この研究は、アゼルバイジャンの研究機関の研究論文です。

掲載誌:Human Resources Management and Services

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の狙い:輸出が増えることと、輸出先が広がることは別の話

石油や天然ガスに依存する経済では、外からの衝撃に弱くなることが課題になります。アゼルバイジャンでも石油以外の輸出を育てることが政策目標とされ、なかでも農産物・食品の輸出は輸出収入や地方の雇用、食料の安定確保にとって重要だと位置づけられています。ただし輸出額が伸びていても、売り先の国が少数に偏っていれば、その国の需要が落ち込んだり、貿易制限や物流の混乱が起きたときに打撃を受けやすくなります。

この研究は、2016年から2024年までのアゼルバイジャンの農産物・食品輸出について、輸出先が地理的にどれだけ集中しているかを調べたものです。あわせて、人的資本(教育や技能)への公的な投資を示す指標として「政府支出のうち教育に使われた割合」を取り上げ、輸出額や集中度との関係を探索的に確認しています。論文が一貫して掲げているのは、輸出額が増えることと輸出先が分散することを区別して評価するという視点です。

何をどう調べたか

対象は、国際的な品目分類(HSコード)の第01類から第24類にあたる農産物・食品です。輸出額と輸出先のデータは、アゼルバイジャン共和国の国家税関委員会と国家統計委員会の公式統計を主な資料とし、国際貿易センターの貿易データベースで照合しています。

集中度の測定にはハーフィンダール・ハーシュマン指数(HHI)を使いました。これは各年ごとに、輸出先の国それぞれが全体に占める割合を二乗して足し合わせた数値です。輸出先が多くの国に散らばっていれば0に近づき、1か国に完全に集中すれば1になります。論文では、表の見やすさのために小さな輸出先をまとめて「その他の国」と表示している部分があっても、指数の計算では国ごとの数値を別々に扱ったと説明しています。

教育支出の指標は世界銀行の世界開発指標から取り、輸出額や集中度との相関を計算しています。ただし著者は、年次データが9年分しかないため、この相関分析は探索的なものであり、因果関係の証明でも確認的な検証でもないと繰り返し述べています。またこの指標は国全体の予算の優先度を示すもので、輸出企業が実際に抱える従業員の技能や経営者の能力、人事の仕組みを直接測ったものではない、という限定も明記されています。

報告された主な結果

農産物・食品の輸出額は、2016年の約5億2,550万ドルから2024年には約11億550万ドルへ増え、名目で約110.4%の増加でした。論文は、この数値が当年価格のドル建てであるため、物価や為替の変動を除いた実質の伸びとしては解釈していないと注記しています。

一方、輸出先の集中度は高い水準が続きました。HHIは2016年の0.394から2019年に0.556まで上がり、その後2024年には0.496まで下がっています。つまり2019年のピークからはやや緩和したものの、2024年の値は2016年より高いままでした。著者はこれを、幅広く分散した輸出構造へ移行したとは言えない状態だと評価しています。2024年の内訳では、ロシアが農産物・食品輸出の約69.9%を占め、2位のジョージアは6.35%で、そのほかの主な輸出先はいずれも2.5%を超えませんでした。

石油以外の輸出全体に占める農産物・食品の割合は、期間中に変動しました。2016年から2020年は39%を上回り、2017年には約42.83%で最も高くなりましたが、2023年に28.95%まで下がり、2024年には約32.94%まで戻っています。

教育支出との関係については、年次の水準どうしの相関では農産物・食品輸出額と正の相関が見られました(r = 0.766、p = 0.016)。しかし著者は、前年からの変化量に置き換えて計算し直すと、正で統計的に意味のある関係は残らなかったと報告しています。これは、両者がともに時間とともに上昇傾向を持っていたことが水準どうしの相関に影響している可能性を示すものだと説明されています。教育支出とHHIのあいだには、統計的に意味のある相関は見られませんでした(r = 0.337、p = 0.375)。

この研究が示していること

論文の中心的な指摘は、輸出額の拡大と輸出先の分散は別々に評価する必要があるということです。石油以外の輸出全体が伸びていても、個別の分野の中に特定市場への強い依存が隠れていることがあり、農産物・食品ではまさにそれが見えたと述べられています。集中が続く背景として著者は、ロシアが地理的に近く、取引関係や物流網が既にあり、生鮮品や傷みやすい産品を運ぶのに適していて輸送費が比較的低いことを挙げています。遠い市場に入るには、より長い低温輸送、追加の認証、包装の変更、市場情報、販路の確保、そして多めの運転資金が必要になり、これは小規模な輸出者や傷みやすい産品にとって特に重い負担になります。

人的資本については、論文は慎重な線引きをしています。新しい市場に入るには、認証や追跡管理、品質保証、通関書類、取引先との連絡、市場調査を担える人材や、行き先ごとの費用とリスクを見極められる経営判断が必要になりうる、という道筋は示されます。しかし今回のデータは従業員の技能や人事の実務、経営能力、組織としての能力を測っていないため、これらは企業単位のデータで直接調べるべき仮説であって、本研究が実証した結果ではないと明言されています。

この研究が残すのは、国全体の集計データで測れることと測れないことの区別です。輸出額の増加そのものは、輸出先の偏りを解消しません。偏りをどう見るかは、金額の推移だけでなく、行き先の構造をあわせて読む必要がある——今回の報告が示しているのは、その読み方の重要さです。

著者:Ramzi Abdullayev(Department of Economic Problems of the Agrarian Sector, Institute of Economics, Ministry of Science and Education of the Republic of Azerbaijan, Baku, Azerbaijan)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Ramzi Abdullayev. Agricultural export concentration and market diversification in Azerbaijan: A human capital perspective. Human Resources Management and Services 2026-09-20. DOI: 10.18282/hrms6406. 原著ライセンス:CC BY.