この研究は、ニュージーランドの研究機関の研究論文です。

掲載誌:Foods

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の目的と背景

2型糖尿病は世界的に増え続けている健康課題です。国際糖尿病連合の報告として、論文は2024年時点で20〜79歳の成人およそ5億8900万人が糖尿病とともに生活しており、2050年には8億5300万人に達すると見込まれていることを紹介しています。既存の薬物療法は血糖管理に有効である一方、長期使用に伴う副作用や服薬継続の難しさが指摘されており、著者らは日常の食事から取り入れられる補完的な方策の必要性を出発点としています。

研究チームが着目したのは、ニュージーランド産のサンゴールドキウイフルーツ(Actinidia chinensis var. chinensis)に含まれるフェノール化合物と、それを加えたヨーグルトです。ヨーグルトはたんぱく質に富み、消費者に受け入れられやすく、機能性成分を加えやすい食品として選ばれました。ただし、キウイフルーツ由来のフェノール抽出物を食品、とくにヨーグルトへ配合した研究はまだ限られている、と著者らは述べています。

何をどう調べたか

抽出には「天然深共晶溶媒(NADES)」と呼ばれる溶媒が用いられました。これは水素結合を介して組み合わさる2種類の天然成分から作る液体で、狙った成分に合わせて性質を調整できる点が特徴です。本研究では塩化コリンとグリセロールを1対1の割合で混ぜ、水を加えたものを使い、超音波をあてながらキウイフルーツ粉末から成分を取り出しました。比較対象として、同じ条件で水だけを用いた抽出も行っています。

得られた抽出物は、脱脂粉乳から作ったヨーグルトに10%・20%・30%(体積比)の割合で加えられました。加えるタイミングも二通り設定され、発酵前(種菌を加えた後、培養に入る前)に加えたものと、発酵後(培養を終えた均質化の工程で)加えたものが比較されています。

評価には、糖質の消化に関わる二つの酵素の働きを抑える度合いを測る試験が使われました。α-アミラーゼはでんぷんを分解して小さな糖に変える酵素、α-グルコシダーゼはそれをさらに吸収可能なブドウ糖へ分解する酵素です。著者らは、これらの働きが抑えられれば糖の消化と放出が遅れる可能性があると説明しています。抽出物についてはさらに、半透膜を使ってブドウ糖の拡散の遅れを調べる試験も実施しました。加えて、LC-MS/MSという分析装置で、カテキンやクロロゲン酸といった個々のフェノール化合物の量を測定しています。

報告された主な結果

抽出物の比較では、NADES抽出物のほうが水抽出物より両方の酵素を強く阻害したと報告されています。50%の阻害に必要な濃度(IC50、値が小さいほど強い)は、α-グルコシダーゼに対してNADES抽出物が15.331 mg/mL、水抽出物が17.536 mg/mLでした。α-アミラーゼに対しては、NADES抽出物が116.530 mg/mL、水抽出物が182.080 mg/mLでした。ただし著者らは、いずれも基準物質(ケルセチン、アカルボース)より弱く、より高い濃度を要したことも併記しています。

ブドウ糖の拡散を調べる試験では、180分時点でNADES抽出物を入れた系の外側の液のブドウ糖濃度が0.492 mMとなり、水抽出物(0.822 mM)や対照(1.324 mM)より低い値でした。NADES抽出物では拡散を抑える指標が30分の35.37%から180分の62.84%へ上昇し、効果が持続したのに対し、水抽出物は60分の41.39%を頂点にその後低下しました。

ヨーグルトでは、抽出物を加えたものが加えていない対照より両酵素の阻害が概して高く、NADES抽出物を用いたものが水抽出物のものを上回る傾向が示されました。添加濃度が高いほど阻害は強まり、加えるタイミングでは発酵後に加えたほうが概して高い値となりました。統計解析では、抽出物の種類・添加時期・濃度のいずれもが有意に影響していたと報告されています。

成分分析からは、溶媒による違いが明瞭に示されました。NADES抽出物ではエピカテキン(353.130 μg/g)、エピガロカテキン(147.748 μg/g)、カテキンといったフラバン-3-オール類が多く、水抽出物ではカフェ酸(85.330 μg/g)やクロロゲン酸が主体でした。定量されたフェノール化合物の合計はNADES抽出物で555.938 μg/g、水抽出物で103.628 μg/gと報告されています。ヨーグルトに加えた後の含量は抽出物そのものより低く、著者らは希釈のほか、乳タンパク質との結合などマトリックスとの相互作用が関わる可能性を挙げています。

この研究が示すこと

著者ら自身が慎重な位置づけを示しています。α-アミラーゼのIC50値が比較的高いことは阻害の絶対的な強さが穏やかであることを意味し、透析を用いた試験はあくまで受動的な拡散を見るもので、腸での実際の糖吸収を再現したものではないと明記されています。また、今回のヨーグルトは実験用の試作品であり、残留する溶媒成分の定量や安全性・官能評価は行われていません。

そのうえでこの研究が示したのは、溶媒の選び方によって取り出せるフェノール化合物の顔ぶれが変わり、それが試験管内での働きの違いにつながりうる、という比較の結果です。同じ果実からでも「何をどう取り出すか」が機能性成分の設計を左右することを、具体的な数値とともに描き出した点に、この報告の意義があります。

著者:Rifqah Azzahra Naulidia(School of Science, Faculty of Health and Environmental Sciences, Auckland University of Technology, Private Bag 92006, Auckland 1142, New Zealand)、Michelle Ji Yeon Yoo(School of Science, Faculty of Health and Environmental Sciences, Auckland University of Technology, Private Bag 92006, Auckland 1142, New Zealand)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Rifqah Azzahra Naulidia, Michelle Ji Yeon Yoo. In Vitro Antidiabetic Activity of Phenolic Compounds from NADES-Extracted SunGold Kiwifruit and Their Fortification in Yoghurt. Foods 2026-09-01. DOI: 10.3390/foods15173109. 原著ライセンス:CC BY.