著者の所属・活動拠点の国は、タイです。

掲載誌:Applied Food Research

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

調理温度による変化を分子の動きから調べる

研究チームは、鶏肉の筋肉タンパク質が低温調理と沸騰加熱でどのように異なる構造変化をたどるかを調べました。調理方法が肉の食感や品質に関わる仕組みを、分子のレベルで理解することが目的です。

対象は、筋肉を構成するアクチンとミオシンが結びついた「アクトミオシン複合体」です。分子の動きをコンピューター上で追う分子動力学シミュレーションを用い、室温の27℃、低温調理に対応する60℃、65℃、70℃、沸騰加熱に対応する100℃で、構造の安定性を比較しました。

低温調理と沸騰加熱で異なる構造変化

研究チームの報告では、65℃と70℃の低温調理条件で、タンパク質のらせん状の構造である「αヘリックス」が徐々に減少しました。一方、折り畳まれたシート状の構造である「βシート」の割合は、変性前と同程度に保たれました。著者らは、これを大規模なβシートの凝集を伴わず、タンパク質が徐々にほどける変化と解釈しています。

100℃の沸騰条件では、αヘリックスの減少は低温調理条件より小さい一方、βシートが顕著に増加しました。著者らは、水になじみにくい部分が集まって構造が縮まり、局所的な構造が閉じ込められるため、らせん構造の一部が残ると説明しています。

また、沸騰条件ではアクチンとミオシンの接触が減り、両者がつくる繊維状構造の解離を示す結果が得られました。低温調理条件では接触がより多く保たれ、複合体の構造が維持されていることが示されました。

構造が保たれるかは、らせんの量だけでは決まらない

著者らは、低温調理では分子内部の構造が徐々にほどける一方、沸騰加熱ではβシートの形成を伴う急速な凝集と構造の崩れが進むという、異なる変性経路を報告しています。この研究は、調理温度によって筋肉タンパク質の変化の進み方が異なることを、分子シミュレーションから示したものです。

原著論文の著者・所属:Borvornwat Toviwek(Department of Chemistry, Faculty of Science, Kasetsart University, Chatuchak, Bangkok, 10900, Thailand)、Prapasiri Pongprayoon(Center for Advanced Studies in Nanotechnology for Chemical, Food and Agricultural Industries, KU Institute for Advanced Studies, Kasetsart University, Bangkok 10900, Thailand; Department of Chemistry, Faculty of Science, Kasetsart University, Chatuchak, Bangkok, 10900, Thailand)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Borvornwat Toviwek, Prapasiri Pongprayoon. Comparative studies of structural integrity and dynamics of chicken actomyosin complex under sous-vide and boiling conditions: A molecular dynamics study. Applied Food Research 2026-09-01. DOI: 10.1016/j.afres.2026.102564. 原著ライセンス:CC BY.