この研究は、イタリアの研究機関の研究論文です。
掲載誌:Food Chemistry
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の目的
白ワインの伝統的な造り方では、搾ったぶどう果汁を果皮からすばやく分け、香りを守りつつ渋みのもととなる成分(フェノール化合物)が出すぎないようにしてきました。しかし近年、果皮を漬け込んだまま発酵させる「発酵中のスキンコンタクト(醸し)」が実践と研究の両面で関心を集めています。研究チームは、この手法が白ワインの成分と官能特性にどのような結果をもたらすかは、まだ十分に調べられていないと指摘しています。
著者らはイタリア・ピエモンテ州の在来白ぶどう品種であるアルネイスとエルバルーチェを対象に取り上げました。どちらも本来は新鮮で果実味のあるワインと結びつけられてきた品種であり、別の醸造法を試すことで新しいスタイルの可能性を探る題材になると位置づけています。さらに、発酵後にワインが酸素に触れることの影響も合わせて検討しました。
何をどのように調べたか
研究チームは実験室規模で仕込みを行い、両品種について漬け込み期間の異なる4つの区を設けました。漬け込みなしの対照区、2日間、7日間、14日間です。いずれも3回の独立した反復で実施し、発酵はおよそ18℃で管理し、全区とも15日でアルコール発酵を終えています。得られたワインは低温で2か月保管した後、それぞれを空気飽和(溶存酸素が7 mg/L超)になるまで撹拌する酸素付加処理にかけ、さらに2か月保管しました。分析は、酸素付加の前と後の2時点で行っています。
成分の測定には複数の手法が用いられました。フェノール化合物の詳細な組成は液体クロマトグラフィー・タンデム質量分析(LC-MS/MS)で、全体量や色は吸光度による分光学的測定で調べています。香りのもととなる揮発性化合物はガスクロマトグラフィー質量分析(GC-MS)で分析しました。官能評価は、訓練を受けた14名の審査員が、当てはまる項目をすべて選んで強さを評価するRATAという方法で実施し、香り18項目と口中の5項目(酸味、収れん性、苦味、ボディ、乾いた感じ)を用いました。色以外の評価では視覚の影響を避けるため黒いグラスが使われています。
報告された主な結果
漬け込み期間が長くなるほど、フェノール化合物は大きく増えました。総ポリフェノール指数は段階的に上昇し、14日間区では対照区と比べてアルネイスで4.46倍、エルバルーチェで4.76倍に達したと報告されています。著者らは、この水準がイタリアの単一品種赤ワインで一般に報告される濃度に匹敵すると述べています。個別に見ると、プロアントシアニジン、フラバン-3-オール類(カテキン、エピカテキンなど)、ヒドロキシケイ皮酸類、フラボノール類がいずれも増加しました。特にフラバン-3-オールは、対照区から14日間区にかけて2桁以上の増加を示しています。一方、プロアントシアニジンが測定で検出されたのは7日間区と14日間区のみで、抽出には長い漬け込みが必要であることが示されました。
漬け込みは色や基本成分にも影響しました。黄色の濃さの指標である420 nmの吸光度は、主に7日目までにはっきりと上昇しています。またpHが上がり総酸度が下がる傾向がみられ、14日間区では対照区に比べてアルネイスで24.3%、エルバルーチェで20.3%の酸度低下が報告されました。著者らは、果皮からのカリウム抽出とそれに続く酒石酸水素カリウムの沈殿が関与している可能性が高いとしています。なお、アルコール度数には処理間で有意な差はありませんでした。
発酵後の酸素付加による変化は、漬け込みほど大きくはないものの、特定の成分に現れました。単量体のフラバン-3-オールは両品種で有意に減少し、減少幅は元の濃度が高かった7日間・14日間区で目立ちました。エルバルーチェではカフタル酸が減り、7日間区と14日間区で酒石酸エステル類の合計がそれぞれ17.8%、15.1%低下しています。420 nmの吸光度は両品種で有意に上昇し、酸素への曝露によって色素の酸化が進んだことを示しました。他方で総ポリフェノール指数は酸素付加の影響を受けず、メチルセルロース法で測られるプロアントシアニジンはむしろ増加しました。著者らは、酸化的な重合や縮合によってより大きな分子が生じた可能性を挙げています。
官能評価では、長く漬け込んだワインで収れん性(口の中が引き締まる渋みの感覚)と乾いた感じが強まり、果実の香りは弱まったと報告されています。色は、漬け込みが長いほどより濃い黄色の方向へ移りました。酸素付加はエステル類を減らし、酸化を思わせる香りを強める方向に働いたとされています。
この研究が示すこと
この研究は、発酵中に果皮と接触させる時間が、白ワインのフェノール成分と香りの輪郭を大きく左右すること、そして発酵後の酸素との接触がその表現をさらに変化させることを、化学分析と官能評価の両面から示しています。長期の漬け込みは白ワインを赤ワインに近い水準のフェノール量へ導きますが、それは同時に渋みや乾いた口当たりが増し、果実の香りが後退する方向でもあります。
