著者の所属・活動拠点の国は、中国です。

掲載誌:Foods

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の目的:照射技術と米の品質を「でんぷんの構造」から結びつける

米は世界の主要な食糧であり、近年は精米やでんぷんにとどまらず、米粉麺や米粉パン、即席ご飯、飲料など、グルテンを含まない食品の素材としても使われる場面が広がっています。収穫量が多く安定しているぶん、収穫後から加工まで食味や加工のしやすさを保つ貯蔵・品質管理の技術が重要になります。

その候補の一つが電離放射線の照射です。熱を加えずに処理でき、効率が高く、化学物質も残らないという特徴があり、食品の微生物対策や包装材の殺菌、青果物の鮮度保持などに使われてきました。一方で、食品用として認められた線量の範囲内であっても、食品内部の成分に影響を与える点は見過ごせないと著者らは指摘しています。

米の主成分はでんぷんです。でんぷんは直鎖状のアミロースと、枝分かれの多いアミロペクチンからなり、分子の鎖の長さ、分子が規則正しく並んだ結晶の部分、でんぷん粒の形や内部構造といった、細かいレベルから大きなレベルまで階層的な構造を持っています。この構造が、炊いたり加工したりしたときの糊化(加熱で水を吸ってのり状になること)や老化(冷めて硬くなること)、食感を左右します。本論文は、照射がこの多層的なでんぷん構造をどう変え、その変化が米製品の品質にどうつながるのかを、既存研究をもとに整理した総説です。

何を調べたか:三種類の照射技術と既存研究の整理

著者らは、学術データベースのScopusとWeb of Scienceで「電離放射線」「ガンマ線」「電子線」「X線」「米でんぷん」「米の品質」などの語を組み合わせて検索し、主に2020年以降の英語の査読論文を集めました。関連性の高い論文の参考文献をたどる方法も併用し、照射の種類や線量、でんぷん構造の変化、それに対応する性質の変化といった情報を、照射の種類と構造の階層ごとに分類しています。なお、厳密な手順に沿うシステマティックレビューではなく、全体像を描く叙述的な総説であると論文自身が位置づけています。

対象となった照射技術は、ガンマ線、X線、電子線の三つです。論文によると、ガンマ線は透過力が強いものの放射性同位体(主にコバルト60)に依存するため、環境や安全面の懸念から食品加工での利用規模は近年縮小傾向にあります。X線は放射性物質を使わずに発生させられ、ガンマ線に匹敵する透過力を持ちますが、装置の初期費用が高い点が課題です。電子線は同じく放射性物質を使わず、エネルギー効率や経済性に優れる一方、透過力が弱く、表面や浅い層の処理に向くと整理されています。

主な報告:分子の分解から粒の表面の傷まで

分子のレベルでは、照射のエネルギーがでんぷん分子をつなぐ結合を切ったり、周囲の水などから生じた反応性の高い物質(フリーラジカル)が連鎖的に鎖を攻撃したりすることで、長い鎖が短く分解されると著者らはまとめています。アミロペクチンでは外側の短い枝が切れやすく、短い鎖の割合が増える傾向があり、こうした変化や分子量の低下は線量が高いほど大きくなるのが一般的だとしています。わずかに分子どうしが結びつく傾向を報告した研究もあるものの、穀物やいも類、豆類の多くのでんぷんでは分解が主な効果だというのが既存研究の大勢だと述べています。

分子が規則正しく並んだ構造のレベルでは、線量が高いほど結晶の割合が下がる傾向が報告されており、米から取り出したでんぷんでも電子線照射で同様の傾向が確かめられています。ただし、食品用に認められた線量の範囲では、米でんぷんに特有の結晶の型(A型)を示す特徴は保たれ、構造が完全に崩れるわけではないこと、また赤外分光の分析で新しい化学的な官能基が生じた形跡は見られないことも整理されています。

でんぷん粒のレベルでは、照射による変化が表面のひび、しわ、穴などとして現れ、内部の成長輪と呼ばれる層構造が乱れることもあると報告されています。食品用の線量範囲内では米でんぷんの粒に深刻な表面損傷は通常生じないものの、線量がある値を超えると粒の大きさが明らかに小さくなり、ひびが目立ち始めるとされます。

照射の種類による違いについては、主にじゃがいもやレンズ豆のでんぷんを用いた比較研究がまとめられています。電子線は粒の表面に作用が集中しやすく、比較的穏やかで制御しやすい改質になりやすい一方、X線はより深くまで均一に鎖を切り、粒の内部にも穴や通路を増やす傾向があると整理されています。結晶構造が密なでんぷんほど、両者の違いがはっきり現れるとも述べています。

性質の面では、電子線やガンマ線の線量が増えるにつれて、でんぷんが水に溶ける割合(溶解度)は上がり、水を抱えて膨らむ力(膨潤力)は下がる傾向が報告されています。著者らは、分解で生じた短い鎖が溶け出しやすくなることと、粒の構造やアミロペクチンの分子量が損なわれて水を保持しにくくなることを、その説明として挙げています。ただし変化の程度は照射の種類、線量、米の品種などに左右されるため、報告されている関係は固定的な値ではなく一般的な傾向として受け止めるべきだと注意を促しています。

この総説が示すこと

本論文は、照射による変化が分子の切断から始まり、結晶の乱れ、粒の表面や内部の変化へと段階的に伝わり、最終的に米やでんぷんの性質に表れるという見取り図を示しました。照射を米の保存や加工に役立てるには、こうした構造の変化と品質との結びつきを踏まえることが重要だという視点を整理したものといえます。

同時に著者らは、三種類の照射を同じ条件で直接比べた研究は少なく、比較研究の多くがじゃがいもやレンズ豆のでんぷんを対象としていて、米でんぷんのようなA型のでんぷんについては体系的な比較がまだ限られていることも明確にしています。現時点で分かっていることとまだ埋まっていない部分の両方を示した点も、この総説の特徴です。

原著論文の著者・所属:Bin Ren(College of Food Science and Engineering, Lingnan Normal University, Zhanjiang 524048, China)、Danyang Liang(Zhejiang-Malaysia Joint Research Laboratory for Agricultural Product Processing and Nutrition, College of Food Science and Engineering, Ningbo University, Ningbo 315832, China)、Yuheng Zhai(Zhejiang-Malaysia Joint Research Laboratory for Agricultural Product Processing and Nutrition, College of Food Science and Engineering, Ningbo University, Ningbo 315832, China)、Ying Wan(Zhejiang-Malaysia Joint Research Laboratory for Agricultural Product Processing and Nutrition, College of Food Science and Engineering, Ningbo University, Ningbo 315832, China)、Xiaohu Luo(Zhejiang-Malaysia Joint Research Laboratory for Agricultural Product Processing and Nutrition, College of Food Science and Engineering, Ningbo University, Ningbo 315832, China)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Bin Ren, Danyang Liang, Yuheng Zhai, et al. Ionizing Irradiation Regulation of Rice Product Quality: A Comprehensive Analysis Based on Starch Multiscale Structure. Foods 2026-07-29. DOI: 10.3390/foods15152681. 原著ライセンス:CC BY.