小麦アレルギーやグルテン過敏症を持つ人にとって、グルテンフリーパンは食生活を支える大切な存在です。ただし、米粉を主原料とするグルテンフリーパンは、小麦パンに比べて食物繊維などの栄養価が低く、食感やボリュームの面でも劣りやすいという課題が知られています。今回紹介する研究は、そうした課題に対して、食品産業で生じる副産物を有効活用することで解決を図ろうとした取り組みです。
注目されたのは「ニゲラサティバ種子粉(BCSM)」と「ホエイ」という2つの副産物です。ニゲラサティバはブラッククミンとも呼ばれる植物の種子で、その搾油後などに残る粉が今回の研究素材とされています。ホエイはチーズなどの乳製品製造過程で生じる副産物です。どちらも農産業・食品産業の過程で発生する「余りもの」ですが、これらを単なる廃棄物とせず、パンの機能性を高める材料として活かせないか、というのが研究の狙いです。
研究でわかったこと
研究チームは、応答曲面法(RSM)と呼ばれる統計的手法を用いて、ニゲラサティバ種子粉とホエイの配合量を系統的に変えながら、米粉パンの物理化学的特性・レオロジー特性(生地の粘弾性など)・栄養特性・官能特性(味や食感の評価)を調べ、最適な配合を探索しました。使用された米粉には玄米と赤米の2種類があり、それぞれで最適な配合バランスは異なる結果となりました。
玄米を用いたパン(ニゲラサティバ種子粉を最も多く、10g配合したもの)では、食物繊維量の増加や抗酸化活性の向上、さらに硬さや噛みごたえ(チューイネス)の低下といった、対照群と比べて機能性・栄養面での改善が最も顕著に見られたと報告されています。一方、赤米を用いたパン(ニゲラサティバ種子粉は少なめ、ホエイを多めに配合したもの)では、比容積(パンのふくらみの指標)やクラム(パンの内部構造)の改善が主な効果として認められたとされています。
生地のレオロジー特性を分析したところ、ニゲラサティバ種子粉はより硬く構造化されたマトリックス(生地の骨格構造)の形成に寄与する一方、ホエイはより柔らかく、変形しやすい生地システムをもたらす傾向があることが示されました。つまり、この2つの副産物は異なる形でパンの構造に影響を与えるということです。
気になる味や食感についての官能評価では、これらの副産物を配合してもパン全体の好ましさ(アクセプタビリティ)が損なわれることはなく、総合評価スコアは5〜6点(評価尺度の詳細は要旨に記載なし)の範囲であったと報告されています。
この研究の位置づけ・読むうえでの注意
この研究は、玄米パンでは栄養機能面の改善が、赤米パンでは構造面の最適化がそれぞれ主な効果として得られたことを示すものであり、ニゲラサティバ種子粉とホエイは「配合の目的に応じて使い分けられる素材」として位置づけられると結論づけています。ただし、これは特定の配合条件・実験条件のもとで得られた結果であり、一つの研究であることに留意が必要です。健康効果を保証するものではなく、あくまで製パン科学としての機能性・構造・官能評価に関する知見として捉えるのが適切です。
まとめ
今回紹介した研究では、農産業・食品産業の副産物であるニゲラサティバ種子粉とホエイを、米粉グルテンフリーパンの品質改善に活用する試みが行われました。玄米パンでは食物繊維や抗酸化活性の向上、赤米パンではふくらみや内部構造の改善につながったとされ、いずれの配合でも官能評価に悪影響は見られなかったと報告されています。副産物の有効活用という観点からも、今後の展開が注目される研究といえそうです。
※本記事は下記の原著論文を紹介するものです。参考文献:米粉グルテンフリーパンの栄養、レオロジー、官能特性向上のための機能性素材としてのニゲラサティバ種子粉とホエイの有効活用(フーズ・2026年06月)