この研究は、中国の研究機関の研究論文です。
掲載誌:Foods
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
なぜ比べたのか
小麦と米以外の穀物は「雑穀(coarse grains)」とまとめて呼ばれ、アワ、オーツ麦、トウモロコシといった穀類、ソバやキヌアのような穀物に似た使い方をされる作物(疑似穀類)、緑豆やヒヨコマメなどの豆類が含まれます。乾燥重量の37〜80%程度を占めるデンプンがこれらの穀物の主成分であり、栄養面でも加工面でも性質を左右する鍵になると著者らは説明しています。
ただし、これまでの比較研究は個々の原料に着目したものが多く、分析方法や実験条件が研究ごとに違うため、異なる論文の数値を直接並べて比べることが難しかったと研究チームは指摘します。そこで本研究では、穀類(アワ、オーツ胚芽米、トウモロコシ)、疑似穀類(ダッタンソバ、白キヌア)、豆類(緑豆、赤インゲン、ヒヨコマメ、アズキ、黒インゲン)の10種類を選び、同じ手順・同じ条件でまとめて測定しました。粒の形から分子レベルの並び方、結晶の構造までを一続きに見て、それが糊化(加熱して糊状になること)、ゲル化、そして消化のされやすさといった性質にどうつながるのかを、分類群の内部と分類群どうしの両面から整理することが目的です。
どのように調べたか
市販の種子(2023年に中国・ウルムチの市場で購入)から、水挽きと沈降を用いた方法でデンプンを抽出しました。豆類は種皮をはがしやすくするため0.1%の水酸化ナトリウム溶液に浸してから脱皮・磨砕し、穀類と疑似穀類は粉砕・ふるい分けを行った後、ろ過・洗浄・エタノール処理・乾燥という共通の工程をたどらせて、試料どうしを比べられるようにしています。トウモロコシデンプンのみ市販品を対照として用いました。
測定は複数の手法を組み合わせています。電子顕微鏡で粒の形と大きさを観察し、赤外分光法で分子レベルの短い範囲の秩序の程度を、X線回折で結晶のタイプと結晶化度を調べました。熱量測定では糊化に必要な温度と熱量を、粘度測定装置とレオメーターでは加熱・冷却時の粘り方や流動特性を測定しています。
消化のされやすさは、試験管内で消化酵素(α-アミラーゼとアミログルコシダーゼ)を働かせる実験で調べました。反応開始から180分まで決まった時刻に液を取り分けて生じたブドウ糖の量を測り、20分までに分解された分を「速く消化されるデンプン」、20分から120分の間に分解された分を「ゆっくり消化されるデンプン」、120分後も残った分を「消化されにくいデンプン(レジスタントスターチ)」として、それぞれの割合を算出しています。あわせて、分解の進む速さを表す定数も求めました。
なお著者らは本研究の制約も明記しています。市販の原料を用いたため品種や収穫年が不明であること、試料量の都合でタンパク質や脂質といった残存成分を定量できなかったことです。そのため、これらの成分が粘度やゲルの硬さ、消化性に与えた影響を完全に除いて考えることはできないと述べています。
報告された主な結果
見た目では、トウモロコシとオーツ胚芽米のデンプンが最も明るく(明度の指標L*はそれぞれ96.57、96.17)、アズキデンプンが最も暗く(88.75)、赤みと黄みも強い値を示しました。著者らは、この赤みはアズキの種皮に含まれるアントシアニン色素がアルカリ浸漬などの工程で放出され、デンプン粒と結びついて残ったためではないかと考察しています。デンプンを構成する二種類の成分のうち、直鎖状の「アミロース」の見かけの含量は白キヌアの3.34%からオーツ胚芽米の21.81%まで幅がありました。
粒の形は分類群ごとにはっきり分かれました。緑豆・赤インゲン・ヒヨコマメ・アズキ・黒インゲンのデンプン粒は球形や楕円形で表面がなめらかであり、大小の粒が混じっていました。一方、アワ・オーツ胚芽米・ダッタンソバ・白キヌア・トウモロコシのデンプン粒は不規則な多角形で、豆類より小さく大きさもそろっていました。
結晶構造では、緑豆・ダッタンソバ・アワ・オーツ胚芽米・トウモロコシがA型、赤インゲン・ヒヨコマメ・アズキ・黒インゲン・白キヌアがC型と判定されました。豆類でありながらA型を示した緑豆については、先行研究と一致する結果だと述べられています。結晶化度はヒヨコマメが最も高く34.25%、アワが最も低く20.52%でした。
熱的性質では、赤インゲンデンプンがピーク温度75.27℃、終了温度83.83℃、糊化に要する熱量12.76 J/gと最も高い値を示し、より秩序だった構造をもち糊化に多くのエネルギーを要することを示唆しました。逆にダッタンソバとアズキは糊化の熱量が低め(5.59、5.06 J/g)でした。白キヌアは糊化の開始温度・ピーク温度が低く、著者らはきわめて低いアミロース含量と独特の粒の形が関係している可能性を挙げています。なお、結晶化度が最も高かったのはヒヨコマメである一方、糊化の熱量が最も高かったのは赤インゲンでした。著者らはこれを矛盾ではなく、X線回折が広い範囲の結晶の並び方を、熱量測定が分子の二重らせん構造をほどくのに要するエネルギーを見ているという、評価対象の違いとして説明しています。