著者らの報告からは、漬け込み期間と酸素管理が、伝統的に軽快で果実味豊かとされてきた品種から異なるスタイルを引き出すための、方向性の異なる二つの調整手段として働いていることが読み取れます。
著者:L Ferrero(Università Degli Studi Di Torino, Dipartimento Di Scienze Agrarie, Forestali e Alimentari. Corso Enotria 2/C, 12051 Alba (CN), Italy)、Marco Lagori(Università Degli Studi Di Torino, Dipartimento Di Scienze Agrarie, Forestali e Alimentari. Corso Enotria 2/C, 12051 Alba (CN), Italy)、Anastasiia Kasianova(Università Degli Studi Di Torino, Dipartimento Di Scienze Agrarie, Forestali e Alimentari. Corso Enotria 2/C, 12051 Alba (CN), Italy)、Micaela Boido(Università Degli Studi Di Torino, Dipartimento Di Scienze Agrarie, Forestali e Alimentari. Corso Enotria 2/C, 12051 Alba (CN), Italy)、Giorgia Botta(Università Degli Studi Di Torino, Dipartimento Di Scienze Agrarie, Forestali e Alimentari. Corso Enotria 2/C, 12051 Alba (CN), Italy)、Beatrice Cordero(Università Degli Studi Di Torino, Dipartimento Di Scienze Agrarie, Forestali e Alimentari. Corso Enotria 2/C, 12051 Alba (CN), Italy)、Maria Alessandra Paissoni(Università Degli Studi Di Torino, Centro Interdipartimentale Di Ricerca sulla Filiera Viticoltura e Vino (CONViVi), Corso Enotria 2/C, 12051 Alba (CN), Italy)、Susana Rı́o Segade(Università Degli Studi Di Torino, Centro Interdipartimentale Di Ricerca sulla Filiera Viticoltura e Vino (CONViVi), Corso Enotria 2/C, 12051 Alba (CN), Italy)、Luca Rollè(Università Degli Studi Di Torino, Centro Interdipartimentale Di Ricerca sulla Filiera Viticoltura e Vino (CONViVi), Corso Enotria 2/C, 12051 Alba (CN), Italy)、Simone Giacosa(Università Degli Studi Di Torino, Centro Interdipartimentale Di Ricerca sulla Filiera Viticoltura e Vino (CONViVi), Corso Enotria 2/C, 12051 Alba (CN), Italy)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):L Ferrero, Marco Lagori, Anastasiia Kasianova, et al. Exploring fermentative skin contact effects and post-fermentative oxidation on phenolics, aroma, and sensory characteristics in white wine. Food Chemistry 2026-09-01. DOI: 10.1016/j.foodchem.2026.151142. 原著ライセンス:CC BY.