ゴマといえば料理の風味づけや搾油の原料として馴染み深い食材ですが、実はまだ十分に活用しきれていない『underutilized(活用不足の)』作物だと指摘されています。今回紹介する研究は、豆類や穀類でよく行われる『発芽』という加工を白ゴマの種子に施すと、含まれる成分や抗酸化の働きがどう変化するのかを、時間を追って詳しく調べたものです。研究はパキスタンのフォーマン・クリスチャン・カレッジ(Kauser Abdulla Malik School of Life Sciences)を中心に、ラホールのUniversity of Veterinary and Animal Sciences、そしてオーストラリアのメルボルン大学(University of Melbourne)の研究者が参加して行われました。
発芽は、種子が水を吸って芽(幼根)を出すまでの一連のプロセスで、豆や穀物の栄養価を高めたり、消化を妨げる成分(抗栄養素)を減らしたりする伝統的な加工技術として知られています。ゴマ種子はもともとタンパク質を17〜40%含み、肉(18〜25%)や穀類(7〜13%)と比べても遜色ない植物性タンパク源であるほか、カルシウムを牛乳の3倍程度含むとされ、セサミン・セサモリン・セサミノールといった『ゴマリグナン』と呼ばれる機能性成分でも知られています。論文では、これまでの研究がゴマの発芽を12〜72時間程度の比較的短い範囲でしか調べておらず、幼根が十分に発達するまでの長い期間(今回は最長120時間)を追跡した例は報告されていなかったと述べられています。
どのように調べたのか
研究チームはパキスタン・ラホールの市場で仕入れた白ゴマ種子を100gずつ6つのグループに分け、5時間水に浸したのち、湿らせたろ紙を敷いたトレイの上で室温(25±2℃、湿度30〜35%)で発芽させました。発芽させなかった種子(S0)に加え、発芽開始から24時間(S1)、48時間(S2)、72時間(S3)、96時間(S4)、120時間(S5)の時点でそれぞれ種子を取り出し、酵素の働きを止めるために乾煎りしてから分析に用いています。1日2回の水スプレーでカビの発生がないか確認しながら管理されました。
分析では、水分・灰分(ミネラルの総量の指標)・タンパク質・脂質・食物繊維などの一般成分に加え、フォーリン・チオカルト法による総ポリフェノール量(TPC)、塩化アルミニウム比色法による総フラボノイド量(TFC)、さらにDPPH法とABTS法という2種類の手法で抗酸化活性を測定しました。加えて、ルチン、イソラムネチン、ルテオリン、ケンフェロール、ケルセチン、プロシアニジン、β-カテキン、エピカテキンといった個別のフラボノイド量も紫外可視分光法で推定されています。
発芽時間によって成分はどう変わったか
一般成分については、発芽が進むにつれて脂質は減少し(非発芽のS0で45.33%だったのが、120時間のS5では19.17%まで低下)、逆にタンパク質は増加する傾向(S0の18.64%からS5の22.55%へ)が見られました。これは、種子が発芽の過程で蓄えていた脂質をエネルギー源として消費する一方、幼根の成長に必要な酵素やタンパク質を新たに合成しているためだと論文では説明されています。食物繊維も非発芽の5.91%から発芽24時間以降は10〜12%台に増加しました。
フィトケミカル(植物由来の機能性成分)に関しては、興味深い『分かれ道』が見られました。総フラボノイド量は発芽48時間(S2)まで増加し、非発芽時の46.66mg QE/100gから53.15mg QE/100gへとピークに達しましたが、それ以降は発芽時間が長くなるほど減少し、120時間では11.94mg QE/100gまで落ち込みました。個別の成分で見ても、ルテオリン、ケンフェロール、ケルセチンなどは48時間前後でピークを示す傾向が共通していました(たとえばケルセチンは48時間で140.04mg/100gと最も高い値を記録)。一方、総ポリフェノール量はこれと逆の動きを示し、発芽時間が長くなるほど増え続け、非発芽の29.93mg GAE/100gから120時間では137.28mg GAE/100gと、測定した中で最も高い値になりました。
抗酸化活性についても、指標によって結果が異なりました。DPPH法による抗酸化活性は発芽24時間の種子で最も高くなった一方、ABTS法による抗酸化活性は非発芽の種子の方が発芽96時間の種子より高く、120時間ではさらに低下する傾向が見られました。論文では、全体として発芽時間が120時間まで延びるほど抗酸化活性との間に負の相関があったと総括されています。これらの結果を踏まえ、研究チームは機能性食品への応用を考えるうえで、フラボノイドと抗酸化活性のバランスが比較的良好な『発芽48時間』が有望な条件ではないかとしています。
この研究を読むうえでの注意点
この研究は、あくまで実験室条件下で特定の産地・条件の白ゴマ種子を用いて発芽時間ごとの成分変化を比較したものであり、発芽ゴマを食べることの健康効果を人において検証したものではありません。論文自体も、発芽をあまり長く続けると微生物の繁殖や色の劣化、抗酸化力の低下といった望ましくない変化が起こりうる可能性に触れており、加工条件の最適化が今後の課題として意識されています。今回の記事で紹介した数値や傾向は、この一つの研究で観察された結果であり、今後さらに異なる条件や品種での検証が必要とされる段階のものだと理解しておくのがよいでしょう。
まとめ
白ゴマ種子を発芽させると、脂質が減ってタンパク質や食物繊維が増えるといった一般成分の変化に加え、フラボノイドとポリフェノールというフィトケミカルの量が発芽時間によって逆方向に動くという、栄養加工としてはユニークな特徴が示されました。研究チームは、フラボノイドや抗酸化活性の観点から発芽48時間が食品への応用に適した条件になりうると述べていますが、これは限られた実験条件下での知見であり、今後の研究の積み重ねによってさらに検証されていくべきものです。
※本記事は原著論文の翻訳ではなく、研究内容を独自に解説したものです。参考文献:Oneeza Anwar, Iahtisham-Ul-Haq, Ramiz Arif, et al. Germination-Induced Variations in Proximate Composition, Phytochemical Profile and Antioxidant Activities of White Sesame Seeds: A Green Approach for Nutritional Modification. バイオテック (2026). DOI: 10.3390/biotech15030060.