粘度の面では、緑豆デンプンの最高粘度が9278 cPとトウモロコシデンプンのおよそ2倍に達し、他の雑穀デンプンよりも有意に高い値でした。著者らはこれを吸水性と膨らみの大きさによるものと述べ、増粘剤としての可能性に言及しています。加熱・撹拌でどれだけ粘りが崩れるかを示す指標は赤インゲンが最も低く、アワも低めで、熱と力に対する耐性が比較的高いと報告されました。冷えたときにデンプンが再び固まりやすい性質(老化)の目安となる数値は、赤インゲン、黒インゲン、ヒヨコマメがトウモロコシのおよそ3倍と高い値を示しました。また、すべての試料が、かき混ぜる速さを上げるほど粘度が下がる性質を示し、いずれの糊液でも弾性が粘性を上回る、やわらかいゲルの挙動が確認されています。ゲルの弾性の強さは、アミロース含量が高めの赤インゲンや黒インゲンで大きく、低めのダッタンソバやアズキで小さい傾向でした。
消化のされやすさについても、著者らは10種類すべてで速く消化される分・ゆっくり消化される分・消化されにくい分の割合と分解の速さを同じ条件で測定し、構造の指標との関係を統計的に検討しています。これにより、粒の形や結晶の秩序、糊化のしやすさといった構造面の特徴と、酵素による分解のされ方とを、同一のものさしの上で対応づけられるようになりました。
この研究が示すもの
同じ条件で10種類を並べたことで、著者らは分類群に特有の傾向と、分類群を越えて共通する構造と機能の関係を整理しました。豆類のデンプンは粒が大きくなめらかで、冷却時に固まりやすい傾向を示す一方、穀類・疑似穀類のデンプンは小さく角ばった粒で、性質もそれぞれに異なっていました。そして、結晶性と分子レベルの秩序が高いデンプンほど糊化に高い温度とエネルギーを必要とする、という一貫した傾向が複数の測定手法を通じて浮かび上がっています。
各研究で条件が異なるために比較が難しかった雑穀デンプンについて、構造から粘り方、消化のされ方までを共通のものさしで並べた一覧が得られたこと自体が、この研究の成果だといえます。粒の形や結晶のタイプ、糊化のしやすさ、粘りの出方といった違いを手がかりに、目的に合ったデンプンを選ぶための土台を提供するものです。
著者:Zulipiya Maimaiti(Institute of Crop Research, Xinjiang Academy of Agricultural Sciences, Urumqi 830091, China)、Hong‐Yan Mao(Institute of Crop Research, Xinjiang Academy of Agricultural Sciences, Urumqi 830091, China)、Hongnan Sun(Institute of Food Science and Technology, Chinese Academy of Agricultural Sciences, Beijing 100193, China)、Li Yue(Institute of Crop Research, Xinjiang Academy of Agricultural Sciences, Urumqi 830091, China)、Jiamin Wang(Institute of Crop Research, Xinjiang Academy of Agricultural Sciences, Urumqi 830091, China)、Tingting Zhang(Institute of Crop Research, Xinjiang Academy of Agricultural Sciences, Urumqi 830091, China)、Yueren Xu(Institute of Crop Research, Xinjiang Academy of Agricultural Sciences, Urumqi 830091, China)、Ming Yu(Institute of Crop Research, Xinjiang Academy of Agricultural Sciences, Urumqi 830091, China)、Taihua Mu(Institute of Food Science and Technology, Chinese Academy of Agricultural Sciences, Beijing 100193, China)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Zulipiya Maimaiti, Hong‐Yan Mao, Hongnan Sun, et al. Comparative Analysis of the Structural and Digestibility Properties of Starches from Ten Common Coarse Grains. Foods 2026-08-22. DOI: 10.3390/foods15172946. 原著ライセンス:CC BY.