この研究は、タイ、韓国の研究機関の研究論文です。
掲載誌:Foods
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の目的:捨てられてきた搾りかすに何が含まれているのか
ココナッツは熱帯・亜熱帯の広い地域で栽培される作物で、タイでは経済的に重要な多年生作物のひとつとされています。ココナッツウォーターやココナッツミルク、ヴァージンココナッツオイルなどに加工される過程では、固形の搾りかす(残渣)が大量に生じます。著者らによれば、この残渣は十分に活用されていないものの、食物繊維やタンパク質、脂質、多糖類といった成分を含む資源でもあります。
多糖類とは、糖がたくさんつながった大きな分子のことです。植物由来の多糖類が示す働きは、分子の大きさ(分子量)や構成している糖の種類、枝分かれの仕方といった構造的な特徴と深く関わることが知られています。そのため、どのように抽出・精製するかによって、取り出される多糖類の性質も変わりうると論文は説明しています。
研究チームは、ココナッツ残渣から多糖類を分離・精製し、得られた画分どうしで物理化学的な特徴と生物活性を比較すること、さらに選んだ画分が消化管を通る過程でどう変化するかを調べることを目的としました。著者らは、ココナッツ残渣由来の精製多糖類が消化に対してどう応答するか、またその際の分子の変化が活性の変化と伴うのかについては、これまで情報が限られていたと述べています。
調べ方:抽出から精製、そして模擬消化まで
研究チームはタイ・サムットサーコーンの加工施設から2024年11月に残渣を入手し、洗浄・乾燥・粉砕したうえで脱脂し、熱水で多糖類を抽出しました。エタノールで沈殿させ、タンパク質を除いたものを粗多糖(CP0)としています。これを二段階のカラムクロマトグラフィー(成分を性質の違いで分ける手法)にかけ、中性の多糖画分をさらに分けて、CP1とCP2という二つの主要な画分を得ました。
得られた画分については、糖やタンパク質の含量、どの単糖からできているか、分子量、赤外分光による官能基の特徴、糖どうしのつなぎ方(グリコシド結合)などを調べています。生物活性としては、マウス由来のマクロファージ細胞株RAW264.7を使い、細胞の生存率と一酸化窒素(NO)の産生量を測定しました。NOは活性化したマクロファージが出す物質で、自然免疫や炎症反応に関わる指標として使われます。あわせて、DPPH・ABTS・スーパーオキシドという三種類の試験管内アッセイでラジカル消去能(抗酸化の指標)も評価しました。
そのうえで、唾液・胃・小腸の環境を試験管内で模した消化実験を行い、分子量と単糖組成が時間とともにどう変わるかを追跡しています。
主な報告結果:二つの画分は性質が異なり、CP2がよく反応した
粗多糖CP0の回収率は5.72%で、炭水化物含量は96.7%でした。精製後のCP1とCP2の炭水化物含量はそれぞれ97.1%、97.7%と報告されています。単糖の分析では、いずれもガラクトースとグルコースが主体でしたが、CP2はCP1よりガラクトースの比率が高いという違いが見られました。
分子量では、CP1が455.8 kDa、CP2が72.6 kDaと大きく異なりました(kDaは分子の重さの単位)。結合の様式はどちらも→4)-Glcp-(1→が主でしたが、CP2のほうが枝分かれに関わる結合や末端の糖の割合が高く、著者らは枝分かれの特徴に差があることを示唆するとしています。ただし、この分析だけでは詳細な構造を確定できないとも明記しています。
細胞実験では、100〜400 µg/mLの範囲でいずれの画分にも細胞毒性は見られませんでした。NO産生は濃度に依存して増加し、CP2が最も高い反応を示しました。最高濃度でのCP2は40.25 μMの亜硝酸に相当し、陽性対照であるLPS処理群(48.76 μM)のおよそ82.5%にあたる値だったと報告されています。抗酸化の試験では、DPPHとABTSでCP2が他より低いIC50値(少ない量で半分を消去できることを意味する)を示した一方、スーパーオキシドについては三つの画分でおおむね同程度でした。なお、いずれもビタミンCと比べると活性ははるかに低い値です。
消化を模した実験では、CP2の分子量は唾液の段階ではほとんど変わりませんでしたが、胃の段階で5分後の65.3 kDaから120分後には44.2 kDaへと大きく低下し、腸の段階でさらに33.1 kDaまで下がりました。著者らは、同じ処理を行った非消化の対照を置いていないため、pH調整や加熱、凍結乾燥などの操作の影響を排除できないとし、これらは「消化に伴う分子サイズ分布の変化」として解釈すべきだと述べています。
この研究が示すこと
同じココナッツ残渣から取り出した多糖類でも、精製の仕方によって分子量や糖の組成、枝分かれの様子が異なる画分に分かれ、それぞれ細胞や抗酸化の試験での反応も違っていました。著者らは、複数の構造的特徴が同時に異なっているため、どの特徴が反応の違いをもたらしたのかを今回のデータだけで特定することはできないと慎重に位置づけています。
また、消化管を模した環境を通る間に分子が小さくなっていく様子が捉えられたことは、食品として摂られる多糖類を考えるうえで、抽出した時点の性質だけでなくその後の変化も見る必要があることを示しています。農産加工の副産物として扱われてきた材料を、その中身から丁寧に分けて調べ直すという、基礎的な記述の積み重ねがこの研究の中心にあります。
著者:Phatthranit Klinmalai(Cluster of Innovation for Sustainable Seafood Industry and Value Chain Management, Chiang Mai University, Samut Sakhon 74000, Thailand)、Sang Guan You(Department of Marine Convergence Science, Kangwon National University, Gangneung, Gangwon 25457, Republic of Korea)、Nathdanai Harnkarnsujarit(Center for Advanced Studies for Agriculture and Food (CASAF), Kasetsart University Institute for Advanced Studies (KUIAS), Kasetsart University, 50 Ngam Wong Wan Rd., Latyao, Chatuchak, Bangkok 10900, Thailand)、Utoomporn Surayot(Cluster of Innovation for Sustainable Seafood Industry and Value Chain Management, Chiang Mai University, Samut Sakhon 74000, Thailand)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Phatthranit Klinmalai, Sang Guan You, Nathdanai Harnkarnsujarit, et al. Extraction, Isolation, and Structural Characterization of Coconut Residue Polysaccharides: Immunomodulatory Activity, Antioxidant Capacity, and Gastrointestinal Digestive Behavior. Foods 2026-09-01. DOI: 10.3390/foods15173105. 原著ライセンス:CC BY.