著者の所属・活動拠点の国は、イラクです。
掲載誌:Journal of Biotechnology Research Center
ライセンス: CC BY 4.0 対象: 公開論文 確認元: 論文PDF
穀物を汚染するカビ毒の仕組みを整理
著者らは、穀物に感染するフザリウム属のカビが、どのような条件で毒素を作り、植物や人、動物にどう影響するのかを文献レビューで整理しました。新たな実験の報告ではなく、毒素が作られる分子レベルの仕組みや、環境条件、食品・飼料の汚染、健康影響について、既存の研究をまとめた論文です。
フザリウム属は、小麦やトウモロコシなどに感染し、フモニシン、トリコテセン類、ゼアラレノンなどのカビ毒を作ります。論文は、こうした毒素が農作物の病気に関わるだけでなく、食品や飼料を通じて人や動物の健康にも関わる問題だと説明しています。
毒素の生成を左右する環境と栄養
レビューでは、温度、水分の利用しやすさ、酸性・アルカリ性の程度、栄養状態などが、毒素の生成を左右すると整理しています。また、カビと植物の相互作用で生じる酸化ストレス、つまり反応性の高い酸素によって細胞が傷つきやすくなる状態も、重要な要因として取り上げています。
紹介された培養実験では、過酸化水素などを加えると、トリコテセン類のデオキシニバレノール(DON)などの生成が増えました。一方、過酸化水素を分解する酵素カタラーゼの添加は、トリコテセン類の蓄積や、その合成に関わる遺伝子の働きを抑えたと報告されています。
植物由来の成分の影響も一様ではありません。論文が取り上げた研究では、ニンニク、エンドウ、アスパラガス、トウモロコシの抽出物がフモニシンの生成を減らした一方、パイナップルの抽出物は生成を増やしました。これらは、植物に含まれる成分や栄養条件も毒素の生成に関わることを示す報告です。
健康影響は毒素と証拠の種類を分けて捉える
健康影響について、論文はフモニシンによる動物の被害を紹介しています。豚では肺に液体がたまる肺水腫が報告され、精製したフモニシンの投与でも症状が再現されています。一方、人では、フモニシンに汚染されたトウモロコシの摂取と食道がんとの関連が報告されているものの、この病気の原因として明確に確定しているわけではないと整理しています。
また、細胞を使った試験で毒性が認められることと、食品から実際に摂取する量で健康被害が起こることは区別されています。ボーベリシンやエンニアチン類では、細胞への毒性が報告される一方、レビューが引用した評価では、推定された曝露量で人の健康を懸念する理由はないとされ、リスクにはなお不確実性があると説明されています。
このレビューが伝えるのは、カビ毒の問題を理解するには、カビの存在だけでなく、毒素を作る条件、毒素の種類、実際の曝露量を合わせて捉える必要があるということです。
原著論文の著者・所属:Zainab W. Abdulameer(Biotechnology research center, University of Al-Nahrain, Baghdad, Iraq)、Amaal S. Naji(Department of Biotechnology, College of Science, University of Baghdad, Baghdad, Iraq)、Ali J.R. AL-Sa’ady(Department of Biotechnology, College of Science, University of Baghdad, Baghdad, Iraq)、Sumaya Saady(Biotechnology research center, University of Al-Nahrain, Baghdad, Iraq)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Zainab W. Abdulameer, Amaal S. Naji, Ali J.R. AL-Sa’ady, et al. Mycotoxins Produced by Fusarium spp.: Biosynthesis and Health Impact. Journal of Biotechnology Research Center 2026-11-01. DOI: 10.24126/jobrc.2026.20.2.942. 原著ライセンス:CC BY.