スーパーで「ヘザーはちみつ」「オレンジはちみつ」「モミはちみつ」といったラベルを見かけても、それが本当にその花や木に由来する蜜なのか、消費者が確かめる手立てはほとんどありません。ギリシャ・パトラス大学の研究チームは、実際に市場に流通している市販はちみつを買い集め、花粉の顕微鏡分析から成分の化学分析、さらには病原菌に対する働きまで、複数の角度から品質と表示の正しさを検証しました。

何を、どうやって調べたのか

調査対象は、3つの生産者から入手した「ヘザー(ヒース)」「オレンジ(柑橘)」「モミ」の市販はちみつ、各3点ずつ計9点です。ヘザーはちみつはギリシャのポルテス(アカイア県)、ボロス(テッサリア地方)、エヴィア島産、オレンジはちみつはアルゴス(ペロポネソス地方)産、モミはちみつはエリマントス、アグラファ、パナハイコ(いずれもペロポネソス地方・中央ギリシャ)産のものが選ばれました。

まず行われたのが、はちみつに含まれる花粉粒を顕微鏡で数えて由来植物を特定する「メリソパリノロジー(蜜源花粉学)分析」です。これは植物由来を確認する公式な手法とされていますが、著者らは分析に時間がかかることや、熟練した分析者が必要なこと、柑橘のように花粉が少なめにしか出ない蜜源では判定が難しいといった弱点があることも述べています。あわせて、pH・水分量・電気伝導度・灰分・糖度・ビタミンC・遊離酸度・色調(プフント値)といった理化学的な指標や、HMF(ヒドロキシメチルフルフラール、加熱や劣化の指標となる物質)、過酸化水素、総フェノール量、抗酸化活性、フェノリック指数といった生化学的な指標も測定されました。さらに、黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)、腸管出血性大腸菌O157:H7(Escherichia coli O157:H7)、ネズミチフス菌(Salmonella Typhimurium)という3種の代表的な病原菌に対する抗菌力も調べられています。

「ヘザーはちみつ」表示に食い違いが見つかった

花粉分析の結果、最も注目すべき食い違いが「ヘザーはちみつ」として売られていた3点で見つかりました。ヘザー由来と分類されるにはエリカ属(Erica sp.)の花粉が45%以上を占める必要があるとされていますが、実際にエリカ属花粉が66%を占めて基準を満たしていたのは1点のみでした。もう1点はエリカ属花粉が38%にとどまり、代わりにシロツメクサ属(Trifolium sp.)やアブラナ科の花粉が目立ち、ヘザーと針葉樹由来の蜜が混ざったものと判定されました。残る1点にはエリカ属花粉がまったく検出されず、シロツメクサ属やクロウメモドキ科、クリ(Castanea sativa)の花粉が中心で、針葉樹はちみつ、あるいは甘露蜜(樹木の分泌物由来のはちみつ)が混じったものとみられ、ラベル表示とは異なる由来であることが示唆されました。この「純粋でない」ヘザーはちみつは、水分量も19%を超えており、ギリシャのはちみつとしては規定の範囲から外れる高さだったと報告されています。

一方、オレンジはちみつ3点はいずれも柑橘の花粉がわずか3%ながら検出され、シロツメクサ属やアブラナ科の花粉と合わせてオレンジブロッサム由来として妥当と判定されました。モミはちみつ3点は、いずれもクリ(Castanea sativa)の花粉が60〜79%と優勢で、モミはちみつとしての表示と矛盾しない結果だったとされています。ただし、化学分析ではオレンジはちみつ2点でHMFの値が規定範囲を超えていたことも報告されており、これは加熱や保存の影響を受けた可能性を示すデータとされています。

成分や抗菌力にも種類ごとの違い

成分分析では、ヘザーはちみつがビタミンC(100gあたり7.3〜8.1mg)、過酸化水素(最大30mg/L)、総フェノール量(1Lあたり120〜160mgのガリック酸相当量)のいずれにおいても最も高い値を示したと報告されています。過酸化水素は色の濃いはちみつに多く含まれる傾向があり、これは酵素β-グルコシダーゼがグルコースをグルコン酸と過酸化水素に変換する働きによるものと説明されています。反対にオレンジはちみつはこれらの値がいずれも低めで、pHもより酸性側(3.6〜3.7程度)を示し、色も最も淡かったとされています。

抗菌力の検証では、はちみつ濃度10%と20%(いずれも重量/体積比)の溶液を使って各病原菌への発育阻止効果を調べたところ、ヘザー・オレンジ・モミの3種類すべてで発育を抑える働きが確認され、濃度20%の方がより強い効果を示したとされています。黄色ブドウ球菌に対してはモミはちみつが、大腸菌O157:H7に対してはヘザーとオレンジはちみつが比較的強い効果を示すなど、種類による違いも観察されましたが、論文の統計解析では、はちみつの種類による差は統計的に有意ではなかった項目も含まれています。

この研究をどう受け止めるか

この研究は、ギリシャ国内で流通する限られた数の市販はちみつサンプルを対象にしたものであり、著者ら自身も花粉分析には分析者の熟練度や、蜜源によって花粉の出方が偏るといった限界があることを述べています。今回「純粋でない」と判定された商品が特定のブランドや流通全体を代表するものではなく、あくまで今回入手した個別サンプルについての結果である点には注意が必要です。また、抗菌力の実験はシャーレ上での培養試験によるもので、はちみつを食べることで同様の効果がヒトの体内で得られるかどうかを示したものではありません。著者らは、複数の分析手法を組み合わせて市販はちみつの品質を評価した点に本研究の意義があるとしています。

それでも、はちみつの表示と中身が必ずしも一致しない可能性があること、そして種類によって水分量や酸性度、フェノール量、抗菌力に違いが見られることは、はちみつを選ぶ際の一つの参考情報になりそうです。

※本記事は原著論文の翻訳ではなく、研究内容を独自に解説したものです。参考文献:Maria-Evangelia Giannoulou, Eirini Intzirtzi, Dimitrios G. Lazaridis, et al. Characterization of commercial honey samples based on melissopalynological, physicochemical, biochemical, and antimicrobial analysis. エクスプロレーション・オブ・フーズ・アンド・フードミクス (2026). DOI: 10.37349/eff.2026.1010180.