著者の所属・活動拠点の国は、ドイツ、スペインです。
掲載誌:Wine Economics and Policy
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の目的
著者らは、2025年の世界のワイン貿易がなぜ縮小したのか、また業界がどのように対応しているのかを調べました。特に、これまで輸出量の減少を補ってきた平均価格の上昇が続かなくなったことと、米国の関税政策による市場の変化に着目しています。需要の弱まりと貿易政策を、貿易統計と業界関係者の認識の両面から捉えることが目的です。
何を、どのように調べたか
著者らは世界のワイン貿易統計を使い、輸出入の金額、数量、平均価格について、2025年の変化と2017年以降の動きを分析しました。主要な輸出国や輸入市場を比較し、米国の関税導入後の変化も検討しています。
これに組み合わせたのが、2025年10月21日から11月27日に実施された「ProWein Business Survey 2026」です。生産から流通までの業界関係者1,002人が、自社の事業に対する脅威などを回答しました。米国向けに輸出する生産者・輸出業者180人には関税の影響や対応を、流通段階を含む518人には2027年までの米国市場の見通しを尋ねました。
さらに、米国向け輸出を行う回答者のうち85人から得た具体的な自由記述を分析しました。大規模言語モデルを分類の補助に使い、著者が各分類を元の回答と照合して修正し、最終的な分類を決めています。
主な報告結果
論文によると、2025年の世界のワイン貿易は、金額、数量、平均価格がそろって減少しました。主要なワイン輸出国19か国すべてで輸出額が前年を下回り、輸出量もポルトガルとニュージーランドを除いて減りました。著者らは、平均価格の上昇で数量減を補う従来の動きが弱まったと報告しています。
業界調査では、自社への影響が「強い」または「非常に強い」と答えた割合は、コスト上昇が75%、消費者の購買力低下が67%で、脅威の上位を占めました。健康上の理由による消費減少は59%、アルコール政策の厳格化は57%でした。一方、貿易制限は28%で、尋ねた9項目の中では最も低くなりました。著者らは、統計と調査の双方が需要の弱さを主要な制約として示していると解釈しています。
ただし、米国向け輸出を行う180人に限ると、関税導入後に「変化なし」としたのは18%でした。輸出量の減少を報告した人は48%、輸出額の減少を報告した人は32%でした。また、米国市場の見通しに回答した518人のうち、輸入ワインの小売価格上昇を予想した人は49%だったのに対し、米国産ワインの販売増加を予想した人は25%でした。これは実際の販売結果ではなく、回答者の予測です。
自由記述から著者らが整理した輸出戦略は、アジアへの重点移行、複数地域への幅広い分散、欧州内での販売先の組み替え、米国以外の南北アメリカへの展開、小規模な市場への選択的な進出の5つでした。共通していたのは、米国に代わる一つの大市場を探すより、輸出先を分散してリスクを抑えようとする姿勢でした。
この報告が示すこと
著者らは、ワイン市場の変化を、一時的な景気の悪化だけでなく、消費の持続的な縮小を伴う構造的な変化と捉えています。この見方では、関税がなくなるだけで業界の状況が元に戻るとは考えにくいとしています。
ただし、高価格帯の商品への移行が弱まったという解釈は、平均価格だけで確定できるものではありません。ユーロ建て価格の低下にはユーロ高の影響があり、取引される商品の構成変化も関係している可能性があると著者らは述べています。また、調査は自ら参加した業界関係者の評価であり、業界全体の割合を推計したものではありません。脅威の順位も、需要減と関税が貿易縮小にそれぞれどれだけ寄与したかを測ったものではないと、著者らは区別しています。
原著論文の著者・所属:Simone Loose(Geisenheim University)、Rafael Del Rey(Analysts of Wine Markets (AWM))
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Simone Loose, Rafael Del Rey. State of the International Wine Markets in 2025: Contracting Trade, Fading Premiumisation and the Reconfiguration of the United States Market. Wine Economics and Policy(出版社:Elsevier BV) 2026-11-04. DOI: 10.36253/wep-21650. 原著ライセンス:CC BY.