この研究は、インド、イギリスの研究機関の研究論文です。
掲載誌:Food Hydrocolloids
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
何を目的とした研究か
キビ(プロソミレット)の粉は、栄養面でも機能面でも活用が期待される持続可能な穀物素材です。ただし食品として使うとき、口当たりのなめらかさに関わる「潤滑性」は素材の性質に左右されます。研究チームは、溶剤を使わない加工法である高エネルギーボールミル処理によって、キビ粉の懸濁液(15% w/v)の摩擦特性(トライボロジー特性)を改善できるかを調べました。
ボールミル処理とは、容器の中で硬い球を高速で動かし、粉の粒子を衝撃で細かく砕く方法です。研究チームは投入エネルギーを2水準に設定し、粉1グラムあたり31ジュールの条件(BM-31)と62ジュールの条件(BM-62)を比較しました。トライボロジーとは、物体同士が接触してすべるときの摩擦を扱う分野で、食品では舌と口の中の表面がすべる感覚と関係づけて調べられます。
どのように調べたか
論文では、フーリエ変換赤外分光(FTIR)とX線回折(XRD)で粉の分子構造や結晶のような規則的な構造の状態を調べ、レオロジー(流動特性)とトライボロジー(摩擦特性)で分散液の流れ方とすべり方を測り、さまざまな大きさのスケールで顕微鏡観察を行ったと報告されています。これらを組み合わせることで、構造の変化、水との馴染みやすさ(水和)、そして摩擦のふるまいがどう結びついているのかを読み解こうとしています。
報告された主な結果
著者らによれば、2つの条件のうちBM-31で粒子径の減少と規則的な構造の乱れが最も大きく、未処理のキビ粉と比べて冷水への溶けやすさが約10倍、膨潤力(水を吸って膨らむ力)が約3倍に増えました。水和が高まったことで分散液全体の見かけ粘度が上がり、やわらかく水を含んだ粘性のある吸着膜がつくられ、荷重を支える潤滑層として働いて摩擦が下がったと説明されています。
具体的な数値として、すべりの速さ(巻き込み速度)0.005 m/sの条件で、未処理のキビ粉は摩擦係数μ = 0.56、推定最小膜厚hmin = 0.05 μmでしたが、BM-31ではμ = 0.03、hmin = 0.69 μmとなり、摩擦係数は1桁小さく、膜厚はより大きくなったと報告されています。さらにBM-31の試料では濃度による潤滑性の違いが強く現れ、摩擦のふるまいは水和の性質だけでなく粒子の濃度にも左右されることが示されたとしています。
この研究が示す意味
論文の結論として、粒子径・構造の規則性・水和能力を調節することを通じて、条件を制御したボールミル処理が穀物粉の潤滑性を高める有効な手段になりうると述べられています。エネルギー投入量は大きいほどよいわけではなく、より低い31 J/gの条件で最も大きな変化が得られた点も、この報告の要点です。溶剤を用いずに粉そのものの構造に働きかけるという発想が、穀物素材の物性を扱ううえでの一つの手がかりとして示されたといえます。
著者:Kadavakollu Subrahmanyam(Department of Food Process Engineering, National Institute of Technology, Rourkela 769008, Odisha, India)、Simha Sridharan(Food Colloids and Bioprocessing Group, School of Food Science and Nutrition, University of Leeds, Leeds, LS2 9JT, UK)、Ben Kew(Food Colloids and Bioprocessing Group, School of Food Science and Nutrition, University of Leeds, Leeds, LS2 9JT, UK)、Khalid Gul(Department of Food Process Engineering, National Institute of Technology, Rourkela 769008, Odisha, India)、Anwesha Sarkar(Food Colloids and Bioprocessing Group, School of Food Science and Nutrition, University of Leeds, Leeds, LS2 9JT, UK)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Kadavakollu Subrahmanyam, Simha Sridharan, Ben Kew, et al. Controlled ball milling enhances the lubrication performance of proso millet flour dispersions. Food Hydrocolloids 2026-09-01. DOI: 10.1016/j.foodhyd.2026.113387. 原著ライセンス:CC BY.