この研究は、中国の研究機関の研究論文です。
掲載誌:Foods (Basel, Switzerland)
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: Europe PMC
研究の目的
ワキシーコーン(もちとうもろこし)は中国原産の作物で、枝分かれの多いデンプン(アミロペクチン)や食物繊維、ビタミン、ミネラルを含み、もちもちとした食感で幅広い年代に好まれています。しかし研究チームによれば、その加工品は冷凍の穂や真空パックの粒に偏っており、深い加工による高付加価値の商品が少ないことが課題として残っています。
市販のインスタント穀物粉には、熱湯を注ぐと粒子が固まって「ダマ」になりやすいという問題があります。製造側はこれを防ぐために固結防止剤を加えたり、水素添加植物油を主体とする粉末油脂(クリーミングパウダー)を配合したりしますが、著者らは、こうした添加物への依存を避けたいという背景を挙げています。そこで本研究は、添加物を使わず、押出加工という物理的な処理だけで粉自体の構造を変え、湯戻し性能を高められるかを検討しました。あわせて、加工条件と粒子サイズ、そして粉の微細構造がどう結びついて湯戻しの挙動を決めているのかを明らかにすることを目的としています。
何をどう調べたか
著者らは、河北省秦皇島産の黄色ワキシーコーンの胚乳を製粉した粉を原料に、二軸エクストルーダー(二本のスクリューで材料に熱・圧力・せん断を同時に加える装置)で処理しました。押出加工とは、加熱された筒の中で材料を練りながら押し出す方法で、デンプンを糊化させ、多孔質の膨化物をつくります。条件は、筒の温度3水準(140・160・180℃)と、原料に加える水分3水準(12・15・18%)を組み合わせた計9通りです。論文では、これは条件の比較・選抜のための設計であり、統計的な最適化を行ったものではないと明記されています。
押し出した膨化物は乾燥・粉砕したうえで40〜80メッシュのふるいで分け、80℃の湯に分散させたときの「ダマになった量の割合(ケーキング率)」と、静置後に上澄みの澄んだ層が液柱全体に占める高さの割合(上澄み分離率K、低いほど分離が少なく懸濁が安定)を測定しました。さらに選んだ試料について、成分分析、電子顕微鏡による表面観察、粒度分布、X線回折による結晶構造、赤外分光による分子環境、示差走査熱量測定(DSC)による熱的性質、吸水指数、レオロジー(粘弾性)、色を調べ、構造の変化と粉の性能を結びつけて検討しています。
主な報告結果
まず粒子サイズについて、著者らは、粗い粉はダマになりにくい一方で懸濁しにくく、非常に細かい粉は分散しやすい反面、表面積が大きいため凝集しやすいと報告しています。両者の折り合いがよかった60メッシュ画分を以降の比較に固定しました。60メッシュでのケーキング率は処理条件によって差があり、140℃・水分15%で2.66%と比較的高かったのに対し、160℃では3条件とも0.14〜0.16%と一様に低く、180℃でも0.13〜0.60%と概ね低い値でした。ただし温度を上げれば一律に下がるわけではなかったと述べられています。上澄み分離率は140℃で8〜20%、160℃で8〜11%、180℃で4〜11%の範囲にあり、180℃・水分15%の試料が最も分離が少ない結果でした。著者らはこれらの傾向から、180℃の3条件を代表試料として選びましたが、これは最適条件を決定したものではないと断っています。
構造面では、未処理の粉が滑らかな多角形・楕円形のデンプン粒子からなっていたのに対し、押出処理後はその粒子構造が消失し、多数の細孔や亀裂をもつ不規則な薄片状の組織に変化していました。一方でX線回折のパターンは処理前後で同じ位置にピークを示し、ワキシーコーンデンプンに特有のA型結晶構造が保たれていました。相対結晶化度も35.21〜36.40%の範囲で試料間に有意差はなく、赤外分光でも新たな主要なピークの出現は認められていません。つまり、処理は粒子の物理的なまとまりを壊した一方、結晶の並び方そのものを大きく作り替えてはいなかったことになります。
湯戻しに直結する性質としては、DSCで測った糊化の吸熱量が未処理の8.54 J/gから押出後は約1.0 J/gへ大きく低下し、すでに多くのデンプンが糊化していたことが示されました。吸水指数は未処理の0.62に対し押出後は4.24〜7.45へと有意に増加し、約7〜12倍にあたります。投入水分が高いほど値が大きく、180℃・水分18%で最大の7.45でした。また、湯で戻した粥状の試料はいずれも粘性が優勢な性質を示しましたが、押出試料は未処理より貯蔵弾性率・損失弾性率ともに高く、より濃密な水和ネットワークを形成していたと解釈されています。色については明度L*が91.03から85.57へ、b*が40.27から36.08へ下がり、a*は−8.50から2.47へ上昇して、黄色みがやや弱まりました。著者らは、この変化は非酵素的褐変やカラメル化、色素の分解などが関わる可能性を挙げつつ、メイラード反応に固有の指標は測定していないため特定の化学反応を断定できないとしています。
この研究が示すこと
この研究は、二軸押出加工と粉砕後の粒度の選択を組み合わせることで、化学的な添加物を使わずに黄色ワキシーコーン粉の湯戻し性を改善できることを報告しています。電子顕微鏡で見える多孔質構造の形成、熱測定が示す糊化の進行、そして大きく高まった吸水性が、ダマのできにくさや懸濁の安定と結びついていた、という構造と機能のつながりが示された点が中心的な成果です。
同時に著者らは、温度や水分を変えても結果が単調には変化しなかったこと、180℃の条件はあくまで選抜した代表例であって最適化されたものではないことを繰り返し述べています。また、加工中に加わったエネルギーの実測、消化性や栄養価の評価、官能評価、保存安定性、工業規模での検証などは本研究では行われていない限界として挙げられています。素材が本来もつデンプンやタンパク質の構造を物理的な処理だけで変える、という発想の手がかりを示した研究といえます。
著者:Guo H(Shanxi Institute for Functional Food, Shanxi Agricultural University, Taiyuan 030031, China.)、Zhang Z(Maize Research Institute, Shanxi Agricultural University, Xinzhou 034000, China.)、Cheng Z(Shanxi Institute for Functional Food, Shanxi Agricultural University, Taiyuan 030031, China.)、Li Q(Shanxi Institute for Functional Food, Shanxi Agricultural University, Taiyuan 030031, China.)、Li Y(Shanxi Institute for Functional Food, Shanxi Agricultural University, Taiyuan 030031, China.)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Guo H, Zhang Z, Cheng Z, et al. Effect of Extrusion Processing on the Instant Properties and Structural Characteristics of Yellow Waxy Corn Flour. Foods (Basel, Switzerland) 2026-08-25. DOI: 10.3390/foods15172974. 原著ライセンス:CC BY.