この研究は、エジプト、サウジアラビアの研究機関の研究論文です。

掲載誌:International Journal of Food Properties

ライセンス: CC BY-NC 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

チコリという植物をご存じでしょうか。青い花を咲かせるキク科の植物で、根がコーヒーの代用品として使われることもありますが、葉や茎などの地上部にもポリフェノールをはじめとする植物由来の機能性成分が含まれていると考えられています。こうした植物成分を食品に加えて機能性を高めようとする研究は世界中で行われていますが、大きな壁があります。フェノール類などの成分は熱や光、酸素、pHの変化などによって壊れやすく、食品に加工する過程やその後の保存中に効果が失われてしまいがちなのです。

今回紹介する研究では、この課題に対して「ナノカプセル化」という技術でアプローチしています。対象となったのは、中東などで親しまれている発酵乳「Rayebミルク」です。研究チームは、乳由来のタンパク質であるホエイプロテイン単離物を使い、その中にチコリの抽出物を閉じ込めた微小な粒子(ナノ粒子)を作製し、これをRayebミルクに加えることで、抗酸化性や保存性がどう変化するかを調べました。

研究でわかったこと

まず研究チームは、チコリの地上部から超音波を使った抽出法(20kHz、振幅50%で、10秒照射と5秒休止を繰り返す条件)で成分を取り出しました。次に、この抽出物を「脱溶媒法」と呼ばれる手法でホエイプロテイン単離物の中に閉じ込め、ナノ粒子を作製しています。できあがった粒子は平均サイズが158.6±20ナノメートル、粒子径のばらつきを示す多分散指数は0.470±0.032、粒子の収率は92.15±3.1%、そして抽出物をどれだけ粒子内に閉じ込められたかを示す封入効率は92.15±1.9%だったと報告されています。

続いて、Rayebミルクを3種類用意し比較しました。何も加えない対照群、チコリ抽出物をそのまま(未封入のまま)加えた群、そしてナノカプセル化したチコリ抽出物を100gあたり150mg加えた群です。その結果、ナノカプセル化した抽出物を加えた群では、未封入の抽出物を加えた群と比べて、総フェノール含量やフラボノイド含量、チコリ酸というチコリ由来の成分の保持率が高く、加工中の生理活性成分がより良く保護されていたことが示されたとしています。

さらに興味深いのは微生物や品質面への影響です。ナノカプセル化した抽出物を加えた群では、発酵に必要なスターター菌(乳酸菌など)の数が他の群より高く維持される一方で、カビや酵母の増殖は冷蔵保存後に検出限界以下まで抑えられたと報告されています。また、風味や食感などの官能的な品質についても、対照群や未封入の抽出物を加えた群より良好な状態が保たれていたとされています。研究チームは総括として、ホエイプロテイン単離物のナノ粒子がチコリ由来の機能性成分の安定性と働きを高め、Rayebミルクの保存期間の改善につながったとまとめています。

この研究の位置づけ・読むうえでの注意

この研究は、あくまで特定の条件下でナノカプセル化されたチコリ抽出物を発酵乳に加えて評価した一つの研究であり、結論が確定したわけではありません。抗酸化性や抗真菌性、保存性の向上が報告されているものの、これは今回のRayebミルクという特定の食品・条件における結果であり、他の食品や異なる条件でも同様の効果が得られるかどうかは、要旨からは分かりません。また、これは食品の保存性や成分保持に関する研究であり、健康への効果や病気の予防・改善を直接示すものではない点にも留意が必要です。

まとめ

今回の研究では、ホエイプロテインで作ったナノ粒子にチコリの抽出物を閉じ込めることで、そのまま加えるよりもフェノール類などの機能性成分が加工中に保護されやすく、発酵乳Rayebミルクの微生物学的な安定性や保存期間、官能品質の維持にもつながる可能性が示唆されました。植物由来の機能性成分をいかに壊さずに食品に届けるかという課題に対する一つのアプローチとして、今後の研究の広がりが注目されます。

※本記事は下記の原著論文を紹介するものです。出典(原著論文):ホエイプロテイン-チコリナノ粒子がRayebミルクの抗酸化活性、抗真菌性、保存期間を向上させる(インターナショナル・ジャーナル・オブ・フード・プロパティーズ・2026年12月掲載予定)

著者:Ahmed Noah Badr(Food Toxicology and Contaminants Department, National Research Centre, Cairo, Egypt)、Nouf F. Al-Harby(Department of Chemistry, College of Science, Qassim University, Buraydah, Qassim, Kingdom of Saudi Arabia)、Sahar A. Nasser(Food and Dairy Science and Technology Department, Faculty of Agriculture, Damanhour University, Damanhour, Egypt)、Tarek Nour Soliman(Dairy Department, Food Industries and Nutrition Research Institute, National Research Centre, Cairo, Egypt)