この研究は、ポーランドの研究機関の研究論文です。
掲載誌:Foods
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
なぜ「乾燥前の下処理」を調べたのか
果物や野菜、肉などを乾燥させて保存する技術は古くから使われていますが、ただ加熱して水分を飛ばせばよいというわけではありません。乾燥に時間がかかればそれだけ熱と酸素にさらされる時間が長くなり、色が悪くなったり、栄養成分や香りが失われたりします。そこで実際の食品加工では、乾燥に入る前に材料へ何らかの下処理(前処理)を施すことが一般的です。
著者らは、この乾燥前の下処理について、昔から使われてきた伝統的な方法と、近年提案されている新しい(非慣用的な)方法を体系的に整理する総説を行いました。研究の狙いは、さまざまな固体状の食品原料に対して、どのような要因が適切な処理法の選択を左右するのかを明らかにすることです。あわせて、下処理の仕組みと、栄養成分や生理活性物質の保持、色や食感、水に戻したときの復元性といった品質特性への影響について、現時点で分かっていることをまとめています。乾燥時間やエネルギー消費を減らす方策も分析の対象とされました。
論文は、この分野で見落とされがちな点も指摘しています。植物や動物の原料は、同じ品種であっても成熟度や栽培方法によって性質が変わります。そのため、文献に載っている処理条件をそのまま真似するのではなく、扱う材料に合わせて方法と条件を調整することが不可欠だと著者らは述べています。
どのように調べ、何を整理したか
著者らは、ScopusとWeb of Scienceといった文献データベースを用いた系統的な総説の手法をとりました。対象としたのは1998年から2026年までの文献です。検索には「前処理」「乾燥」「化学的方法」「熱的方法」「機械的方法」といった語のほか、低温プラズマ、パルス電界、浸透脱水、超音波、高圧処理、酵素処理、通電加熱、UV-C光、パルス光、二酸化炭素処理などの個別技術名を組み合わせました。さらに「乾燥時間」「乾燥速度論」「品質」「生理活性物質」「色」「食感」などの語も加えています。
まず題名と要旨で絞り込み、続いて本文全体を読み込んで採否を判断しました。研究論文、総説、書籍の章が対象で、前処理や乾燥の技術的条件について十分な情報が示されていない研究は除外されています。加えて、引用文献リストをたどる手作業の探索も行われました。
論文では下処理を、機械的・物理化学的・化学的・熱的・非熱的といったいくつかの区分に整理しています。ただし著者らは、この分類が厳密なものではなく、たとえば酵素処理や被膜処理は非熱的方法とみなすこともできると断っています。
総説が報告した主な内容
乾燥の速さを決めるのは、材料表面と周囲との水蒸気圧の差(推進力)と、水の移動に対する抵抗です。抵抗には、材料内部で水が拡散する際の抵抗と、水蒸気が周囲へ抜け出る際の抵抗の二つがあり、乾燥の初期には後者が、後半では前者が効いてきます。植物や動物の原料では細胞膜が水分の保持を担っているため、膜が健全なままだと水の移動が妨げられます。下処理の多くは、材料を切って移動距離を短くするか、細胞膜や果皮の障壁を壊すことで、この抵抗を下げるものだと整理されています。
伝統的な方法としては、切断・粉砕、ブランチング(熱湯や蒸気による短時間加熱)、保護液への浸漬、凍結乾燥の前段階としての凍結などが挙げられています。ブランチングはポリフェノールオキシダーゼなどの酵素を失活させて褐変を抑え、微生物を減らし、組織の細胞間隙から空気を追い出す働きがあると報告されています。一方で、ビタミンB1やB2、色素などの水溶性成分が溶け出すことや、果実では組織が軟らかくなりすぎることが欠点として挙げられています。
機械的な方法では、果皮に細い針で微細な穴をあける処理や、表面を研磨して蝋の層を削る処理の効果が紹介されています。著者らが引用した報告では、ブドウの研磨処理で乾燥時間が90時間から35時間に短縮された例、クコの実を50℃で乾燥する際に31.2時間から17.4時間へ短縮された例、ブルーベリーの凍結乾燥前の針処理で乾燥時間が2.5分の1になった例などがあります。ただし、研磨したブドウは化学処理をしたものより色が濃くなったという報告もあり、酵素的褐変が進んだためと説明されています。また著者らは、研磨や穿孔は手間とコストがかかるため大規模な工業生産には向きにくく、処理能力の小さい事業者に適する可能性があると評価しています。
