日本関連:この研究は海外機関を中心とする国際共同研究で、日本の研究機関に所属する共著者が参加しています。参加国は中国、日本、ナイジェリアです。

掲載誌:Animal Bioscience

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

なぜ「筋肉の中の脂肪」に注目するのか

肉の柔らかさ、ジューシーさ、風味を大きく左右する要素の一つが、筋肉の繊維の間に入り込んだ脂肪です。専門的には筋肉内脂肪と呼ばれ、一般には「霜降り」や「サシ」として知られています。論文によると、この脂肪は食感や味だけでなく、肉に含まれる脂肪酸の組成、酸化しにくさ(品質の保ちやすさ)、栄養価にも関わります。そのため、筋肉内脂肪の付き方を適切に整えることは、家畜生産における重要な目標とされています。

筋肉内脂肪がどれだけ付くかには、遺伝による影響がかなり大きいことがこれまでに示されてきました。一方で著者らは、動物自身の遺伝的な性質だけでなく、腸内に住む微生物(腸内細菌叢)と動物の代謝との相互作用も関わっていることを示す証拠が増えていると指摘します。ただし、遺伝、微生物の代謝、脂肪細胞の形成をつなぐ仕組みはまだ十分に解明されていません。また、これまでの総説の多くは、遺伝による調節と腸内細菌による脂肪蓄積を別々の話題として扱ってきました。

この論文は、新たな実験を報告するものではありません。既存の研究を集めて整理した総説(レビュー)です。研究チームは、動物側の遺伝と腸内細菌という二つの視点を一つにまとめ、主要な家畜種を比較しながら、筋肉内脂肪の蓄積と肉質を調節する仕組みについての知見を整理しています。

家畜の種類や腸の部位によって異なる微生物の関わり

論文は、家畜の種類ごとに報告されてきた知見を紹介しています。豚では、動物自身の遺伝的な違いと、盲腸の微生物の構成がともに脂肪の付き方に影響しており、遺伝と微生物の相互作用が筋肉内脂肪のばらつきの一部を説明することが報告されています。牛では、第一胃(ルーメン)だけでなく、盲腸、後腸、ふんの微生物群集についても調べられています。それぞれの消化管の生態系は、栄養の発酵、代謝物の産生、脂肪の振り分けにそれぞれ異なる形で関わっていると紹介されています。鶏などの家禽では、盲腸の微生物群集の構造や代謝の働きが、筋肉内脂肪の蓄積の違いと関連づけられています。

著者らは、こうした知見から、筋肉内脂肪に対する微生物の関わり方は家畜の種類と消化管の部位によって異なると整理しています。また、関わっている菌の種類が動物ごとに違っていても、果たしている代謝の機能には共通点がみられるという見方も示しています。この見方は、種を越えて共通に働く微生物の仕組みを探す手がかりになると位置づけられています。

遺伝と微生物が交わる「共通の調節点」

動物側では、脂肪細胞が分化して脂肪をため込む過程を、いくつもの仕組みが協調して調節しています。中心となるのは、PPARγやC/EBPαといった脂肪細胞化の司令塔役の遺伝子調節因子です。これに加えて、脂肪の合成に関わる調節因子、栄養状態を感知する経路、さらにDNAの配列を変えずに遺伝子の働き方を変える「エピジェネティック」な調節も関わっていると論文は述べています。

一方、腸内細菌は、食物繊維などを発酵して短鎖脂肪酸をつくったり、胆汁酸を二次胆汁酸に変えたりします。論文は、こうした微生物由来の物質が脂肪細胞の形成、炎症、栄養の振り分けに影響しうることをまとめています。たとえば、短鎖脂肪酸の一つである酪酸は、遺伝子の働きを調節するヒストンの化学的な変化(アセチル化)を通じて、脂肪細胞化に関わる遺伝子の発現を高めます。逆に、炎症はPPARγの働きを抑えます。

