著者の所属・活動拠点の国は、ブラジルです。
掲載誌:International Journal of Environmental Research and Public Health
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の目的
むし歯は世界で最もよく見られる慢性疾患の一つで、経済的に恵まれない家庭の子どもほど多い傾向があります。甘い飲み物や超加工食品を頻繁にとることはむし歯の危険因子として知られており、ブラジルでもこうした食習慣とむし歯の関連が報告されてきました。
研究チームは、健康格差が生まれる仕組みを二つに分けて考えました。一つは「差のある曝露」で、不利な立場の人ほど有害な要因に多くさらされることを指します。もう一つは「差のある脆弱性」で、同じ程度さらされても、不利な立場の人ほど大きな害を受けやすいことを指します。口の健康の分野では、この二つを明確に区別して調べた研究は少なく、幼児期と思春期を比べた研究もまれでした。
そこで著者らは、ブラジル中西部マット・グロッソ・ド・スル州の5歳児と12歳児を対象に、不健康な食品の摂取頻度とむし歯の関係において、この二つの仕組みがどう現れるかを調べました。5歳は乳歯、12歳は永久歯のむし歯を評価する国際的な基準年齢です。また、食べ物の選択を主に親が決める幼児期と、自分で選ぶ機会が増え、友人や広告の影響も受けやすくなる思春期という、異なる人生段階にあたります。
何をどのように調べたか
この研究は、水道水へのフッ化物添加がむし歯に与える影響を評価する大きな研究の一部で、添加が始まる前の2023〜2024年に、州内陸部の8つの自治体にある23校の公立学校で集めたデータを使いました。分析の対象は、5歳児445人と12歳児391人の計836人です。対象の学校に通う該当年齢の子ども全員に参加が呼びかけられました。
むし歯は、訓練を受けた歯科の検査者が世界保健機関(WHO)の基準に沿って診察しました。指標には、むし歯になっている歯の面、むし歯が原因で失われた歯の面、治療で詰め物をした歯の面の合計を使っています。数値が大きいほど、むし歯の経験が多いことを意味します。
不健康な食品の摂取は、甘い飲み物、揚げたスナック、加工肉、ビスケット、チョコレートなどを週に何回とるかで把握しました。5歳児は保護者が、12歳児は本人が質問票に答えています。摂取頻度は、週1回以下を「低」、週2〜4回を「中」、週5〜7回を「高」に分けました。家庭の社会経済的な状況は、世帯人数で調整した一人あたりの世帯収入と、保護者の最終学歴で評価しました。
分析では、まず家庭の経済状況によって不健康な食品の摂取頻度が違うかを調べ、これを「差のある曝露」の検討としました。次に、摂取頻度とむし歯の関連の強さが家庭の収入によって変わるかを統計モデルで検証し、これを「差のある脆弱性」の検討としました。さらに、社会経済的な順位の全体にわたる格差の大きさを、絶対的な差と相対的な比の両面から数値化する指標も算出しました。
主な結果
どちらの年齢でも、むし歯にははっきりした経済格差が見られました。5歳児では、むし歯の経験した歯の面の平均が、貧困線未満の家庭で8.79だったのに対し、一人あたり最低賃金を上回る家庭では0.67でした。12歳児では、それぞれ3.78と0.73でした。
「差のある曝露」は主に12歳児で確認されました。収入や保護者の学歴が低い家庭の12歳児ほど、不健康な食品を頻繁にとると答える傾向がありました。一方、5歳児では摂取頻度に明確な経済的な傾きは見られませんでした。ただし著者らは、これは幼児期に差が存在しないことを意味するものではないと述べています。保護者による回答であることや、幼児は食べ物を自分で選ぶ機会が少ないことなどが影響した可能性を挙げています。
「差のある脆弱性」も12歳児でより明確でした。12歳児では、収入と摂取頻度の組み合わせによってむし歯との関連が変わることが統計的に示されました。モデルから推定したむし歯の歯面数の平均は、貧困線未満の家庭の12歳児で、摂取頻度が低い場合の2.47から、高い場合には7.75まで増えていました。収入の高い層では、このような増え方はより小さいものでした。5歳児では、どの摂取頻度でも貧困線未満の家庭のむし歯が多かったものの、収入によって関連の強さが変わるという統計的な証拠は得られませんでした。
格差の指標でも、相対的な格差は12歳児のほうが5歳児より大きいという結果でした。また、むし歯の有無で分析し直した場合も、同じ傾向が確認されています。
研究から伝わること
著者らは、むし歯の経済格差は、不健康な食品へのさらされ方の違いだけでなく、同じように食べても受ける影響の大きさの違いによっても形づくられており、その傾向が思春期でとくに目立つと結論づけています。研究チームは、個人の食習慣を変えることだけに頼る対策では不十分な可能性があり、健康的な食環境づくりと、フッ化物添加水道水やフッ化物入り歯みがき剤、予防歯科、口の健康に関する情報を公平に利用できる環境を組み合わせることが重要だと述べています。
一方で、この研究は一時点の調査であるため、因果関係を示すものではありません。また、対象は一つの州の中小規模自治体に住む子どもに限られています。こうした限界はありますが、平均的な関連だけを見ていては見えにくい格差の仕組みを、年齢段階ごとに示した点に、この研究の意義があります。
原著論文の著者・所属:Rafael Aiello Bomfim(Faculty of Dentistry, Federal University of Mato Grosso do Sul, Campo Grande 79040-040, Brazil; Integrated Health Institute, Federal University of Mato Grosso do Sul, Campo Grande 79040-040, Brazil; Postgraduate Program in Health and Development in the Midwest, Faculty of Medicine, Federal University of Mato Grosso do Sul, Campo Grande 79040-040, Brazil)、Luiza De Carli Grieleitow(Faculty of Dentistry, Federal University of Mato Grosso do Sul, Campo Grande 79040-040, Brazil; Postgraduate Program in Health and Development in the Midwest, Faculty of Medicine, Federal University of Mato Grosso do Sul, Campo Grande 79040-040, Brazil)、Hazelelponi Naumann Cerqueira Leite(Postgraduate Program in Health and Development in the Midwest, Faculty of Medicine, Federal University of Mato Grosso do Sul, Campo Grande 79040-040, Brazil)、Amanda Barbosa Oliveira(Postgraduate Program in Health and Development in the Midwest, Faculty of Medicine, Federal University of Mato Grosso do Sul, Campo Grande 79040-040, Brazil)、Andreia Morales Cascaes(Department of Public Health, Federal University of Santa Catarina, Florianópolis 88040-900, Brazil)、Paulo Frazão(School of Public Health, University of São Paulo, São Paulo 01246-904, Brazil)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Rafael Aiello Bomfim, Luiza De Carli Grieleitow, Hazelelponi Naumann Cerqueira Leite, et al. Differential Exposure and Differential Vulnerability to Unhealthy Food Consumption in Relation to Dental Caries Among Brazilian Children and Adolescents. International Journal of Environmental Research and Public Health 2026-08-22. DOI: 10.3390/ijerph23091093. 原著ライセンス:CC BY.