著者の所属・活動拠点の国は、中国です。

掲載誌:Journal of Animal Science and Biotechnology/Journal of animal science and biotechnology

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の目的:好まれる香りの正体と、それを生む仕組みを探る

豚肉の評価は品質で大きく左右され、とくに加熱したときに立ちのぼる香りの成分(揮発性風味化合物)は、おいしさや他の豚肉との違いを決める重要な要素とされています。中国在来の梅山豚は、粗い飼料に強く子だくさんな品種として知られるだけでなく、その肉の風味が消費者に好まれることでも知られています。ただし、研究チームによれば、梅山豚の豚肉らしさを決める目印となる香り成分は、これまで明らかになっていませんでした。

肉の香りは、加熱中に糖やアミノ酸が反応するメイラード反応や、脂質の分解・酸化などを通じて、もとになる物質(前駆体)から生まれます。なかでも脂肪酸は中心的な前駆体とされ、アルデヒド類は少量でもにおいを感じやすく、脂っぽい香りや青くさい香りをもたらす重要な成分とされています。梅山豚は筋肉内の脂肪(いわゆるサシ)が多いことで知られますが、どの脂質分子が香りに大きく関わり、それがどう調節されているのかは分かっていませんでした。

また著者らは、脂肪酸を酸化する酵素の一つであるALOX5という遺伝子に注目しています。この酵素は炎症に関わる働きで知られてきましたが、近年、リノール酸やα-リノレン酸といった脂肪酸を酸化してアルデヒドの生成につながることが報告されています。一方で、豚肉の風味づくりに関わるのか、品種によって働きの強さが違うのかは、まったく分かっていなかったと論文は述べています。そこで研究チームは、5つの系統の豚の香りを体系的に比べ、梅山豚の特徴的な香りの分子的な土台を解き明かすことを目指しました。

何を調べたか:香り成分から遺伝子までを一続きに追う

対象は5群、計29頭の豚です。純粋な梅山豚、梅山豚と西洋品種(ヨークシャー、ピエトレン)との一代雑種2群、商業品種のランドレース、そして一般的な三元交雑豚(デュロック×ランドレース×ヨークシャー)を比べました。在来種から西洋の商業品種までを段階的に並べる設計です。すべて去勢した雄で、約190日齢、同じ飼料と同じ飼育環境で育てられ、背中の部分のロース肉にあたる筋肉を分析しました。

香りについては、まず複数のセンサーでにおいの傾向をとらえる「電子鼻」で全体像を調べ、続いて、肉を加熱して出てくる成分を捕集し、一つひとつの化合物を分けて特定・定量する分析(HS-SPME-GC-MS)を行いました。さらに、各成分の量をにおいを感じる最低濃度で割った値を計算し、実際に香りへの寄与が大きいとみられる成分を絞り込む方法も用いています。

そのうえで、筋肉に含まれる代謝物や脂肪酸の網羅的な測定、遺伝子の働き具合を一度に調べる解析(トランスクリプトーム解析)を行い、多数のデータの中から互いに連動して増減するまとまりを見つけ出す統計手法(WGCNA)で、香り成分と関連する前駆体や遺伝子の候補を探りました。候補となった前駆体は試験管内で加熱して香り成分への変化を確かめ、候補遺伝子については組織の分析や、培養した筋肉由来の細胞でALOX5の働きを強めたり弱めたりする実験を行い、アルデヒドの量などを調べています。

主な結果:梅山豚の肉ではアルデヒド類が最も多かった

まず肉質について、梅山豚は他の4群に比べて体重や枝肉重量が有意に小さい一方で、筋肉内脂肪の量は導入された商業品種より多く、梅山豚との雑種2群も商業品種2群より多いことが報告されました。また梅山豚の肉は5群の中で最も柔らかいという結果でした。死後の筋肉のpHには、群間で統計的な差はみられませんでした。

電子鼻による分析では、5群をはっきり区別するほどの差は全体としては見られなかったものの、10個のセンサーのうち6個で群間に有意な差がありました。梅山豚では、アルデヒド・アルコール・ケトンなどに反応するセンサーを含む3つのセンサーの反応が最も強く、ランドレースや三元交雑豚より高い値を示しました。

個々の成分を調べる分析では、合計542種類の香り成分が特定されました。成分全体のパターンでは5群ははっきり分かれませんでしたが、成分の種類ごとに見ると、アルコール、ケトン、アルデヒド、エステル、窒素化合物で群間の違いがありました。アルコール類は梅山豚と雑種2群で商業品種2群より多く、そして最も目立った結果として、アルデヒド類の相対的な量は梅山豚で最も多く、他の4群のいずれよりも有意に高いことが示されました。アルデヒド類は少量でも香りに強く影響する成分とされることから、梅山豚の肉の香りの特徴を考えるうえで重要な手がかりといえます。

この研究が示すこと

この研究は、香りの成分を測るだけでなく、その原料となる物質、さらにそれを左右しうる遺伝子までを、同じ個体のデータで結びつけようとした点に特徴があります。著者らは、この多層的な解析と実験の枠組みによって、香り成分と前駆体、そして候補となる調節遺伝子とのつながりを示したとし、豚肉の風味の遺伝的な土台や、品種改良で着目しうる分子的な目印について新たな視点を与えるものだと位置づけています。好まれる在来種の豚肉の香りを、分子のレベルから説明しようとする試みといえます。

原著論文の著者・所属:Huangbing Sun(MOE Joint International Research Laboratory of Animal Health & Food Safety, Nanjing Agricultural University, Nanjing, 210095, China.; Key Laboratory of Animal Physiology & Biochemistry, Ministry of Agriculture and Rural Affairs, Nanjing Agricultural University, Nanjing, 210095, China.)、Zhongyu Yang(MOE Joint International Research Laboratory of Animal Health & Food Safety, Nanjing Agricultural University, Nanjing, 210095, China.; Key Laboratory of Animal Physiology & Biochemistry, Ministry of Agriculture and Rural Affairs, Nanjing Agricultural University, Nanjing, 210095, China.)、Haoyang Wang(MOE Joint International Research Laboratory of Animal Health & Food Safety, Nanjing Agricultural University, Nanjing, 210095, China.; Key Laboratory of Animal Physiology & Biochemistry, Ministry of Agriculture and Rural Affairs, Nanjing Agricultural University, Nanjing, 210095, China.)、Pengju Du(MOE Joint International Research Laboratory of Animal Health & Food Safety, Nanjing Agricultural University, Nanjing, 210095, China.; Key Laboratory of Animal Physiology & Biochemistry, Ministry of Agriculture and Rural Affairs, Nanjing Agricultural University, Nanjing, 210095, China.)、Wangjun Wu(Department of Animal Genetics, Breeding and Reproduction, College of Animal Science and Technology, Nanjing Agricultural University, Nanjing, 210095, China.)、Guoqiang Fan(MOE Joint International Research Laboratory of Animal Health & Food Safety, Nanjing Agricultural University, Nanjing, 210095, China.; Key Laboratory of Animal Physiology & Biochemistry, Ministry of Agriculture and Rural Affairs, Nanjing Agricultural University, Nanjing, 210095, China.)、Xiaojing Yang

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Huangbing Sun, Zhongyu Yang, Haoyang Wang, et al. Integrated multi-omics analysis deciphers the molecular mechanisms underlying the characteristic volatile flavor of Meishan pork. Journal of Animal Science and Biotechnology/Journal of animal science and biotechnology 2026-11-04. DOI: 10.1186/s40104-026-01515-7. 原著ライセンス:CC BY.