著者らは、動物の遺伝と微生物の代謝が交わる調節点として、いくつかの経路を挙げています。細胞のエネルギー状態を感知するAMPK、栄養や成長の信号を統合するmTOR、短鎖脂肪酸を受け取る受容体(GPR41とGPR43)、胆汁酸に応答するFXRとTGR5などです。同じような餌や微生物環境に置かれた動物の間でも、これらの受容体の反応性の違いが筋肉内脂肪の差に関わっている可能性も紹介されています。

さらに、遺伝子の領域と形質の関連を全ゲノムで調べる研究(ゲノムワイド関連解析)についても取り上げられています。こうした研究では、筋肉内脂肪や飼料効率に関わる動物の遺伝子領域が、栄養の代謝に関わる腸や第一胃の微生物の量を左右する領域と重なることが、家畜種を越えて一貫して報告されています。著者らはこれを、遺伝と微生物が脂肪蓄積の違いに共通の基盤を持つことを示唆するものとしています。

脂肪を「どこに」付けるかという視点

論文は、筋肉内脂肪を一つの組織だけの問題ではなく、全身にわたる栄養の振り分けの結果として捉えています。筋肉、脂肪組織、肝臓の代謝、そして腸内細菌によるエネルギーの取り込みが協調した結果だという見方です。体全体の過剰な脂肪とは異なり、適度な筋肉内脂肪は肉質を高めます。そのため、筋肉の中には脂肪を付けつつ、それ以外の場所への過剰な蓄積は抑える、という選択的な栄養の振り分けが求められると著者らは述べています。遺伝的背景や餌が似ている動物の間で霜降りの度合いがばらつく理由の一部も、こうした遺伝と微生物の相互作用で説明できる可能性があるとしています。

応用の方向性としては、いくつかのアプローチが紹介されています。プロバイオティクス(有用な微生物)やプレバイオティクス(有用な微生物の栄養源)を使って微生物の構成や働きを調整する飼養法、短鎖脂肪酸や胆汁酸などの代謝物を狙った飼料設計、そして遺伝と微生物の相互作用を取り入れた育種です。一方で、現時点の知見の多くは関連を示す段階にとどまっています。そのため論文は、因果関係を確かめる検証を重要な課題として挙げています。

総説が示すもの

著者らは、この総説の中心的な新しさを、主要な家畜種にまたがる知見を比較・統合した点に置いています。その上で、筋肉内脂肪を遺伝だけ、あるいは微生物だけで決まる形質としてではなく、動物、微生物、代謝が絡み合って生じる性質として捉え直しています。霜降りという身近な肉の特徴が、動物自身の遺伝と腸の中の微生物との共同作業として形づくられている可能性を、この総説は分かりやすく描き出しています。

原著論文の著者・所属:Ifeanyi Solomon Ahamba(Northwest A&F University , Yangling , China)、Naqash Goswami(Northwest A&F University , Yangling , China)、Lionel Kinkpe(Northwest A&F University , Yangling , China)、Haodong Han(Northwest A&F University , Yangling , China)、Chinyere Mary-Cynthia Ikele(Integrated Germline Biology Group Laboratory, Osaka University, Osaka, Japan, Osaka, Japan)、Qianting Duan(Northwest A&F University , Yangling , China)、Ogechi Kadurumba(Department of Animal Science and Technology, Federal University of Technology, Owerri, Owerri, Nigeria)、Xianggui Dong(Northwest A&F University , Yangling , China. [email protected])、Zhanjun Ren(Northwest A&F University , Yangling , China)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Ifeanyi Solomon Ahamba, Naqash Goswami, Lionel Kinkpe, et al. Host genetic and gut microbiota interactions regulating intramuscular fat deposition in livestock: mechanistic insights and implications for meat quality. Animal Bioscience 2026-09-01. DOI: 10.5713/ab.260478. 原著ライセンス:CC BY.