者:Jianhao Tang(Key Laboratory of Germplasm Innovation and Genetic Improvement of Grain and Oil Crops (Co-Construction by Ministry and Province), Ministry of Agriculture and Rural Affairs, Crop Breeding and Cultivation Research Institute, Shanghai Academy of Agricultural Sciences, Shanghai 201403, China)、Xingying Yu(Key Laboratory of Germplasm Innovation and Genetic Improvement of Grain and Oil Crops (Co-Construction by Ministry and Province), Ministry of Agriculture and Rural Affairs, Crop Breeding and Cultivation Research Institute, Shanghai Academy of Agricultural Sciences, Shanghai 201403, China)、Qi Zhao(Key Laboratory of Germplasm Innovation and Genetic Improvement of Grain and Oil Crops (Co-Construction by Ministry and Province), Ministry of Agriculture and Rural Affairs, Crop Breeding and Cultivation Research Institute, Shanghai Academy of Agricultural Sciences, Shanghai 201403, China)、Ruoyu Xiong(Key Laboratory of Germplasm Innovation and Genetic Improvement of Grain and Oil Crops (Co-Construction by Ministry and Province), Ministry of Agriculture and Rural Affairs, Crop Breeding and Cultivation Research Institute, Shanghai Academy of Agricultural Sciences, Shanghai 201403, China)、Jianjiang Bai(Key Laboratory of Germplasm Innovation and Genetic Improvement of Grain and Oil Crops (Co-Construction by Ministry and Province), Ministry of Agriculture and Rural Affairs, Crop Breeding and Cultivation Research Institute, Shanghai Academy of Agricultural Sciences, Shanghai 201403, China)、Ruifang Yang(Key Laboratory of Germplasm Innovation and Genetic Improvement of Grain and Oil Crops (Co-Construction by Ministry and Province), Ministry of Agriculture and Rural Affairs, Crop Breeding and Cultivation Research Institute, Shanghai Academy of Agricultural Sciences, Shanghai 201403, China)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Jianhao Tang, Xingying Yu, Qi Zhao, et al. Effect of Particle Size and Roasting Conditions on the Quality of High-Resistant Starch Rice. Molecules 2026-09-01. DOI: 10.3390/molecules31173076. 原著ライセンス:CC BY.