この研究は、中国の研究機関の研究論文です。

掲載誌:Aquaculture nutrition

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: Europe PMC

なぜデンプンの量を調べたのか

魚のエサ(飼料)にかかる費用は、養殖の経営を左右する大きな要素です。デンプンなどの炭水化物は比較的安価なエネルギー源で、うまく利用できれば、タンパク質や脂質がエネルギーとして消費されるのを抑え、飼料コストを下げられると考えられています。ただし研究チームによれば、魚は家畜に比べて炭水化物を利用する効率が低く、利用のしやすさは魚種によって大きく異なります。摂りすぎれば成長や代謝、免疫、抗酸化のはたらきに悪影響が出ることも報告されています。

今回の対象であるヨウスコウチョウザメ(Acipenser dabryanus)は、中国の長江流域に分布する古い系統の魚です。乱獲や水質汚染、生息環境の悪化によって自然環境下の個体数が激減しており、人工繁殖技術が進んだ現在、資源回復のカギとして飼育・給餌管理の研究が重視されています。しかし著者らは、本種の飼料中デンプン量に関する知見はまだ乏しいと指摘しています。そこで本研究は、デンプンの配合量を変えたときに、消化酵素のはたらき、筋肉中のグリコーゲン量、抗酸化に関わる指標、糖の代謝に関わる酵素、そして筋肉の栄養成分がどう変わるかを体系的に調べることを目的としました。

どのように試験したのか

研究チームは、タンパク質と脂質の量をそろえた4種類の試験用飼料をつくりました。違いはトウモロコシデンプンの配合割合だけで、0%(T0)、10%(T10)、20%(T20)、30%(T30)の4段階です。タンパク源には魚粉とカゼイン、脂質には大豆油を用い、直径3ミリの粒状に加工しました。

試験には平均体重およそ262グラムのヨウスコウチョウザメ稚魚120尾を用い、4つの処理区に振り分けて12の水槽(1水槽10尾)で飼育しました。飼育期間は8週間(56日間)で、1日2回、満腹になるまで手で給餌しています。水温は約19.5度、pHは約7.3、溶存酸素は約6.8ミリグラム毎リットルに保たれました。試験終了後、麻酔をかけて体長・体重を測り、背側の筋肉などを採取して分析しています。

分析では、消化酵素(トリプシン、アミラーゼ、リパーゼ)の活性、糖代謝に関わる酵素の活性、抗酸化に関わる酵素(SOD、CAT、GSH-PX)の活性と、脂質が酸化された際に生じるMDAの量を市販キットで測定しました。あわせて、背筋の水分・粗タンパク質・灰分といった基本成分、アミノ酸組成、ガスクロマトグラフィー質量分析による脂肪酸組成を調べ、国際的な評価基準にもとづく指標で栄養面の質を評価しています。

報告された主な結果

まず消化のはたらきについて、論文はトリプシン活性には処理区間で有意な差がなかった一方、デンプン20%と30%の区ではアミラーゼとリパーゼの活性が0%・10%の区より高かったと報告しています。著者らは、消化酵素の活性を調整することで、本種は30%以下のデンプン量に対応できることを示唆すると述べています。

糖の代謝に関わる酵素では、筋肉中のHK、GK、PFK、PK、G6PDHの活性がデンプン量の増加にともなって有意に上昇しました。糖新生に関わるPEPCKには処理区間で目立った差はありませんでした。筋肉と肝臓のグリコーゲン量も、デンプン量が増えるにつれて顕著に増加しています。

抗酸化に関する指標では、デンプン量が増えるほど筋肉のSOD、GSH-PX、CATの活性が有意に高まり、逆にMDAの量は低下しました。とくに30%区ではSODとGSH-PXの活性が他区より高く、MDAは低い値を示したと報告されています。

