この研究は、南アフリカの研究機関の研究論文です。

掲載誌:Journal of Food Measurement & Characterization

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

何のための研究か

デンプンは食品や医薬、化学などの分野で広く使われる素材ですが、そのままの状態(天然デンプン)では表面積が小さく、水に溶けにくく、香り成分や有効成分を内部に抱え込んで守る力にも限りがあると論文は説明しています。そこで注目されているのが「多孔質デンプン」です。これは粒の表面から内部に向かって微細な穴(ポア)が開いたデンプンで、著者らによれば、吸着力に優れ、無毒で安価な担体(成分を運び保護する素材)として利用が広がっています。

多孔質デンプンの作製法には酵素法、化学法、物理法などがありますが、著者らは、穏やかな条件で基質を選んで効率よく働く酵素法が最もよく使われていると述べています。ただしこれまでの研究の多くはトウモロコシ、ジャガイモ、コメといった一般的な原料が対象でした。豆類のデンプンはアミロースが多く、粒の形や結晶構造(豆類に多いC型)が異なり、酵素で分解されにくいという特徴を持ちますが、著者らは、酵素によって豆類デンプンに孔を作った報告はこれまでにないとしています。

そこで研究チームは、ササゲ(Vigna unguiculata)という入手しやすく安価な豆のデンプンを取り上げ、酵素で処理した多孔質デンプンの構造と物理化学的性質を調べました。著者らは、豆類デンプンから酵素法で多孔質デンプンを作った最初の報告だと位置づけています。

どのように調べたか

研究チームはまずササゲの種子を水に浸して皮を取り、粉にして脱脂した上でデンプンを分離し、凍結乾燥しました。次に、アミログルコシダーゼ(AMG)という、デンプンを分解してブドウ糖にする酵素を使い、デンプン1グラムあたり33単位と66単位の二通りの量で、50℃・pH4.0の条件で24時間反応させました。反応後はアルカリを加えて酵素の働きを止め、洗浄・凍結乾燥しています。得られた試料はそれぞれPS33、PS66と名づけられ、未処理の天然デンプン(NS)と比較されました。酵素量を変えたのは、処理の強さによって孔のでき方がどう変わるかを見るためです。

評価には複数の手法が組み合わされました。走査型電子顕微鏡(SEM)で粒の表面の見た目を観察し、X線回折(XRD)で結晶構造の割合を、赤外分光(FT-IR)で化学的な構造の変化を調べています。さらに、粒の大きさと表面の電気的性質(ゼータ電位、粒子どうしの反発の強さを示し、分散の安定性の目安になる指標)、加熱したときの糊化(デンプンが水と熱で崩れて糊状になる現象)の温度とエネルギー、アミロース量、膨潤力と溶解度、加熱時の粘度変化、そして水と油をどれだけ取り込めるかを測定しました。すべての測定は3回繰り返され、統計的に比較されています。

主な報告結果

電子顕微鏡では、天然デンプンの粒は比較的なめらかな表面をしていたのに対し、酵素処理した試料では表面に多数の孔が現れ、粒の形そのものは保たれていたと報告されています。酵素量が多いPS66のほうが、孔の大きさも表面の孔の多さも増していました。粒の大きさは処理によって小さくなり、天然デンプンの約5.99マイクロメートルに対し、PS33が3.80、PS66が2.86と報告されています。ゼータ電位は天然デンプンの-17.3ミリボルトからPS33で-23.4、PS66で-31.9へと絶対値が大きくなり、著者らは懸濁液の静電的な安定性が高まったと述べています。

X線回折では、いずれの試料も豆類に典型的なC型のパターンを示し、酵素処理後は相対結晶化度が上がりました。著者らはこれを、酵素が結晶部分ではなく非結晶(アモルファス)部分を優先的に分解した結果だと説明しています。赤外分光では新しい化学基が生じた様子はなく、酵素処理がデンプン分子の化学基の種類を変えていないことが示されました。一方で吸収の強さや、短距離秩序を反映する1047/1022 cm⁻¹の比が有意に上昇するなど、構造の秩序に関する変化が認められています。熱測定では、PS66で糊化の開始温度・ピーク温度と糊化エンタルピーが高くなり、著者らはこれを結晶化度の上昇と結びつけ、より高い加工温度に耐えうる素材だと述べています。

物理化学的な性質では、アミロース量が天然デンプンの25.67%からPS33で16.97%、PS66で11.90%へと減少しました。膨潤力は下がり、逆に溶解度は7.33%から両試料とも約28.6%へ大きく上昇しています。加熱時の粘度は、最高粘度やブレークダウン(加熱・撹拌による粘度の落ち込み)が処理により大きく低下し、著者らは、液状食品への利用に向くこと、また撹拌や加熱に対する安定性が高まったことを示すと解釈しています。吸着については、水と油のいずれも酵素処理で大きく向上し、天然デンプンの96.67%・75.33%に対し、PS33が234.67%・154.67%、PS66が260.67%・159.33%と報告されました。

この研究が示すこと

著者らは、ササゲという比較的活用の進んでいない豆のデンプンでも、酵素処理によって粒の形を保ったまま多孔質にできることを示しました。とくに酵素量の多いPS66では、孔が多く、粒が小さく、懸濁時の安定性と熱への耐性が高く、水と油の両方をよく取り込むという結果が得られています。水にも油にもなじむ成分を抱え込める点は、有効成分の担体としての可能性につながると著者らは述べています。

同時に、この研究はSEMで孔の存在を確認した段階であり、比表面積や細孔容積といった定量的な指標、より短い処理時間での孔の形成過程の検討は今後の課題として残されているとも記されています。それでも、多孔質デンプンの研究を穀類中心の枠組みから豆類へ広げ、その土台となる知見を示したことが、この報告の意味だといえます。

著者:Micael Iswalal(Department of Biotechnology and Food Science, Durban University of Technology, PO Box 1334, Durban, 4000, South Africa)、Viresh Mohanlall(Department of Biotechnology and Food Science, Durban University of Technology, PO Box 1334, Durban, 4000, South Africa)、John J. Mellem(Department of Biotechnology and Food Science, Durban University of Technology, PO Box 1334, Durban, 4000, South Africa)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Micael Iswalal, Viresh Mohanlall, John J. Mellem. Structural and physicochemical characterization of enzymatically hydrolyzed porous starch isolated from Vigna unguiculata. Journal of Food Measurement & Characterization 2026-08-27. DOI: 10.1007/s11694-026-04732-w. 原著ライセンス:CC BY.