化学的・物理化学的な方法としては、浸透脱水、亜硫酸処理、アルカリ液への浸漬、クエン酸などの有機酸処理が取り上げられています。浸透脱水は高濃度の溶液に材料を浸すもので、相変化を伴わずに水分を10〜70%減らせる点が省エネルギー上の利点だと報告されています。乾燥時間の短縮例としては、糖液で処理したメロンで23〜46%、塩や砂糖の溶液で処理したジャガイモで35〜65%といった数値が挙げられる一方、カシューアップルでは逆に乾燥速度が低下し、ビタミンCが大きく失われたという報告も紹介されています。亜硫酸処理は褐変防止や殺菌に有効ですが、残留する化学物質が健康上の懸念を伴うため各国で上限が定められており、結合型の亜硫酸については毒性学的な意味がまだよく分かっていない、と著者らは記しています。
新しい方法の一つとして詳しく扱われているのがマイクロ波ブランチングです。従来のブランチングでは熱が表面から内部へ伝わるため時間がかかり温度のむらが生じますが、マイクロ波は材料を内部から均一に加熱できると説明されています。引用された報告では、キノコのスライスで熱湯ブランチングに比べ乾燥時間が22%短縮された例、トマトでアスコルビン酸やリコペンの保持と色が熱湯処理より良好だった例などがあります。ただし出力が高すぎたり時間が長すぎたりすると過熱や焦げを招き品質が低下するため、条件の設定が重要だと指摘されています。実際、グリーンアスパラガスでは処理時間を延ばし出力を上げるほど、色が濃く軟らかくなりフェノール類が減ったと報告されています。
総じて著者らは、伝統的な方法は乾燥時間を縮め品質の一部を改善しうる一方で、化学物質の吸収、エネルギー消費の増加、組織や食感の変化、栄養価の低下、復元性の悪化といった不利益を伴いうるとまとめています。
この総説が示すこと
この総説から読み取れるのは、乾燥前の下処理に万能な正解はない、ということです。どの方法にも、乾燥時間の短縮という利点と、成分の流出や色・食感の変化といった代償が同時に存在します。著者らが繰り返し強調しているのは、文献の条件をそのまま流用するのではなく、扱う原料の化学組成や構造、果皮の有無といった生物学的な特性と、その後に用いる乾燥方法に合わせて、処理法と条件を選び直す必要があるという点です。
乾燥食品をつくるという身近な工程の裏側に、細胞膜や果皮という生き物由来の構造が水の移動をどう妨げているか、という物理と生物の問題が横たわっていること。そして、その障壁をどう扱うかという選択が、最終的な製品の色や栄養や食感を左右すること。この総説は、そうした下処理の全体像を一枚の地図として描き出しています。
著者:Dorota Nowak(Department of Food Engineering, Institute of Food Sciences, Warsaw University of Life Sciences, 02-776 Warsaw, Poland)、Ewa Jakubczyk(Department of Food Engineering, Institute of Food Sciences, Warsaw University of Life Sciences, 02-776 Warsaw, Poland)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Dorota Nowak, Ewa Jakubczyk. Traditional and Non-Conventional Methods of Pre-Treatment of Biological Raw Materials for Drying Food. Foods 2026-09-01. DOI: 10.3390/foods15173106. 原著ライセンス:CC BY.