一方で、筋肉の栄養成分には方向の異なる変化もみられました。デンプン量が多いほど筋肉の粗脂肪は有意に増え、粗タンパク質と灰分はデンプンを加えない0%区で他区より明らかに高い値でした。背筋からは23種類の脂肪酸が検出され、飽和脂肪酸の量に群間差はなかったものの、一価不飽和脂肪酸と多価不飽和脂肪酸はデンプン量の増加とともに減少し、総脂肪酸量も減りました。これにともない、動脈硬化指数(IA)と血栓形成指数(IT)は上昇し、多価不飽和脂肪酸の指標であるポリエン指数(PI)は低下する傾向が示されています。アミノ酸では、必須アミノ酸の割合を示す∑EAA/∑TAAと∑EAA/∑NEAAがデンプン量の増加とともに変化し、著者らはこれを、デンプンを増やすと体内の必須アミノ酸の比率が高まり、アミノ酸がエネルギー消費ではなく成長に振り向けられる「タンパク質節約効果」を支持するものと解釈しています。なお、4つのどの条件でもバリンが第一制限アミノ酸でした。

この研究が示すこと

著者らは結論として、20〜30%のデンプン添加がヨウスコウチョウザメ稚魚の代謝や免疫に関わる指標を高めうることを示し、養殖現場に有用な知見を提供したと述べています。同時に論文は、デンプンを増やすと筋肉に脂肪が蓄積し、不飽和脂肪酸が減ることで背筋の脂肪酸の質が低下する面も報告しており、代謝・抗酸化の面での利点と、肉質の面での変化が同時に生じることを示しています。

著者らは、稚魚の健康状態と飼料中デンプン量との関係についてはさらに注意を払い、適切な量を明確にする必要があると位置づけています。安価なデンプンをどこまで活用できるかを見極めることは、養殖の採算性だけでなく、この絶滅危惧種を人の手で安定して育てるための基礎としても意味を持つ、というのが本研究から読み取れる論点です。

著者:Yan T(Fisheries Research Institute, Sichuan Academy of Agricultural Sciences, Sichuan, 611731, China, chinawestagr.com.)、Xie Y(Fisheries Research Institute, Sichuan Academy of Agricultural Sciences, Sichuan, 611731, China, chinawestagr.com.)、Kuang X(Fisheries Research Institute, Sichuan Academy of Agricultural Sciences, Sichuan, 611731, China, chinawestagr.com.)、Wu T(Fisheries Research Institute, Sichuan Academy of Agricultural Sciences, Sichuan, 611731, China, chinawestagr.com.)、Zhou B(Fisheries Research Institute, Sichuan Academy of Agricultural Sciences, Sichuan, 611731, China, chinawestagr.com.; Fish Resources and Environment in the Upper Reaches of the Yangtze River Observation and Research Station of Sichuan Province, Chengdu 611731, China.)、Li Q(Fisheries Research Institute, Sichuan Academy of Agricultural Sciences, Sichuan, 611731, China, chinawestagr.com.)、Zhao F(Fisheries Research Institute, Sichuan Academy of Agricultural Sciences, Sichuan, 611731, China, chinawestagr.com.)、Li Q(Fisheries Research Institute, Sichuan Academy of Agricultural Sciences, Sichuan, 611731, China, chinawestagr.com.)、He B(Fisheries Research Institute, Sichuan Academy of Agricultural Sciences, Sichuan, 611731, China, chinawestagr.com.; Fish Resources and Environment in the Upper Reaches of the Yangtze River Observation and Research Station of Sichuan Province, Chengdu 611731, China.)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Yan T, Xie Y, Kuang X, et al. Effects of Dietary Starch Supplementation on Muscle Metabolism and Antioxidant Capacity, Fatty Acid and Amino Acid Composition of Juvenile Yangtze Sturgeon (<i>Acipenser dabryanus</i>). Aquaculture nutrition 2026-09-14. DOI: 10.1155/anu/7850039. 原著ライセンス:CC BY.