著者の所属・活動拠点の国は、中国です。

掲載誌:Frontiers in Sustainable Food Systems

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の目的:輸出の伸びと排出は切り離せるか

中国の農産物・食品の輸出は、一帯一路のパートナー国・地域に向けて大きく伸びてきました。著者らは、こうした輸出の拡大と、それに伴って中国国内の生産段階で出る二酸化炭素(CO2)の増加を切り離せるか、つまり「デカップリング」が起きているかを調べました。注目したのは、パートナー国との間で生産工程が分担され、中間財などを通じてつながる度合い(域内バリューチェーン統合)です。

研究チームは、排出量の絶対量は「どれだけ多く輸出したか(規模)」と「輸出1単位あたりどれだけ排出するか(炭素強度)」の両方で決まる点を重視しました。そのため、バリューチェーン統合と排出の関係を一つの数字で済ませず、規模、生産構造、炭素強度といった要素に分けて検討しています。

何をどのように調べたか

分析の対象は二つの産業です。一つは農業・狩猟・林業・漁業、もう一つは食品・飲料・たばこの製造です。2007年から継続して追跡できた39のパートナー国・地域を対象に、2007〜2023年のデータを用いました。国と国の間の産業連関を記録した表を使い、輸出のうち中国国内で生み出された付加価値(国内付加価値)がどのような経路で生じているかを特定しています。

排出の指標は、この国内付加価値に、中国の該当産業における化石燃料由来の直接CO2の強度を当てはめて算出したものです。電力の発電、輸送、包装など、他の部門で生じる排出は計算の範囲に含まれていません。

手法としては、排出量の変化を規模・構造・炭素強度の寄与に分解する方法(LMDI分解)や、国・産業・年ごとの違いを考慮した回帰分析などを組み合わせました。バリューチェーンの協力は、中間財が一度だけ国境を越える「浅い」協力と、再輸出されたり中国に付加価値が戻ってきたりする「深い」協力に分けて扱っています。

主な結果

2007年から2023年にかけて、二つの産業から39のパートナーへの輸出は130.9億ドルから364.1億ドルへ、輸出に含まれる国内付加価値は119.0億ドルから335.9億ドルへ増えました。輸出に占める食品・飲料・たばこの割合も45.05%から75.29%に高まっています。その一方で、輸出の国内付加価値に起因する生産段階の直接CO2は、709.3万トンから492.9万トンへ30.51%減少したと報告されています。付加価値1単位あたりの直接炭素強度は、農林水産業で69.49%、食品等製造で83.70%低下しました。

要因分解では、輸出規模の拡大が約448万トン、構造の変化が約120万トンの増加要因でした。これに対し、炭素強度の改善は約784万トンの減少要因となり、増加分を上回って全体の排出を減らしたとされています。ただし著者らは、この炭素強度の改善がバリューチェーン統合によってもたらされたとまでは結論づけていません。統合と炭素強度の関係を調べた分析では、手法を変えると結果の向きや有意性が変わり、頑健な裏付けは得られなかったためです。

全体としては、バリューチェーン統合の度合いが高いほど排出が少ないという負の関連が示されました。協力の種類別に見ると、浅い協力は排出と負の関連、深い協力は正の関連を示し、両者の差は統計的に有意でした。また、統合は輸出規模の拡大や中間財輸出の比重の高まりとも関連していました。

同じ国・産業の組み合わせの中で年ごとの変化を追うと、統合が強まった年には輸出1単位あたりの排出が有意に低下していました。一方、排出の絶対量との関連ははっきりしませんでした。組み合わせ同士の長期的な排出量の違いは、主に貿易規模の違いと結びついていたと報告されています。

研究が示す意味

この研究は、地域の生産ネットワークへの統合が、輸出1単位あたりの炭素を減らす方向と結びつきうる一方で、排出の絶対量が減るかどうかは輸出規模の拡大や協力のかたちにも左右されることを示しています。著者らは、輸出額、国内付加価値、排出の絶対量、輸出1単位あたりの排出をあわせて把握することが重要だと述べています。農産物・食品の地域統合が環境にどう影響するかは、生産の効率とバリューチェーンの構造の両方にかかっている、というのが研究の伝える要点です。

原著論文の著者・所属:Kunlin Tang(School of Economics and Management, Shanghai Ocean University)、Wei Yang(School of Economics and Management, Shanghai Ocean University)、Yuan Huang(School of Economics and Management, Shanghai Ocean University)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Kunlin Tang, Wei Yang, Yuan Huang. Can regional value-chain integration decouple China's agri-food export growth from production-side direct CO2 attributed to export domestic value added? Evidence from belt and road partner economies. Frontiers in Sustainable Food Systems 2026-10-20. DOI: 10.3389/fsufs.2026.1977325. 原著ライセンス:CC BY.