店頭に並ぶバナナの中には、収穫後にカルシウムカーバイド(炭化カルシウム)を使って人工的に追熟を早めたものが存在すると言われています。より早く、より多くの利益を得るために追熟を人工的に促進する方法がしばしば用いられる一方で、品質や安全性への懸念も指摘されてきました。今回紹介する研究は、インドで栽培される『Karpuravalli(カルプラバリ)』という品種のバナナ(Pisang Awak系統、ABBゲノム型)を対象に、天然に追熟したバナナとカルシウムカーバイドで処理して追熟したバナナとの間で、香りのもとになる化学成分にどのような違いがあるのかを調べたものです。
研究でわかったこと
研究チームは、ヘッドスペース固相マイクロ抽出法とガスクロマトグラフィー質量分析(GC-MS)という手法を組み合わせて、バナナから発せられる揮発性有機化合物(VOC)を分析しました。さらに、TGS・MQ・MPという複数のセンサー群を搭載した電子鼻(E-nose)を独自に開発し、天然熟成とカーバイド熟成という二つの追熟方法によって生じる化学組成の違いを、機器でとらえられるかどうかも検証しています。
分析の結果、天然に追熟したバナナでは、エステル類や長鎖の炭化水素化合物の濃度が高く、これが甘くフルーティーな香りにつながっていると報告されています。一方、カルシウムカーバイドで人工的に追熟させたバナナでは、アセチレン(18.95%)とエチレン(1.99%)の含有量が高いという特徴が示され、こうした成分が生理的なストレスを引き起こし、健康に有害である可能性があるとされています。
さらに、この二つの追熟方法の違いを統計的に裏付けるため、主成分分析(PCA)と部分的最小二乗判別分析(PLS-DA)という多変量解析の手法が用いられました。主成分分析では全体のばらつき(分散)の87.8%を説明できたと報告されており、化学的な指紋(フィンガープリント)としての違いをPLS-DAでさらに検証したとされています。加えて、GC-MSで得られたVOCプロファイルと電子鼻のセンサー応答との間には中程度の相関(決定係数R²=0.80)が見られたとしており、著者らはこれを、条件を制御した環境下でセンサーを用いて追熟方法を判別できる可能性を示すものだと位置づけています。
この研究の位置づけ・読むうえでの注意
著者ら自身が述べているとおり、この研究は概念実証(プルーフ・オブ・コンセプト)としての探索的な化学計量学(ケモメトリクス)分析であり、サンプル数は限られたものだったとされています。そのため、今回得られた相関関係やセンサーによる判別性能が、より大規模な条件でもそのまま当てはまるかどうかは、今後の検証が必要だと考えられます。一つの研究で得られた結果であり、結論が確定したわけではない点に留意が必要です。
なお、この研究には、ICAR-National Research Centre for Banana(インド・タミルナードゥ州ティルチラーパッリ)に所属する研究者や、英国エクセター大学に所属する研究者が著者として名を連ねていますが、提供された情報の範囲では日本の研究機関や日本の食品・生産・食習慣への言及はありませんでした。
まとめ
この研究は、天然に追熟したバナナとカルシウムカーバイドで人工的に追熟したバナナとで、香り成分の化学組成に違いがあることを、GC-MSと電子鼻という二つの分析手法を組み合わせて示したものです。天然熟成ではエステル類や長鎖炭化水素が多く、カーバイド処理ではアセチレンやエチレンが多いという傾向が報告され、これらは主成分分析や判別分析によって統計的に区別できたとされています。今後、より多くのサンプルを用いた検証が進めば、追熟方法を簡便に見分けるセンサー技術の実用化につながる可能性があると考えられます。
※本記事は下記の原著論文を紹介するものです。参考文献:GC-MSと電子鼻分析を用いた天然熟成およびカーバイド熟成バナナの探索的VOCプロファイリングとケモメトリクス識別(サイエンティフィック・リポーツ・2026年08月)