パン作りでは小麦粉と水を練り合わせて生地を作るのが基本ですが、この『水』を別の液体に置き換えたらパンの中身や味はどう変わるのでしょうか。今回紹介する研究は、チーズ製造の際に出る副産物であるホエイ(乳清)を、パン生地をこねる際の水の代わりに使うとどうなるかを調べたものです。ホエイは牛乳からチーズを作る過程で分離される液体で、廃棄されることも多い一方、栄養成分を含むことが知られています。これをパンに活用できれば、食品資源の有効利用にもつながる可能性があるというのが研究の出発点です。

どのように調べたのか

研究では、中東や北アフリカで広く食べられている『バラディパン』と呼ばれる平焼きパンを使い、生地をこねる際に加える水を、ホエイに置き換える割合を0%(対照区)、25%、50%、75%、100%の5段階に変えて焼き上げました。できあがったパンについて、たんぱく質・脂肪・水分・灰分(ミネラル分)・食物繊維・炭水化物といった化学成分を分析するとともに、色・食感・味・香り・総合的な好ましさについて、9段階の評価尺度を用いた官能評価(人が実際に食べて評価する試験)を行いました。

ホエイの割合が増えるとどう変わったか

結果として、ホエイの置き換え比率が高くなるほど、パンのたんぱく質含量は対照区の10.71%から、25%で11.40%、50%で11.95%、75%で12.61%、100%で13.49%へと段階的に増加しました。同様に、脂肪含量も1.43%から最終的に2.02%まで、灰分も1.24%から1.88%まで、それぞれ増加する傾向が見られました。水分含量については36.15%から36.77%とわずかに増える程度で、大きな変化ではありませんでした。一方で、食物繊維含量には統計的に意味のある変化は見られなかったとされています。逆に、全体に占める炭水化物の割合は47.45%から42.55%へと、ホエイの比率が上がるほど減少する結果になりました。これは、たんぱく質や脂肪、灰分の割合が増えた分、相対的に炭水化物の割合が下がったためと考えられます。

官能評価では、色・食感・総合的な好ましさの評価においてホエイの置き換え比率による差が見られた一方、味や香りについては置き換え比率による違いは確認されなかったと報告されています。これらの結果を踏まえて、研究チームは、ホエイを水の代わりに使うことでパンの栄養価やいくつかの食感・見た目の特性を高められる可能性があるとしています。

この研究を読むうえで気をつけたいこと

この研究は、特定の配合・製法によるバラディパンを対象に行われた一つの実験結果であり、他の種類のパンや異なる製法でも同じ傾向が得られるかどうかは、この論文だけからは分かりません。また、たんぱく質や灰分の増加が示されたことと、それが健康上どのような意味を持つかは別の話であり、この研究結果をもって特定の健康効果を保証するものではない点にも注意が必要です。味や香りに差がなかったという点も、今後さらに検討されるべき観察の一つといえます。

まとめ

今回の研究は、パン生地に使う水をホエイに置き換えることで、たんぱく質・脂肪・灰分といった成分が増加し、色や食感、総合的な好ましさにも変化が見られる一方、味や香りには目立った違いが出なかったことを示しました。食品副産物であるホエイの新たな活用先としてパン作りが検討できる可能性を示す一つの知見といえますが、あくまで一つの研究であり、結論が確定したわけではありません。

※本記事は原著論文の翻訳ではなく、研究内容を独自に解説したものです。参考文献:Wanis Miftah Wanis Yaqa, Salah Al-Naji Mohammed, Nasr Abdul Razzaq Abdul-Mawla. Effect of Adding Whey on the Chemical Properties and Sensory Qualities of a Loaf of Bread. アル・ファールーク・ジャーナル・オブ・サイエンシズ (2026). DOI: 10.65405/rr1an690. 原著ライセンス: cc-by.